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 昭和37年版 犯罪白書 第三編/第二章/四 

四 少年院の問題点

 少年院における処遇の状況は,右に述べたとおりであるが,その処遇の効果は,一般的にいえば,必ずしも満足なものとはいい得ない。これは,現在の少年院に多くの隘路があって,これが効果を挙げることを困難にしているからである。
 その第一は,少年院の建物の多くが老朽化しているかまたは不適当なものであるということである。少年院は昭和二四年一月一日から急拠全国に整備しなければならないことになり,十分な準備期間をおかずに発足しなければならない事情にあったために,とりあえず旧軍用の施設や旧保護団体の施設の転用をはかって,まがりなりにも急場を間に合わせたのであるが,その後これらの施設の改築が十分に行なわれていないため,その建物は老朽化したものや不適当なものが今なお多いのである。昭和三六年末現在において,少年院の施設六一のうち,少年院として新築されたものは一四にすぎず,旧軍用施設を転用したままのものが一一,旧保護団体の施設を転用したままのものが二五,旧学校の転用が三という具合に,本来の少年院として建築されたものが少ない。居住の環境は,とくに少年に対して影響するところが少なくない点から,これらの老朽または不適当な施設の改築をはかり,適当な環境の下にその処遇を行なう必要がある。
 第二は,少年院は前述のように収容少年に対して各種の教科教育,職業補導,職業教育,生活指導等を行なっているが,その職員数が十分でないとともに,それぞれの分野の専門知識をもっている者を配置することかできないため,一人数役といった具合に過重な負担を科しており,満足な指導がなされていないことである。
 第三は,非行性の極度に進んだ少年が少年院とくに特別少年院に送致されることがあるが,この種の少年が収容されると,その施設の他の少年に影響力が強く,このため他の少年がこれに同化されるおそれがあり,また,この種の少年のために,その施設で行なう処遇全般が阻害されたり,破壊されたりすることがある。すなわち,少数の処遇困難な少年のために全般が犠牲になるということである。
 そこで,今後の少年院のあり方として考慮されることは,施設の整備,職員の増強はもとより,少年院の特殊化ないし専門化の問題である。現在の少年院は,前述のように,特別,中等,初等,医療の四種類に分かれているが,この種別が果たして妥当かどうか疑問がある。少年の資質を科学的に調査分類し,それぞれの少年に対して最も適した処遇を行なうよう少年院の特殊化をはかる必要がある。たとえば,右のような非行性の極度に進んだ者や処遇困難な少年を収容するもの,学校教育を中心とするもの,職業訓練を中心とするもの,職業補導を中心とするもの,精神薄弱または精神病質者を中心とするもの,精神病その他精神障害者を中心とするもの,身体障害者を中心とするもの等に特殊化ないし専門化して,これらの特殊化された少年院にそれぞれの少年を収容処遇して,その効率化をはかる必要があるとおもわれる。また,長期間収容する必要の認められない,比較的非行性の浅い少年に対しては,短期少年院の新設も考慮すべきであろう。