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 昭和59年版 犯罪白書 第2編/第1章/第2節/2 

2 犯罪者の特質

 (1)前科・検挙歴など
 II-3表は,昭和43年以降における交通関係業過を除く刑法犯成人検挙人員について,前科及び逮捕歴の有無の推移を見たものである。前科のない者の占める比率は,43年の69.2%から若干の起伏はあるものの,全体的には上昇傾向を示し,58年には75.9%となっている。前科や逮捕歴のないことから犯罪者の実体を断定できないことは言うまでもないが,前科や逮捕歴のないことは,一応犯罪性の進んでいないことを窺わせると言ってよく,最近の検挙人員のうちに,前科や逮捕歴のない者の占める比率が上昇していることは注目すべき現象と言えよう。

II-3表 交通関係業過を除く成人刑法犯の前科・逮捕歴別検挙人員(昭和43年,46年,51年,56年〜58年)

 II-4表は,昭和43年以降における交通関係業過を除く刑法犯少年検挙人員及びそのうちの初犯者数を見たものである。初犯者数は,48年以降増加傾向にある。検挙人員に占める初犯者の比率は,43年の66.2%から48年の72.9%まで上昇し,その後はおおむね横ばい状態で推移し,58年には70.2%となっている。非行性の進んでいない初犯者が実数において逐年増加し,総数に占める比率が70%以上を維持していることは極めて注目すべき現象と言えよう。

II-4表 交通関係業過を除く刑法犯少年検挙人員及び初犯者率(昭和43年,46年,51年,56年〜58年)

 (2)犯罪者特に非行少年の家庭
 さらに,この「豊かな社会における犯罪者像」を明らかにするため,著しい増加を示す非行少年の家庭状況に焦点を当て,その特質を見ることにする。
 まず,実父母の有無を見ると,II-5表のとおりである。実父母がそろっている者の比率は,昭和41年の71.9%から48年の78.6%までほぼ一貫して上昇し,その後,若干低下傾向を示しているものの,40年代前半に比べてなお高い水準にある。
 次に,親の生活程度を「上」「中」「下」及び「極貧」の4段階に分けて推移を見てみると,II-6表のとおりである。「上」と「極貧」には余り変化は見受けられない。「中」は昭和41年の71.8%から48年の85.6%まで一貫して上昇し,その後若干の起伏はあるが,55年以降88%前後の高い水準にある。ちなみに,矯正統計年報により,少年院新収容者の両親の生活程度な見てみると,「中」以上が41年の46.2%からおおむね上昇傾向を示し,58年には69.2%となり,ここでも普通の生活程度の家庭の少年の増加ぶりが窺われる。

II-5表 犯罪少年の実父母の有無別構成比(昭和41年,46年,51年,56年〜58年)

II-6表 犯罪少年の親の生活程度別構成比(昭和41年,46年,51年,56年〜58年)

 親の職業を見ると,II-7表のとおりである。事務員,管理職等は,昭和42年の15.8%から54年の31.6%までほぼ一貫して上昇し,その後は若干低下している。工員,店員等は,52年まで横ばい状態であったが,以後若干低下傾向にある。

II-7表 犯罪少年の親の職業別構成比(昭和42年,46年,51年,56年〜58年)

II-8表 犯罪少年の保護者との同居の有無別構成比(昭和41年,46年,51年,56年〜58年)

 犯行時における保護者との同居の有無を見ると,II-8表のとおりである。同居していたものの比率は,昭和41年の73.3%からおおむね上昇傾向を示し,58年には90.6%の高率となっている。
 法務省の特別調査により,昭和49年以降における保護者の養育態度を見てみると,ほとんど変化がなく,「放任」が60%弱,「溺愛・過保護」が20%弱,「厳格・過干渉」が10%前後で推移している。
 かつて言われた,非行少年には欠損家庭や経済的に恵まれない家庭の少年が多いという現象は薄れ,このような家庭の少年の非行は現在では少数事例に属し,両親のそろった経済的に普通の,文字通り一般家庭の少年の非行が増加する,いわゆる一般化現象が裏付けられる。非行性の進んでいる少年院収容者を見ても,なるほど非行少年全体に比べれば経済的に恵まれていない者が多いが,従前との比較で見ると,経済的には普通以上の家庭の少年が増えていることも一般化現象を窺わせるものと言えよう。
 法務省の特別調査により,犯行の動機を見ると,昭和49年以降の推移では,大きな変化は見られないが,「困窮・生活苦」を動機とするものが58年には最低の0.5%を記録し,豊かな社会を反映した「遊び」を動機とするものが53年以降20%を超えていることなどが注目される。この面からも,非行少年の家庭が経済的に恵まれてきていることが裏付けられる。
 最後に,矯正統計年報により,一般犯罪者について簡単に見てみると,昭和34年以降における新受刑者中に占める配偶者を有する者の比率は,34年の33.9%から49年の43.3%までおおむね上昇し,以後横ばい状況にあり,58年には41.2%となっているなど,比較的家庭生活面で恵まれた条件の者が多くなっていることが認められる。
 (3)犯罪者特に非行少年の資質
 警察庁の統計により,昭和41年以降における交通関係業過を除く刑法犯少年検挙人員の学職別推移を見ると,学生・生徒の占める比率は41年の47.7%から58年の77.5%までほぼ一貫して上昇し,これに対し有職者は41年の35.6%から58年の11.8%まで低下している。無職の者の占める比率は41年の16.8%から49年の8.9%まで一貫して低下し,その後は若干上昇したものの,40年代前半よりはるかに低い10%前後で推移している。
 昭和34年以降における新受刑者の教育程度を見てみると,新受刑者中に占める高校卒(中退を含む。)の比率は,34年の16.3%から58年の28.7%へ,大学卒(中退を含む。)は,34年の2.4%から58年の3.1%へいずれも上昇している。
 警察庁の統計により,昭和43年以降56年までの交通関係業過を除く刑法犯少年検挙人員の不良集団加入率を見ると,45年の34.9%を頂点として56年には最低の13.7%にまで低下している。
 次に,昭和41年以降における少年院新収容者の知能程度及び精神状況の推移を見てみる。知能程度では,知能指数69以下の者の比率は43年の13.2%を頂点として低下傾向にあり,58年には5.8%となり,一方,110以上の者の占める比率は上昇傾向を示している。精神状況では,精神薄弱,精神病質等精神障害のある者の比率が41年の17.4%からおおむね低下傾向を示し,58年には3.7%と低率となっている。ここでも従来言われた非行少年には知能や精神状況など資質に問題のあるものが多いという面が薄れつつあるように見受けられる。
 以上見てきたところで明らかなように,最近の非行少年は,家庭環境の面,心身の資質の面,その他の面でも従来言われてきたようにそれ程特別な存在ではなくなってきていると言えるし,成人犯罪者にもこのことがある程度当てはまるようになってきていると言えよう。