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 昭和62年版 犯罪白書 第4編/第3章/第1節/2 

2 犯罪の取締り・検挙に対する国民の評価

 「総理府世論調査」においては,犯罪の取締りや検挙に関し,「犯罪や犯罪者を扱う機関について次のような意見がありますが,あなたはどのように思いますか。」との質問の中で,「犯罪の取り締まりや犯罪者の検挙は,概して良好に行われている。」との項を設け,(ア)「そう思う」,(イ)「そうは思わない」,(ウ)「一概に言えない」との選択肢の下に回答を求めている。また,法務総合研究所では,これと同じ質問と回答選択肢をもって「受刑者調査」及び「受刑者の家族調査」を行っている。これらの調査結果をまとめたのがIV-27表である。

IV-27表 犯罪の取締り・検挙に対する国民の評価(犯罪の取締りや犯罪者の検挙は,概して良好に行われている。)

 これによると,一般国民の場合,犯罪の取締りや検挙が概して良好に行われていることを肯定する「そう思う」とする者は33.6%(男子38.4%,女子29.7%)で,これを否定する「そうは思わない」が18.0%(男子20.4%,女子16.1%),「一概に言えない」,「わからない」がそれぞれ34.1%(男子31.8%,女子35.9%)及び14.3%(男子9.4%,女子18.3%)となっており,肯定的評価が否定的評価を大幅に上回り,捜査機関は,全般的に,国民の信頼を得ているものと考えられるが,「一概に言えない」が3分の1を超えており,これと「わからない」とを合わせると,48.4%と半数近くに達していることが注目される。このような状況は,受刑者及び受刑者の家族について見ても大きな差異はない。すなわち,「そう思う」とする者は,受刑者で31.2%,受刑者の家族で30.5%となっているのに対し,「そうは思わない」とする者は,受刑者で17.2%,受刑者の家族で12.9%にとどまり,「一概に言えない」は,受刑者で38.7%,受刑者の家族で23.2%,「わからない」(無回答を含む。)は,受刑者で12.8%,受刑者の家族で33.3%となっているが,受刑者及び受刑者の家族では,「一概に言えない」と「わからない」の合計が,いずれも全回答者の半数をやや上回るに至っている。なお,一般国民のどのような層がいかなる回答をしているかについて見てみると,まず,男女別,年齢層別には,IV-28表のとおり,男子では,20歳代において「そう思う」(25.2%)が「そうは思わない」(27.0%)を下回っているものの,他の年齢層はいずれも「そう思う」が「そうは思わない」を上回り,特に,30歳代及び50歳代以上の者については,40%以上の者が「そう思う」と回答していること,女子ではいずれの年代も「そう思う」が「そうは思わない」を上回り,20歳代以外の年代は30%前後が「そう思う」と回答しているが,20歳代の者は「そう思う」とする率が低くなっていることなどを指摘することができ,男女とも20歳代の者は,捜査機関の活動について,他の年代の者ほど積極的に評価していないようにうかがわれる。また,作表してはいないが,居住地域別に見ると,大都市では,中小都市及び町村に比し「そうは思わない」と否定的な回答をしている者が多いこと,しかしながら,,大都市であっても,東京都は例外で,「そう思う」が36.5%となっており,大阪府の「そう思う」(26.7%)と比べた場合,大きな開きが見られること,比較的肯定的回答の多い地域は,東北及び東海地方であって,「そう思う」が40%を超えているのに対し,比較的否定的回答が多い地域は,北海道,近畿,四国及び九州地方で,「そうは思わない」とする者が20%を超えていることなどが注目される。

IV-28表 犯罪の取締り・検挙に対する一般国民の評価(男女・年齢層別)(犯罪の取締りや犯罪者の検挙は,概して良好に行われている。)

 ところで,前項で述べた被害経験の有無についての調査と本項の捜査機関の活動に対する評価とを関連させて見ると,IV-29表のとおり,一般国民については,被害経験のない者は,ある者に比べ,捜査機関の活動をより積極的に評価する傾向にあり,前者では「そう思う」が34.5%,「そうは思わない」が16.2%となっているのに対し,後者では,「そう思う」が30.5%,「そうは思わない」が24.1%となっていること,受刑者及び受刑者の家族についてもおおむね一般国民の場合と同じような傾向が見受けられること,受刑者の中には,被害を届けない理由として,警察に対する拒否反応に関連する回答選択肢を選んだ者も相当数存在しているにもかかわらず,捜査機関の行う犯罪の取締りや検挙活動については,興味深いことに,積極的評価をしている者が相当多くを占めていることなどを指摘できる。

IV-29表 犯罪の取締り・検挙に対する国民の評価と被害経験の有無との関連(犯罪の取締りや犯罪者の検挙は,概して良好に行われている。)

 このように見てくると,犯罪の取締りや検挙に当たる捜査機関の活動は,おおむね積極的な評価を受けており,捜査機関は,国民からかなりの信頼を得ていると考えてよいと思われるが,国民の中には,被害経験や取締りを受けたことのある者も相当数存在し,これらの者の評価には,なお,微妙なものがあるようにも見受けられる。他方,国民のほぼ半数の者が,「一概に言えない」と回答を留保するか,あるいは「わからない」と回答しているが,この事実も捜査機関についての国民の評価を見る上においては,無視することはできないように思われる。もっとも,犯罪の取締りや検挙のための捜査機関の活動は,本来,隠密裏に行われるべきものであって,その捜査結果も,常に公表されるべきものではないから,国民の中に,「一概に言えない」とか「わからない」と回答した者が相当数存在することは,むしろ,当然であるかもしれないし,他方,取締りや検挙の対象となった者に対して,捜査機関の活動に関する好意的な評価を期待することにも無理があると言うべきであって,そのような意味において,捜査機関の活動についての国民の評価は,もともと多面性を有するものと言えるが,今回の調査は,図らずもこのようなことを浮き彫りとする結果となったとも言えよう。