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 昭和37年版 犯罪白書 第二編/第一章/二/5 

5 教育

 受刑者の教育は,入所時および出所時教育,教科指導,通信教育,生活指導,視聴覚教育,宗教教誨,篤志面接委員による助言指導,職業教育,体育およびレクリエーション指導などである。しかし,わが国の受刑者の処遇は,作業の賦課が法律上義務づけられているので,教育活動は原則として作業の時間外に行なわれている。

(一) 入所時および出所時の教育

 入所時教育は,前述したとおり,オリエンテーション・プログラムにくみこまれているが,出所時の準備教育は,矯正教育の仕上げとして,復帰する社会の事情,出所に関する諸手続,更生援護,職業安定および民生福祉などの各事業とその連絡の方法,出所にあたっての心身の調整などを目標に,およそ出所前一〇日間をあてて行なっている。

(二) 教科教育

 受刑者の学歴は,昭和三五年の新受刑者四一,〇〇八人についてみると,不就学のものが七二一人(一・八%)で,そのうち読み書きの全くできないものが三九八人いる。また,小学校未終了者は二,二四四人(五・五%),小学校のみの終了者は七,七二二人(一八・八%),中学校の中退者は五,四二三人(一三・二%)で,学力程度の低いものが少なくない。そこで,これらの者にできるだけ必要な教科教育を行なうこととしている(II-15表参照)。

II-15表 新受刑者の犯時学歴別人員と率(昭和35年)

(三) 通信教育

 通信教育が初めて採用されたのは昭和二五年であって,当初は少年刑務所および女子刑務所の一部に試行されたにすぎなかった。しかし,昭和二八年から全国的に実施されるようになった。
 昭和三五年四月から昭和三六年三月までに通信教育を受けている成人受刑者の数は,公費生一,二二七人,私費生五五三人である。公費生とは,受講料を国費でまかなう者をいう。昭和三五年における通信教育の状況は,II-16表のとおりであって,同年から大学の通信教育が認められ,この教育を受けるものが,公費,私費をあわせて二一九人に達している。

II-16表 受刑者中の通信教育受講人員(昭和35年)

(四) 生活指導

 受刑者に最も欠けているのは,社会生活における正しい態度であると考えられている。規則正しい生活や勤労の喜び,共同生活の意義を全く理解していないものが少なくないので,日常の生活指導もまた矯正教育の重要な仕事の一つとなっている。ことに平日の夜間や休日に行なわれているグループ活動は,職員からだけでなく,民間の学識経験者からも指導を受け,効果をあげているといわれている。

(五) 宗教教育

 戦前では,国家の公務員であった教誨師によって全受刑者に対して宗教教育が行なわれてきたが,昭和二二年実施の現行憲法によって国家および国家機関による宗教教育が禁止されたので,その後はすべて民間の宗教家により受刑者のうちの希望者に対してのみ行なわれることになった。
 現在受刑者の希望に応じて刑務所に来訪する宗教家は,全国を通じて一,〇九四人に達し,これらの人達は,日本宗教連盟内にもうけられた宗教教誨委員会の推せんによったものである。また,受刑者のうちで宗教教誨を希望するものは,II-17表のとおり,七三・五%に達し,このうち仏教が最も多く四一・六%,キリスト教がこれに次いで一四・五%である。

II-17表 宗数教誨希望人員と率(昭和36年末現在)

(六) 体育およびレクリエーション

 刑務所における体育は,監獄法施行規則によって,雨天のほか毎日三〇分以上戸外運動をさせるということ以外には,現在のところ行なわれていないし,また別に制式も定められていない。しかし,最近受刑者の健康の増進をはかり,作業能率をあげるために,毎日作業時間中に午前・午後の適当な時間に一回三分以内で実施できる業間体操を制定し,実施している。
 また,レクリエーションとしては,スポーツ,映画,演芸,音楽,囲碁,将棋,読書などが実施されている。このうち図書については,民間の有識者の協力を得て「教化用図書審議会」をもうけ,図書の選定と図書室の運営の改善に関する意見を求めその改善を図っている。昭和三五年末の図書の保有量は,三六八,〇八四冊となっているが,受刑者の読書欲をみたすには少なすぎる現状である(II-18表参照)。

II-18表 看読図書保有数(昭和35年末現在)

 そこで,社会を明るくする運動などを利用して,広く民間有志からの寄贈を仰ぐ一方,時事解説紙「人」(旬刊),青年受刑者向教養誌「港」(季刊)を発行して全刑務所に配布している。また各刑務所で発行している受刑者向けの部内誌も現在六〇種をかぞえ,これらの編集,印刷には受刑者が参加している。
 このような出版物とともに,最近注目されてきたものに放送がある。中央では法務省の企画によってほとんどの施設には各居室に拡声装置が備えつけられ,毎週月,水,金の午後六時三〇分から一五分間日本短波放送により全国矯正施設向けの放送番組を流している。この結果,放送に対する関心がたかまり,各施設においても自主的な番組を編成して流しているところが少なくない。

(七) 篤志面接委員制度

 この制度は,イギリスのプリズン・ビジターの制度にならい,昭和二八年に発足した。この制度のねらいは,拘禁に伴う心身のストレスや国家権力ないしそれを代表するものとしての刑務所やその職員に対する憤懣,不信の念あるいは将来に対する不安の念などを外部の有識経験者の直接の働きかけを通じて除去するとともに,適当な助言指導を行なおうとするものである。昭和三六年末現在の篤志面接委員の数は,一,〇二八人で,その専門分野は,宗教が最も多く,このほか更生保護,社会福祉,文芸,教育などの専門家がこれに加わっている。これらの面接委員は,昭和三六年には一人あたり四・八回施設を来訪し,九・七人の受刑者に集団または個人面接を行なっている(II-19表参照)。

II-19表