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 昭和59年版 犯罪白書 第2編/第3章/第1節/3 

3 麻薬等の事犯

 (1)麻薬事犯
 我が国における麻薬取締法,あへん法,大麻取締法の各違反を総合した麻薬事犯の検挙状況について見ると,前掲II-33表に示すとおりであり,昭和58年では,総数で,検挙件数2,128件,検挙人員1,728人と,前年に比べ件数で136件(6.8%),人数で114人(7.1%)の増加となっているが,近年,多少の起伏はあるものの,おおむねこのような状況で推移している。事犯別で特に注目されるのは,大麻取締法違反の動向で,52年以降1,000人台の検挙人員を続けており,58年では,麻薬事犯全体の71.2%を占めている。

II-44表 麻薬等の押収量(昭和54年〜58年)

 II-44表は,最近5年間における麻薬等の押収量を示したものである。麻薬等の押収量は年による増減が著しく,昭和58年における押収量について見ると,LSDは前年より減少しているが,逆に,ヘロイン,あへん,大麻は,前年より大幅に増加している。
 次に,麻薬事犯を違反法令別に見ることにする。
 麻薬取締法違反については,前述のとおり,覚せい剤事犯の第1次の流行が終息した昭和30年代から増加傾向を示してきたが,38年の法改正による罰則の強化等の対策が効を奏し,それ以降激減した。最近数年における検挙人員は,おおむね100人前後で推移し,大きな変化は見られず,58年は,前年に比べて11人減少し,戦後最低の89人となっている。違反態様別構成比では,所持,譲渡・譲受の各事犯が多く,それぞれ30%台ないし40%台で推移しているが,密輸出入事犯は56年の21.4%から,58年では11.2%に減少している。施用事犯は各年次とも少なく,10%以下である。密製造事犯は検挙される者がない年が多く,57年には4人が検挙されているが,58年には検挙された者はない。また,主な違反品目別の検挙人員では,ヘロイン事犯は22人で前年の17人に比べて増加しているが,LSD事犯は前年の60人から37人に減少している(厚生省薬務局の資料による。以下同じ。)。
 あへん法違反の検挙人員は,昭和43年の1,148人を頂点として,その後急速に減少し,最近10年以上の間200人台を上下していたが,58年は前年より138人増加して,408人となっている。違反態様別に見ると,そのほとんどがけしの観賞を目的とした栽培事犯で,58年では398人(97.5%)を占めている。
 大麻事犯について見ると,検挙人員は,昭和55年の1,433人を最高に最近ではやや減少傾向を示しており,58年では,前年より13人減少して,1,231人となっている。違反態様別の構成比では,所持事犯が,58年の49.1%を除き各年次とも50%を超え,譲渡・譲受事犯が20%台でこれに次いでいる。密輸出入事犯は検挙人員,構成比とも増加傾向を示し,57年ではやや減少して191人,15.4%となったものの,58年では221人,18.0%と増加している。また,青少年の違反者が多く,58年の検挙人員の75.1%が20歳代及び少年で占められているが,世界的な風潮もあり,国内での潜在的濫用者もかなりの数に上ると見られており,今後十分な警戒を払う必要がある。

II-45表 シンナー等濫用者の検挙・補導人員(昭和47年〜58年)

 (2)シンナー等有機溶剤濫用事犯
 我が国においては,昭和35年ころから青少年による睡眠薬の濫用が増加した。これに対して38年に規制が強化されたため,睡眠薬に代わって40年代初めころからシンナー等の有機溶剤が濫用されるようになった。シンナー等の濫用による少年の補導人員は,43年には2万812人に上り,46年には4万9,587人に達した。そこで,47年に,毒物及び劇物取締法が改正され,それまで直接的な法規制の対象とならなかった「酢酸エチル・トルエン又はメタノールを含むシンナー及び接着剤」の濫用行為,知情販売行為等が,新たに法規制の対象とされることになった。
 II-45表は,昭和47年以降のシンナー等の有機溶剤の濫用による検挙・補導人員を見たものである。少年の検挙・補導人員は,48年にはいつたん減少したが,その後再び増加傾向を示し,54年以降は4万人台を記録し,56年にはやや減少したものの,58年には5万1,383人と最高の数となっている。
 有機溶剤は,日常生活の中で容易に入手できるため,青少年によって濫用されやすく,かつ,その濫用は,成長期にある青少年の心身の健康を害するだけでなく,毎年多数の死亡者を出すなど極めて危険であり,昭和58年においても,濫用による少年の死亡及び自殺者の合計は28人に上っている(警察庁保安部の資料による。)。また,シンナー等有機溶剤の濫用は,他の犯罪や非行を生む原因ともなっており,さらに,覚せい剤濫用へ移行する者も見られるなど,その濫用事犯の増加は楽観を許さない状況にある。こういった事態を踏まえて,57年には法律の改正により罰則が強化され,シンナー等の有機溶剤をみだりに摂取・吸入し又はこれらの目的で所持した者に対して,懲役刑が科せられることになった。58年においては,シンナー等濫用事犯による成人の検挙人員は6,868人で前年より774人減少し,他面,毒物及び劇物取締法違反による起訴人員のうち,公判請求された者は,前年の308人(公判請求率4.7%)から,832人(同14.0%)に増加している。少年非行増加のすう勢とも併せて,この種の事犯に対し今後とも厳正かつ適切な対応が必要とされよう。