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 昭和59年版 犯罪白書 第2編/第1章/第2節/1 

1 最近の犯罪の動向

 II-1表は,昭和58年における業過を除く刑法犯の罪名別発生率(人口10万人当たりの認知件数)を,過去25年間のうち総数の発生率の最も高い34年,総数の発生率が58年と近似している41年,総数の発生率が最も低い48年のそれぞれの罪名別発生率と比較したものである。
 まず,総数の発生率が近似している昭和41年と58年を,41年を100とする指数で比較して見ると,総数で99となっているが,罪名別に見てこれを超えるのは,横領193,偽造163,放火129及び窃盗の111だけである。その他の犯罪については,すべて低下している。窃盗は指数で111とわずか11の上昇にすぎないが,総数に占める比率が大きい(41年で77.5%,58年で86.7%)ため,窃盗を除くその他の犯罪の合計が指数で58と低下しているのに,総数でほぼ均衡を保つことになったものである。

II-1表 業過を除く刑法犯罪名別発生率(昭和34年,41年,48年,58年)

 詐欺及び背任など知能犯の性格を強く持つものの指数が,それぞれ70,25へと著しく低下しているのに対し,横領だけが193へと上昇しているのは,単純横領が19,業務上横領が20へと低下しているのに対し,路上に放置されている自転車の乗り逃げを主とする占有離脱物横領が1,306へと急上昇したことによるもので,これは,窃盗の増加と軌を一にするものである。
 なお,昭和58年に殺人が68,強盗が53,強姦が24へと凶悪な事犯が急激に低下しているのに,放火だけが129と上昇していることも注目される現象と言えよう。
 昭和58年を,総数の発生率が最も高い34年と比べると,窃盗が発生率で11.8(増加率にして,1.1%)上昇しているほかには,偽造,公然猥褻・猥褻文書頒布等及び賭博だけが上昇している。これらの増加率は,98.3%,86.7%,66.7%と高い率を示すが,発生率で見ると,5.9,1.3,1.0と極くわずかで,ここでも最近の窃盗の多発が犯罪統計全体に及ぼす影響の大きいことを示している。
 さらに,昭和58年を,総数の発生率の最も少ない48年と比べると,58年には,窃盗が221.7,横領が16.3上昇しているほかは,偽造4.8,放火0.4,強盗0.1といった極くわずかな上昇を示すものがあるだけで,これ以外の犯罪はすべて低下している。窃盗を除いて比べると,逆に,48年の方が25.8多い発生率を示し,さらに,占有離脱物横領まで除外して見ると,実に44.9も48年の方が多い。
 以上の比較で明らかなように,業過を除く刑法犯の発生率は,高度経済成長期に低下傾向を示したが,石油ショックが発生した昭和48年を境として上昇に転じているものの,その主たる原因は,窃盗の増加によるものである。そこで現下の犯罪情勢を左右している窃盗については,第2章において詳細に分析,検討することとする。

II-2表 業過を除く刑法犯第一審有罪言渡人員及び新受刑者数(昭和34年,39年,44年,49年,54年,56年〜58年)

 以上,主として発生率によって犯罪の動向を見てきたが,罪名別の分析からも犯罪認知件数の増加は,重大とは言えない事件の増加によるものであることが知れた。そこで,さらに,これらの犯罪者がどのように処遇されたかを見ても,上記の分析結果が裏付けられる。II-2表は,昭和34年以降における業過を除く刑法犯によって第一審で有罪の言渡しを受けた者の数及び新受刑者数の推移を見たものである。第一審で有罪の言渡しを受けた者は,実数でも34年の16万3,773人から57年の7万7,638人に,人口比でも246.3から83.2へと激減し,新受刑者についても,実数,人口比とも34年以降全体的に減少傾向を示し,58年には実数で34年の約70%の3万725人,人口比で34年の約50%の32.5に減少している。