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 昭和37年版 犯罪白書 第一編/第五章/四 

四 罪名別からみた累犯者,再入受刑者

 まず,ある年度に刑務所に新入した者(新入受刑者)を罪名別にみて,どの罪名に累犯者が多いかをみると,I-92表のとおりである。これによると,昭和三三年から昭和三五年までの新入受刑者のうち累犯者の占める比率の高いものは,刑法犯では,住居侵入(七七・一%),賍物関係(七〇・五%),窃盗(六四・三%),詐欺(五九・〇%),傷害(五七・六%),恐喝(五三・六%)であって,これらは累犯者が半数をこえている。

I-92表 罪名別新入受刑者のうち累犯者の占める人員と率等(昭和33〜35年累計)

 特別法犯では,麻薬取締法違反が六〇・二%,銃砲刀剣類等所持取締法違反が五八・八%,暴力行為等処罰法違反が五六・八%で,これらの罪種は累犯者の占める比率が高い。
 これを新受刑者のうち刑務所への入所度数三回以上のものについてみると,刑法犯では,住居侵入(六〇・四%),賍物関係(四九・二%),窃盗(四五・八%),詐欺(四三・三%)が高率を示し,特別法犯では,銃砲刀剣類等所持取締法違反(三八・六%),麻薬取締法違反(三八・二%),暴力行為等処罰法違反(三七・六%)が高率を示している。これらの点からみると,累犯または常習犯的傾向が顕著な罪種は,刑法犯では窃盗その他の財産犯,特別法犯では麻薬または暴力的犯罪と関連のあるものと一応いえるであろう。
 もっとも,右の統計は,同じ犯罪が同一人によってくり返されたということを示すものではない。累犯者のなかで同種犯罪をくり返す場合には,常習犯とよばれている。そこで,どのような犯罪が同一人によってくり返されているかをみるために,再入受刑者について,前刑の罪名と再入刑の罪名とが同一のものがどの程度あるかをみると,I-93表のとおり,昭和三一年から昭和三五年までの平均では,罪名の一致度の比率の高いものは,窃盗の八二・五%,詐欺の五二・七%,賭博富くじの四一・三%,傷害の三三・九%である。また,昭和三五年において従来の昭和二六-三〇年,三一-三五年の平均より一致度の高くなったものに,詐欺,傷害,横領,恐喝がある。以上のことから,財産罪とくに窃盗,詐欺について常習犯化が強く,また,傷害,恐喝などの暴力的犯罪に常習犯化のきざしがうわがわれるということができるであろう。なお,特別法犯については,麻薬取締法違反(四〇・六%),覚せい剤取締法違反(三四・六%),売春防止法違反(二九・二%)などに顕著なくり返しを認めることができる。

I-93表 再入受刑者の再入刑罪名と前刑罪名との関係(同一罪名の%)(昭和26〜35年)

 次に,再入刑の罪名と前刑の罪名とがどのような組合せで構成されているかをみるために,再入刑の罪名を中心として前刑の罪名と組合せをみたものと,前刑の罪名全中心に再入刑の罪名との組合せをみたものとを掲げると,付録-6表のとおりである。これらの統計で明らかにされることは,ほとんどすべての再入刑のうちで,前刑の罪名と一致していない場合には,窃盗が前刑の罪名として重要な役割を果たしていること,さらに,強盗,殺人,恐喝,傷害,詐欺などの罪質の異なった罪名が相互にかなり高い関連性をもって組み合わされていることである。これは,最近の再犯が,目的のためには方法を選ばず,機会に応じて豹変する傾向をもっていることによるものではないかとおもわれる。また,特別法犯については,再入刑と前刑の罪名の一致しないものは,窃盗が多いが,このほか,傷害,恐喝との組合せも少なくない。これは,麻薬,覚せい剤,売春などの犯罪には暴力組織を背景としたものが少なぐないためとおもわれる。
 なお,東大脳研究所で行なった四〇歳以上の男女の累犯者に関する調査によると,同一人が犯罪をくり返す場合には,男子は単一方向(たとえば,窃盗のみをくり返すというように単一の犯罪をくり返す傾向)をとるよりも,同種方向(たとえば,財産罪の窃盗,詐欺をくり返すというように同一罪種に属す二つ以上の犯罪をくり返す傾向)をとるものが多いが,女子の場合は単一方向をとるものが圧倒的に多いことが明らかにされている(I-94表参照)。この場合同一罪種とは,財産犯(窃盗,詐欺,横領,強盗,恐喝など),暴力犯(殺人,傷害,公務執行妨害,脅迫など),風俗犯(強姦,猥せつなど),隠秘性破壊犯(放火,列車妨害,建造物破壊,溢水など),逃走犯の五種としており,異種方向とは,これらの罪種の二つにわたる場合をいい,また,多種方向とは,罪種が三つ以上にわたる場合を指している。

I-94表 累犯者の犯罪傾向別人員と率