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 昭和63年版 犯罪白書 第4編/第4章/第2節/2 

2 凶悪犯及び粗暴犯

 多数回受刑者の本刑に係る罪種のうち,凶悪犯は110人,粗暴犯は123人であり,そのうち女子は凶悪犯(強盗致死傷)の1人である。罪名別の内訳は,凶悪犯では強盗が62人(うち,強盗致死傷34人),殺人が48人であり,゜粗暴犯では傷害が54人,暴力行為等処罰法違反が46人,恐喝が18人,暴行が3人,脅迫が2人の123人である。これら凶悪犯及び粗暴犯を犯した者が多数回受刑者総数2,159人の中に占める割合は10.8%(233人)であるが,これらの犯罪者は被害者の生命・身体に直接危害を与え又は与えるおそれがあるものであり,危険な犯罪者と言える者が含まれているので,これら凶悪犯及び粗暴犯の実態について詳しく見ていくこととする。
(1) 入所度数及び年齢
 まず,入所度数別人員について見ると,凶悪犯では10度ないし14度が79.1%,15度以上が20.9%を占め,また,粗暴犯では10度ないし14度が77.2%,15度以上が22.8%であり,凶悪犯及び粗暴犯については入所度数が極端に多い者は比較的少ない。15度以上の者について本刑入所時罪名別の割合を見ると,最も多いのは強盗(27.4%)で,次いで恐喝(22.2%),傷害(20.4%),殺人(12.5%)となっている。次に,本件入所時年齢層別の構成比を見ると,凶悪犯では30歳代が2.7%,40歳代が38.2%,50歳代が38.2%,60歳代が15.5%,70歳代が5.5%で,粗暴犯では30歳代が2.4%,40歳代が45.5%,50歳代が43.9%,60歳代が8.1%である。50歳未満の者の比率は,凶悪犯が40.9%,粗暴犯が48.0%であり,多数回受刑者全体におけるその比率(28.1%)と比較すると,凶悪犯及び粗暴犯ではその比率が高くなっている。
(2) 罪  名
  IV-54表は,本刑が凶悪・粗暴犯である者の初入刑時,2入刑時及び前刑時の入所罪種を見たものである。凶悪犯のうち本刑時の罪名が殺人である者について見ると,それ以前に財産犯を犯した者の比率が最も高く,初入刑時が68.8%,2入刑時が62.5%,前刑時が41.7%である。次に高いのが以前に粗暴犯を犯した者で,初入刑時が25.0%,2入刑時が27.1%,前刑時が33.3%とかなりの比率を占め,しかも,徐々に上昇している。以前に凶悪犯を犯した者は,初入刑時が2.1%,2入刑時が4.2%,前刑時が8.3%と低率ではあるが,これも入所回数と共に急上昇している。このように本刑時に殺人で入所した者は,初入刑時,2入刑時には大多数が財産犯を犯しているが,入所回数を重ねるにつれて凶悪・粗暴犯を犯す者が増えて,前刑時には4割以上の者が凶悪・粗暴犯を犯すまでに至っている。次に,本刑時に強盗で入所した者について見ると,いずれの受刑時においても財産犯を犯した者が半数を大きく上回っており,初入刑時が75.8%,2人刑時が75.8%,前刑時が66.1%を占めている。これに対して,以前に凶悪犯又は粗暴犯を犯した者の比率を合計すると,初入刑時が17.8%,2人刑時が12.9%,前刑時が16.2%といずれも10%台にとどまっている。また,本刑時に強盗で入所した者のうち,前刑時が窃盗である者(34人)の手口を見ると,空き巣ねらい(26.5%),忍込み(14.7%),事務所荒し(11.8%)などの侵入盗の比率が53.0%に上り,侵入盗が状況によっては強盗に転じる場合が少なくないことがうかがわれる。

