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 昭和37年版 犯罪白書 第一編/第三章/三/3 

3 交通犯罪の処理状況

 まず,検察庁における道交違反の処理状況をみると,I-51表にみるように,起訴率は昭和三〇年以降上昇をつづけ,昭和三五年にはその前年よりやや下がったが八六・五%という高率を示している。この起訴率は,麻薬取締法違反の八二・二%を上回る最高のものといえよう。次に起訴の内訳であるが,公判請求をするものは,起訴総数の〇・〇五%にすぎず,この傾向は昭和三〇年以降変わっていない。略式命令請求は,昭和三五年には起訴総数の八四・六%を占めているが,この比率は昭和三一年以降増加している。道交違反を簡易かつ迅速に処理するために昭和二九年より即決裁判手続が実施されたが,その実績は必ずしも満足なものとはいえない。昭和三〇年は実施早々のことであるから,七・六%は致し方がないとしても,昭和三一年に二〇・一%に増加したが,それ以降は毎年減少し,昭和三五年には一五・三%となっている。これは,即決裁判手続が,大量の道交違反を処理するためには,略式命令手続よりも,簡易かつ迅速に処理できない場合が多いためとおもわれる。

I-51表 道路交通取締法令違反の検察庁処理人員と率(昭和30〜35年)

 次に業務上過失致死傷の検察庁処理状況をみると,I-52表にみるように,起訴率は,昭和三〇年以降上昇しつづけ,昭和三五年には七六・三%となっている。刑法犯の平均起訴率は五六・二%(昭和三五年)であるから,平均起訴率を上回るかなり高率のものといえる。起訴の内訳は,略式命令請求が圧倒的に多く,昭和三〇年以降九七ないし九八%を占め,公判請求はわずかに二%強にすぎない。しかし,処理人数の増加に伴って,昭和三五年の公判請求人員は二,一〇三人であって昭和三〇年の約二・六倍に及んでいる。略式命令請求が多いということは,業務上過失事件が主として罰金刑で処理されていることを意味するが,このような傾向に対しては検討を要するものがあるといえよう。

I-52表 業務上過失致死傷の検察庁処理人員と率(昭和30〜35年)

 少年の道交違反の処理状況をみると,I-53表にみるように,「検察官に逆送」が昭和三〇年の三・九%から昭和三五年の一〇・三%へと著しい増加を示している。これは主として家庭裁判所が刑事処分相当と認めて検察官に送致した事件の増加を意味する。したがって,逆送されたものは,検察官によって刑罰を請求する手続がとられるわけであり,少年の道交違反者に対しても刑罰を科せられる比率が増大していることを物語っている。しかし,道交違反の大半は,審判不開始または不処分であって,昭和三五年には総数の八二・七%に及んでいる。道交違反において少年の占める比率が増加している今日,これをどのように処理したらよいか,換言すると,違反少年に対してどのような処遇をしたらよいかは,一つの問題であって,審判不開始または不処分が妥当な措置であるかどうかは,検討の余地があるが,保護観察処分に付せられる者がその実数において増加をしていることは注目されなければならない。道交違反の性質上,刑法犯に対するような保護観察方法が適当でないことはいうまでもないが,保護観察の方法に工夫を加え,道交違反者に適するような措置を考慮すれば,保護観察処分をもっと活用することが可能となろう。

I-53表 道路交通取締法令違反の家庭裁判所の終局決定人員と率(昭和30〜35年)

 次に,少年の業務上過失致死傷の処理状況をみると,I-54表に示すように,昭和三五年においては,終局決定総数の五〇%が審判不開始または不処分であり,三八・三%が検察官への逆送である。検察官への逆送は,主として刑事処分を相当としたものであるが,この率は,昭和三〇年の一九・一%から飛躍的に増加し,昭和三五年には三八・三%となったものである。刑事処分を相当とする率が増えたことは,業務上過失致死傷に対する家庭裁判所のきびしい態度のあらわれということができよう。審判不開始および不処分の率は,これに反して減少の傾向にある。すなわち,昭和三〇年の約七二%から漸次減少して昭和三五年の五〇%となった。保護観察処分は,その実数は昭和三〇年の一〇六人から昭和三五年の七八一人に増加しているが,その比率は二%ないし四%であって低率である。これは,この犯罪が道交違反と同じく,一般刑法犯に対するような保護観察方法になじまないと認められる場合が多いためであろう。

I-54表 業務上過失致死傷の家庭裁判所終局決定人員と率(昭和30〜35年)

 道路交通取締法は,昭和三五年一二月二〇日から罰則が強化された。したがって,道交違反の科刑は,この改正が実施された以降のものを考察する必要があるが,この統計がまだ公にされていないので,旧法の罰則による昭和三五年の統計により,裁判結果をみると,I-55表のとおりである。これは道交違反について略式命令または即決裁判手続により簡易裁判所によって言い渡されたものであるが,総数一,八五三,〇四五人のうち罰金がその六七・二%にあたる一,二四五,二〇二人,科料が三二・八%にあたる六〇七,八四三人である。罰金の金額をみると,千円以上二千円未満が最も多く罰金の合計の五四・七%,これに次ぐのが二千円以上三千円未満の二九・八%である。三千円以上五千円未満は一三・六%であって,罰金の合計の九八・三%までが五千円未満の罰金で処理されている。なお,罰金に刑の執行猶予が付せられたのは,わずかに九人にすぎない。道交違反には直接公判請求されるもの,正式裁判の申立等で公判に回されるものがある。この場合には一般刑事事件と同様な審理がなされて判決が下されるわけだが,昭和三五年における公判審理の結果第一審の判決が下された場合の科刑はI-56表のとおりである。これによると,有罪の言渡を受けた者一,六一七人に対して無罪は二〇人であり(無罪率一・二%),有罪人員のうち罰金が五九・三%,懲役が二六・八%,科料が一三・八%である。懲役の内訳は,六カ月未満がその九八・二%であるが,懲役に処せられたものの八五・三%に刑の執行猶予が付されている。したがって,実刑に処せられるものは少なく,実刑に処せられたとしてもそのほとんどが六ヵ月未満であるといえる。

I-55表 道路交通取締法令違反関係略式命令・即決裁判の裁判結果別人員と率(昭和35年)

I-56表 道路交通取締法令違反の通常第一審科刑別人員と率(昭和35年)

 次に,業務上過失致死傷の第一審の裁判結果をみると,I-57表のとおり,禁錮は総数の二・一%の一,七〇三人であり,罰金はその九二・七%の七八,八一九人であり,無罪は,〇・〇八%の七一人である。禁錮の言渡を受けた者の刑期は,その九一・七%までのものが一年未満の刑期であり,また,刑の執行猶予を付せられた者は,禁錮の七三・〇%に及んでいる。罰金は,一万円以上が罰金総数の四五・三%であるから,その半数強が一万円未満の罰金を科せられたことになる。

I-57表 業務上過失致死傷の第一審裁判結果別人員(昭和35年)

 業務上過失致死傷で禁錮に処せられる場合には,量刑の一般的傾向として指摘されている二つの点,すなわち,法定刑の下限に科刑が集中すること,および執行猶予が大幅に適用されることが明瞭にあらわれている。ことに執行猶予率は,通常第一審の懲役・禁錮の執行猶予の平均言渡率五〇・四%をはるかに上回っている。