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 昭和60年版 犯罪白書 第4編/第2章/第2節/6 

6 満期釈放

 前記調査対象とした2,154人の刑務所満期釈放者について,満期釈放後3年以内の再犯率及び再犯期間を,昭和55年の処分罪名別に見たものがIV-19表である。まず,再犯率で注目しなければならないのは,住居侵入70.8%,詐欺66.0%,窃盗65.7%,強姦60.0%,暴力行為等処罰法違反58.3%などで,他の処遇段階における再犯率に比べていずれも高く,犯罪傾向が特に進んでいることを示している。また,満期釈放者の中では再犯率の低い賭博でさえも41.4%で,他の処遇段階に比べて高い。したがって,満期釈放の場合には,処分罪名ごとの各釈放者の再犯率に差はあるものの,一律に再犯率が高いという特徴を示していることが分かる。
 仮釈放が認められずに満期釈放となったということは,更生復帰のためになんらかの障害のあることを意味する。その障害は,本人の資質,生活歴,施設内での行状,将来の生活設計,帰住後の環境などにあり,円滑な社会復帰をするためには,本人自身もまた,その障害を努めて克服しなければならない。このように,再犯性の一番高い満期釈放者に対する再犯防止のための処遇は,制度的には,矯正処遇が最終段階となっており,仮釈放者のように,出所後に保護観察を受けるということはない。それだけに,再犯防止のために果たすべき刑務所の役割と責任は大きい。
 同表により,再犯期間について見ると,満期釈放全体では,6月以内9.9%,1年以内12.5%,2年以内21.6%,3年以内13.2%となっており,他の処遇段階と同様に,出所後2年以内までの者の再犯の危険性が高くなっている。
 ことに,詐欺にあっては,出所後6月以内が22.7%と高くなっており,再犯速度の最も早い犯罪といえよう。これに対し,再犯期間のピークが,2年を超え3年以内となっている暴行,殺人,賭博,強姦,強制猥褻などは,再犯速度が比較的遅い犯罪といえる。

IV-19表 昭和55年満期釈放者の再犯率及び再犯期間

IV-20表 昭和55年満期釈放者の再犯罪名

 IV-20表は,上記再犯者について,罪名別に再犯罪名を見たものである。昭和55年の処分罪名と再犯罪名との関係が強く認められるものは,窃盗(70.0%),詐欺(67.7%)といった財産犯,次いで賭博(58.3%),覚せい剤取締法違反(57.4%)の順で,これらはいずれも同一罪名の再犯となっている。さらに同種罪名を合わせると,詐欺(83.9%),窃盗(74.7%)が高率で財産犯の反復性の強さを示している。逆に異種罪名の多いのは,殺人(90.9%),強姦(86.7%),強盗(85.7%)などで,これら凶悪犯罪者は,同一及び同種の犯罪を繰り返す者が少ないことを示している。さらに,満期釈放と他の処遇段階とを比べて,再犯率に特徴のある罪名について考察する。まず,殺人の再犯率を見ると,単純執行猶予2.7%,保護観察付執行猶予0.0%,仮釈放8.2%と,いずれの段階でも再犯率が低いのに対し,満期釈放では45.8%と極めて高くなっている。このことは,満期釈放となるような殺人事犯者の多くは,暴力団関係受刑者に見られるような計画的な殺人事犯が多く,再犯傾向が強いのに対し,執行猶予となるような殺人事犯者には,いわゆる心中事件に見られるような同意殺人や偶発的な殺人が多く,それだけに再犯傾向が弱いことによるものであろう。次に,強姦事犯者については,一般的に常習性があるとの印象を持たれやすいが,本調査においては,各段階とも,異種罪名が多く,同一罪名及び同種罪名は少ない。同一罪名の再犯は,満期釈放の1人(6.7%)のみであり,同種罪名も,保護観察付執行猶予と満期釈放に各1人いるだけである。
 ここまでの分析は,罰金以上の刑を受けた場合を再犯とする調査に基づくものであるが,この再犯の範囲を更に狭め,刑務所への再入所を再犯とした場合について,以下分析する。
 IV-21表は,昭和55年から59年までの間に行刑施設を出所した者の,再入状況を累積率で見たものである。出所当年(出所した年)の再入所率を見ると,満期釈放では,少ない年が12.0%,多い年が13.4%で,平均して12.6%とたっている。また仮釈放では,3.8%から4.1%と平均した再入所率を示している。同じように出所後第2年目について見ると,満期釈放の37.8%から38.3%,仮釈放の18.7%から19.5%と,これもほぼ平均しており,年次間の差は小さく,毎年同じ傾向を示している。第3年目では,満期釈放が50.9%から51.6%,仮釈放者が29.6%から29.7%と,これまた平均している。ここで注目すべきことは,出所後第2年目の再入所率が,他の年次より平均して高く,再犯の危険性はこの期に集中している。これは,前記調査結果でも指摘したように,各処遇段階とも処遇後2年以内の再犯率が高くなると述べたことと,類似の傾向を示すものといえよう。また,出所後第2年目は,出所当年よりも高率となっているが,第4年目は,出所当年より減少し,以降減少が続き,再犯の危険性が遠のくことを示している。

