前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和60年版 犯罪白書 第4編/第2章/第1節 

第1節 総  説

 本節では,前述の調査結果に基づいて,調査対象者の再犯率,再犯期間,再犯罪名及び再犯処分刑の概要を,昭和55年の処遇の各段階を対比しながら見ていくこととする。
 IV-1表は,昭和55年の処遇段階別にその後3年以内の再犯率と再犯期間を見たものである。まず再犯率は,起訴猶予者が11.5%,罰金・拘留・科料の処分を受けた者が16.3%,懲役・禁錮の単純執行猶予者が21.5%,同じく保護観察付執行猶予者が35,4%,仮釈放者が44.5%,満期釈放者が57.2%となっており,処遇の段階が進むにつれて,再犯率も高くなることが顕著に表れている。犯情悪質な者や累犯者等犯罪傾向の進んだ者に対しては,それに対応した処遇が選択されているので,この結果は当然であるともいえるが,仮釈放者や満期釈放者の再犯率がこのように高いことは,これらの者の処遇困難性を考慮しても,なお何らかの対策の必要性が痛感される。

IV-1表 昭和55年処分別の再犯率と再犯期間

 次に,同表によって再犯期間を見ると,昭和55年の処分のいずれについても,再犯者の比率は,6月以内におけるものと1年以内におけるものを合計したもの,1年を超え2年以内におけるもの,2年を超え3年以内におけるものの順に低くなっている(ただし,仮釈放だけが例外的である。)。すなわち,処分に近接した時期ほど再犯率が高いという分布状況を示していることが分かる。したがって,犯罪を犯して刑事処遇の対象とされた者が社会内-での生活を再開した場合,再犯に陥る危険性は2年以内までが非常に高く,この時期を経過すると比較的良好に社会に適応しているということができよう。この結果は,保護観察対象者や刑余者に対する周囲からの援護が,特にこの2年以内までの時期において強く要請されることを示している。なお,ここでいう再犯とは再犯の刑の確定であるから,犯行後の検挙,捜査,起訴及び裁判という時間的経過の介在を考慮すると,この再犯の危険性のピークの時期は,もう少し早まるであろう。
 IV-2表は,上記再犯者について,昭和55年の処分罪名と再犯罪名との関係を見たものであるが,55年の処遇段階がいずれであっても,同一罪名の犯罪を犯している者がおおむね5割,同種罪名の犯罪を犯している者がおおむね1割弱,異種罪名の犯罪を犯している者が4割強となっている。これによれば,多くの犯罪者はある一定の犯罪を繰り返す傾向を持っているようである。もっとも,この結果は,調査対象者中に多数を占める窃盗及び薬物犯罪による犯歴者の特性に大きく影響されているとも思われるが,とにかく保護観察や矯正の処遇過程において,再犯防止を考えるときは,この点に留意した処遇が重要であることを再認識させるものである。なお,起訴猶予については,55年の処分罪名と再犯罪名が同一のものが31.5%と他に比べて低いがこれは,起訴猶予とされる者の犯罪傾向がいまだ特定の方向に定まっていないことを意味しており,この段階の処遇対象者の犯罪からの立ち直りは,比較的容易であるといえよう。したがって,この段階の処遇は極めて重要であり,警察や検察等の機関が果たす役割は大であるが,このほか犯罪を犯した者の周囲にいる人々の暖かい思いやりと援護が期待されるところである。

IV-2表 昭和55年処分と再犯罪名の関係

 IV-3表は,上記再犯者について,その再犯による処分刑の別を見たものである。再犯刑が懲役・禁錮の実刑となっている者は,昭和55年の処分が起訴猶予であった者の29.8%,罰金・拘留・科料であった者の13,2%,単純執行猶予であった者の49.9%,保護観察付執行猶予であった者の74.6%,仮釈放された者の84.2%,満期釈放であった者の83.2%であり,再犯者に対する科刑は相当に厳しいものとなっていることが窺われる。55年の処分が起訴猶予であった者についても,懲役・禁錮に処される場合は半数以上が実刑を科されている点も注目される。なお,55年の処分が起訴猶予であった者の46.4%,罰金・拘留・科料であった者の69.3%が,再犯刑として罰金・拘留・科料に処されており,55年に他の段階の処遇を受けた者に比較すると相当に高い比率となっているが,これは,起訴猶予の処分を受け,あるいは罰金・拘留・科料を科される者の中には,法定刑としてこの種の刑罰の定めしかないような軽微な犯罪を繰り返す傾向ないし習性を持つ者が多いことによるものと思われる。

IV-3表 昭和55年処分別再犯処分状況