IV-54表 凶悪犯及び粗暴犯の多数回受刑者の入所時・罪種別構成比

 同じように,本刑時に粗暴犯で入所した者について見ると,それ以前に財産犯を犯した者は,初入刑時が57.7%,2人刑時が50.4%,前刑時が24.4%であり,本刑時に凶悪犯で入所した者と比べてその比率が低く,しかも,前刑時に大きく低下しでいる。一方,以前に粗暴犯を犯した者の比率は,初入刑時が27.6%,2人刑時が36.6%,前刑時が49.6%と次第に上昇し,前刑時にはほぼ半数の者が粗暴犯を犯している。このように,本刑時に粗暴犯で入所した者は入所回数を重ねるにつれて同種の犯罪を反復する傾向を強めており,また,初入刑時から同種の犯罪だけを繰り返している者も少なくない。
(3) 犯行動機
 IV-55表は,本刑時の罪名別に犯行の動機を見たものである。まず,殺人では,主たる動機は「激情」(62.5%)と「怨恨」(18.8%)であるが,これを年齢層別に見ると,「激情」の比率は,40歳代が75.0%,50歳代が61,1%,60歳以上が33.3%と年齢が進むにつれて減少し,逆に「怨恨」は40歳代が10.0%,50歳代が16.7%,60歳以上が44.4%と上昇しており,比較的若い年齢層では「激情」が圧倒的に多く,高年齢層では「怨恨」が多くなることを示している。強盗の動機は,「利欲」(50.0%)と「生活苦」(21.0%)の比率が高く,財産犯の動機と類似している。
 次に,粗暴犯について見ると,「激情」(42.3%),「酒に酔って」(29.3%),「怨恨」(12.2%)が多いが,罪名別に見ると,恐喝では「利欲」(27.8%),「生活苦」(22.2%)が少なくなく,その動機の点で財産犯のそれに近い傾向を示している。

IV-55表 凶悪犯及び粗暴犯の多数回受刑者の本刑時犯行動機別構成比

(4) 人格特性
 人格特性について多数回受刑者全体と比較して見ると(IV-46表参照),殺人では,知能が劣っている者(IQ69以下の比率が70.8%),教育程度の低い者(小学校程度の比率が56.3%)及びアルコール依存症の者(35.4%)の比率がいずれもかなり高く,精神障害のある者(18.8%)の比率もやや高い。強盗では,普通知能(IQ90〜109)の者(14.5%)がやや多く,精神障害のある者(13.0%)やアルコール依存症の者(25.8%)の比率が低い。また,粗暴犯では,普通知能の者(13.0%)及び精神障害のある者(22.0%)の比率がやや高く,アルコール依存症の者(43.1%)の比率がかなり高くなっている。
 性格については,法務省式人格目録による性格検査の結果では(IV-1図参照),凶悪犯では心気症,抑うつ,不安定,爆発,偏狭などの性格特性が顕著で,他の罪種と比較して性格の偏りの程度が最も大きく,粗暴犯では,心気症,抑うつ,爆発,偏狭が目立っており,なかでも爆発は他の罪種と比べて最も高い得点を示している。また,前掲IV-1図には示していないが,殺人と強盗の性格プロフィールを比較すると,殺人はより性格の偏りが大きく,強盗はより財産犯に近い性格像を表している。
(5) 入所前の生活状況
 入所前の生活状況について多数回受刑者全体と比較して見ると(IV-48表参照),殺人では配偶者のいる者(10.9%)及び単身生活者(73.9%)の比率はほとんど変わりないが,生活程度の低い者(83.4%)の比率(全体では78.6%)が高く,また,家族との関係をもたない天涯孤独の者(20.0%)がかなり多い。強盗では配偶者のいる者(3.3%)が極めて少なく,単身生活者(93.1%)の比率が高い。
 粗暴犯では,配偶者のいる者(18.7%)が比較的多く,単身生活者(65.9%)及び生活程度の低い者(64,6%)の比率が低くなっており,凶悪犯と比較すると生活状況は良い方であるが,暴力団関係者(30.1%)が多くなっている。
(6) まとめ
 多数回受刑者の中の本刑時に凶悪犯・粗暴犯で入所した者は,窃盗・詐欺の場合のように大多数は同種犯罪だけを繰り返し行っている者ではなく,ほとんどが窃盗を始めとする多様な犯罪を多数回行いながら,本刑時の犯罪に至った者たちであり,過去の犯罪歴を見ると,初入刑時の犯罪は,いずれの罪名の場合も財産犯が最も多く,2人刑時,前刑時と入所回数を重ねるにつれて凶悪・粗暴な犯罪が多くなっている。したがって,これらの受刑者の多くは言わば財産犯から凶悪犯・粗暴犯へと犯罪の形態を移行してきた一群である。
 彼らが凶悪犯・粗暴犯へと犯罪態様を変えていく経過は必ずしも明らかではないが,強盗については,犯行の動機が財産犯と共通しており,過去に行っている窃盗の手口等から見て,窃盗の犯行の前後の状況によっては強盗にも容易に転じる場合が少なくないものと見られる。また,粗暴犯の多くは暴力団関係者の犯罪であり,社会における環境条件ゆえに粗暴な犯罪が累行されやすく,暴力団関係者以外の者が行う場合は,アルコール依存や性格傾向など人格的な負因が深くかかわって犯行に至っているようである。また,殺人を犯す者の中には,低知能者や性格の偏りの大きい者が数多く見られ,人格的要因の犯行へのかかわりが大きいものと考えられる。