IV-21表 再入受刑者の前刑出所年次・出所事由別累積再入所率(昭和55年〜59年)

 IV-22表は,昭和59年中に行刑施設に入所した新受刑者のうち,前刑出所後の犯罪により,刑務所に再入所した者について,前刑出所事由別及び前刑出所時の分類級別に,出所から再入所までの再犯状況を,累積率によって見たものである。

IV-22表 再入受刑者の前刑出所事由・前刑分類級別累積再犯者率(昭和59年)

 総数では,再入受刑者1万8,629人のうち,25.8%が前刑出所後6月未満で再入所しているが,これを1年未満で見ると46.0%,2年未満で見ると66.1%となっており,再入所者の過半数が,出所後2年未満の間に再入所している。また,これを満期釈放及び仮釈放別に見ると,仮釈放が2年未満(59.4%)であるのに対し,満期釈放では1年未満(51.9%)となっており,ここでも満期釈放者が仮釈放者よりも,比較的早い時期に再犯に陥る傾向が見られる。
 次に,前刑出所時の収容分類級別に,1年未満の間に,再入所者の過半数が入所した群は,M級(精神障害者)57.8%,YB級(26歳未満の成人受刑者で,犯罪傾向の進んでいる者)54.1%,B級(26歳以上で犯罪傾向の進んでいる者)50.3%となっており,出所直後から再犯の危険性が高いことを示している。逆に,I級(禁錮に処された者)は4年以上経過してから,LA級(執行刑期8年以上で犯罪傾向の進んでいない者)は4年未満で,ようやく過半数の者が再入所しており,再犯の危険性が低いことを示している。
 また,同じように,処遇分類級別に見ると,1年未満で過半数を超えるのは,S級(特別な養護的処遇を必要とする者)59.0%,E級(教科教育を必要とする者)53.5%,T級(専門的治療処遇を必要とする者)51.2%で,いずれも一般処遇とは異なる特別な処遇を必要とするグループである。上記の3種以外の処遇分類級では,2年未満で過半数を超えている。
 以上見てきたように,満期釈放者の再入所率は,他の処遇段階の者よりも高い。この再入所率を少しでも低くするためには,受刑中に一つでも多くの再犯に結びつく要因を除去する必要がある。また,満期釈放により刑事責任のすべてが完了したとしても,再犯の危険性が高い以上,出所後においても,なんらかの助言,指導,援助が必要となろう。そのためには,更生保護会における処遇の充実強化,また更生緊急保護の積極的な活用はもちろんであるが,この分野でも広く市民が刑余者を理解し,支援することによって,その改善更生が促進され,再犯防止に少なからぬ役割を果たすことが期待される。