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 昭和60年版 犯罪白書 第4編/第1章 

第4編 再犯防止と市民参加

第1章 序  説

 刑事司法及び刑事政策の最重要課題の一つに,犯罪の一般予防と再犯防止があることはほとんど異論のないところであり,広い意味での犯罪者処遇機関である検察・裁判・矯正・保護の各機関は,これらの目的遂行のために,それぞれの立場において様々な工夫と努力を重ねている。
 しかしながら,いずれの社会においても犯罪は不可避であり,再犯防止は永遠の課題であって,我が国もその例外ではあり得ない。我が国の犯罪発生率は欧米諸国に比して低いといわれているが,再犯問題に解決のめどがついたとは到底いえないばかりか,犯罪常習者や累犯者が減少したともいえず,再犯防止は相変わらず当面の刑事政策の中心課題の一つといわざるを得ない。
 我が国の犯罪者処遇制度は,成人に対するものと少年に対するものとに大きく分けられる。成人については,犯罪の軽重,情状,犯人の性格,年齢,境遇等により,諸般の事情を総合的に判断して,[1]犯罪が成立する者についても,検察官が起訴を猶予し,[2]起訴される者についても,裁判上,罰金・拘留・科料の刑にとどめ,[3]懲役・禁錮の刑を科される者についても,刑の執行を猶予し,[4]その猶予の期間中,一部の者について保護観察に付し,[5]実刑に処されて刑務所に収容される者についても,刑期満了前に仮に釈放して保護観察を行いながら円滑な社会復帰を図り,[6]あるいは,刑期満了に至るまで矯正処遇を行うというように,処遇にはいくつかの段階が設けられている。さらに,少年については,保護主義を旨として臨むこととされているが,成人と同じく,検察・裁判・矯正・保護の各機関ごとに,それぞれの目的に応じた処遇の段階が設けられている。
 こうした犯罪者処遇制度の流れに即して,その処遇対象とされている者の総数を,昭和58年の実数によって見ると,検察庁終局処理人員は約271万人(起訴猶予以外の不起訴人員約6万1,000人,家庭裁判所へ送致した少年約60万人を除く。)で,そのうち起訴猶予者が約24万人であり,裁判所の裁判確定人員は約238万人で,そのうち,罰金・拘留・科料の刑を科された者が約230万人,懲役・禁錮の単純執行猶予者(保護観察の付かない執行猶予者)が約3万8,000人,懲役・禁錮の保護観察付執行猶予者が約8,000人,実刑確定者が約3万2,000人となっており,刑務所からの仮釈放者は約1万7,000人,満期釈放者は約1万5,000人となっている。また,家庭裁判所の少年保護事件終局処理人員は約68万人で,そのうち,刑事処分を相当として検察官に送致された者が約5万8,000人,少年院に収容された者が約6,000人,保護観察に付さ,れた者が約7万人となっている。これら各段階で様々な処遇を受けた者が,その後どのような成行きを示しているかを,その再犯率・再犯期間・再犯傾向等で探ることは,刑事司法の各段階における各種処遇の意味と効能を明らかにするとともに,各種犯罪者の内包する問題点を浮かび上がらせることにも役立つであろう。
 ところで,犯罪者の再犯防止及び改善更生を図ることは,第一に国の責務であることは疑いのないこととはいえ,その十分な目的遂行のためには,一般市民の理解と協力が必要不可欠である。我が国においては,矯正や保護の分野を中心に,一般市民から多大の貢献がなされているが,その実情は必ずしも広く国民に知られているとはいい難く,犯罪者の更生や再犯防止をより効果的なものにするためには,一般市民の一層の理解と協力が望まれるところである。
 以上のような問題意識の下に,本白書では,「再犯防止と市民参加」という副題で特集を組み,第2章では,上記の各段階ごとに,処遇対象とされた犯罪者の再犯状況を検証し,第3章では,各種類型の犯罪者に対するその特性に応じた再犯防止上の処遇の実状を述べ,第4章では,犯罪者処遇への,一般市民の関与ないし民間協力の実状を紹介することとした。
 なお,本編中に用いた資料は,資料入手時期の制約もあるため,原則的に昭和58年末までのものを用いているが,特別調査を実施したものの一部については59年中のものを用いたところもある。