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 昭和57年版 犯罪白書 第4編/第2章/第1節/2 

2 科刑等の状況

 IV-13表は,対象者1,679人について,違反態様別に実刑か執行猶予かを見たものである。
 総数では,実刑が48.2%,執行猶予が51.8%であって,最近の覚せい剤事犯通常第一審裁判結果(昭和54年実刑48.2%,執行猶予51.8%,55年実刑48.9%,執行猶予51.1%)とほぼ同じ傾向を示している。密輸入事犯は,営利の目的の有無にかかわらず,全部実刑であるが,譲渡,譲受及び所持事犯については,営利目的がある場合,いずれも実刑率が80%を超えているのに対し,営利目的のない場合の実刑率は,譲渡で58.9%,譲受で31.0%,所持で46.2%であり,極端に実刑率が低く,逆に執行猶予率が高い。特に,営利目的のない譲受事犯の執行猶予率の高さは目をひく。営利目的は,法定の加重規定で,法定刑自体が重くなっているため,営利目的の有無により顕著な差が出たものであろう。使用事犯も他に比較して実刑率が低く,執行猶予率が高くなっている。執行猶予の言渡しを受けた者について保護観察の有無を見ると,総数では,869人のうち,672人(77.3%)が単純執行猶予を,197人(22.7%)が保護観察付執行猶予を,言い渡されている。違反態様別で見ると,営利目的のある譲渡及び所持事犯では,保護観察付執行猶予の言渡しを受けた者の割合が,前者で43.8%,後者で60.0%であるのに対し,営利目的のない譲渡,譲受,所持及び使用事犯については,単純執行猶予の言渡しを受けた者の割合がいずれも70%を超え,圧倒的に多い。

IV-13表 違反態様別実刑・執行猶予別構成比

 IV-14表は,違反態様別,情状別に科刑状況を示したものである。全体として見ると,実刑の場合には,懲役前科,暴力団関係者などの要因の認められる割合が高く,執行猶予の場合には,その割合が低いことが顕著に現れている。特に,実刑者のうち,93.6%の者が懲役前科を有する事実は,懲役前科の有無が,実刑と執行猶予を分ける要因として作用していることをうかがわせる。
 次に,違反態様別に見てみると,まず,密輸入事犯であるが,密輸入事犯者は,すべて実刑である。営利目的の有無の要因も加えて整理すると,営利目的,懲役前科,暴力団関係者の3要因を充足する者1人,営利目的,懲役前科の要因を充足する者2人,暴力団関係者のみの要因を充足する者1人,いずれの要因もない者1人という結果となり,この結果から,これらの要因の有無が科刑上どのように作用したか結論めいたことは言えない。ただ,この種事犯の量刑については,法定刑が重いことに象徴されるように,密輸入事犯であるということ自体が強く考慮されるものであり,本件対象者が実刑になるについて,この面が作用したことは間違いないであろう。

IV-14表 違反態様別・情状別科刑状況

 次に,譲渡,譲受,所持及び使用事犯について,懲役前科等の要因が,科刑上どのように作用しているかを見てみる。実刑となった者のうちで,懲役前科を有する者の比率を見ると,その比率が最低の営利目的のある譲受事犯ですら75.0%と高く,特に,営利目的のない譲渡,所持,使用事犯のそれの比率は,90%を超えており,懲役前科の有無が,実刑と執行猶予を分ける重要な要因として作用していることを示していると言えよう。
 そこで,懲役前科のある実刑者について,その前科がどのようなものであるかを見てみると,営利目的のない譲渡,譲受,所持及び使用事犯では,それぞれ,累犯前科が50%ないし60%,保護観察付執行猶予中が5%ないし10%,単純執行猶予中が10%ないし25%を占め,この3者の合計は,譲渡事犯78.9%,譲受事犯80.0%,所持事犯89.4%,使用事犯85.9%である。したがって,懲役前科の内容は,その約8割ないし9割が,累犯前科,保護観察付執行猶予中及び単純執行猶予中ということになり,営利目的のない譲渡,譲受,所持及び使用事犯については,結局,法律上執行猶予を言い渡せない場合に実刑になっている場合が圧倒的に多いと言えよう。
 営利目的のある譲渡,譲受及び所持事犯の懲役前科について,累犯前科,保護観察付執行猶予中及び単純執行猶予中を合計すると,譲渡事犯で74.2%,譲受事犯で44.4%,所持事犯で72.4%であり,営利目的のない事犯に比べると,その率は低いが,これは,営利目的自体が量刑上考慮されているからであろう。
 次に,執行猶予が言い渡された者について懲役前科の内容を見ると,営利目的のある事犯では,いずれの態様にも累犯前科のある者又は執行猶予中の者はいないが,営利目的のない事犯では,本来,実刑となっても当然と思われる累犯前科のある者又は執行猶予中の者で,更に執行猶予を言い渡された者が,譲渡事犯で4人(15,3%),譲受事犯で10人(28.6%),所持事犯で16人(25.0%),使用事犯で14人(14.3%)いる。このことは,法律上執行猶予の言渡しが可能な場合には,できるだけ執行猶予を言い渡そうとする現れとも見える。
 同種前科については,実刑者に同種前科を有する者が多いと言えるほか,営利目的のある譲受及び所持事犯の執行猶予者中に同種前科を有する者は皆無であり,その他の態様の事犯の執行猶予者中にも同種前科を有する者はわずかしか含まれておらず,同種前科を有する場合は執行猶予になりにくく,実刑になりやすいことを示しているものと言えよう。
 次に,暴力団関係者の有無についても,供給市場の担い手が暴力団である以上,量刑上重視すべき要因であるので,この要因について見ると,営利目的のある譲渡,譲受及び所持事犯については,実刑者,執行猶予者共に暴力団関係者の比率が高く,暴力団関係者の有無が実刑と執行猶予を分ける要因になっているかどうか,本件調査の結果からははっきりしたことは言えない。ところが,営利目的のない譲渡,譲受,所持及び使用事犯については,実刑者に暴力団関係者の占める比率が高く,逆に,執行猶予者にその比率が低く,営利目的のない譲渡,譲受,所持及び使用事犯の量刑に関しては,暴力団関係者であるかどうかが情状として相当考慮されていることがうかがえる。
 常用者については,この種事犯が習慣性を有するものであるところから,量刑の情状として当然に重視すべき要素であるので,週1回以上覚せい剤を使用する者を常用性を有する者として,調査対象者の量刑にどのような影響を与えているか考察して見たが,常用性の有無が量刑に決定的要因になったと認められるような顕著な結果は現れず,逆に,常用性を有する者のうち,過半数の53.9%の者が執行猶予になっているなど,常用性の有無が,実刑と執行猶予を決定する要因として作用していないことを示すような結果が出ている。
 実刑者810人について,違反態様別に言渡刑期を見たのが,IV-15表である。最も多いのが懲役1年以上2年未満の45.8%で,これに1年未満を加えると83.1%にも達している。一方,3年以上の科刑は,わずか6.8%にすぎず,覚せい剤事犯に対する我が国の量刑は,やはり下限に集中している感を免れない。

IV-15表 実刑者の違反態様別言渡刑期別構成比