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 昭和57年版 犯罪白書 第4編/第2章/第1節/1 

1 概  観

 まず,調査結果のうち,調査対象者1,679人の属性を男女別に見たのが,IV-9表である。年齢層別に見ると,総数及び男子では,30歳代が最も多く,女子では,20歳代が多い。有職者が過半数(54.3%)を占めているが,職種としては,土木建築関係従事者(22.5%),風俗関係従事者(17.8%)が多い。無職の中には主婦,学生が37人含まれている。暴力団関係者は,不明の113人を除く1,566人中,910人(58.1%)を占め,覚せい剤事犯と暴力団組織との結び付きの強さを示している。なお,本章でいう暴力団関係者とは,幹部,構成員,準構成員などの暴力団加入者のほか,元組員,暴力団加入者の内妻など生活上,あるいは行動上暴力団と密接な関係を有することが認められる者を含むものである。暴力団関係者910人の内訳を構成比で見ると,幹部11.6%,構成員25.4%,準構成員2.9%,元組員16.9%,その他43.2%である。前科の有無については,懲役前科(禁錮を含む。以下本節において同じ。)のある者が59.0%と過半数を占め,同種前科のある者が33.3%(同種前歴を含めると36.1%)おり,覚せい剤事犯が前科を有する者と深いかかわりがあり,特に,同事犯の常習者が多いことがうかがわれる。

IV-9表 覚せい剤事犯者の属性別構成比

 IV-10表は,調査対象事件を違反態様(重複記入)別に見たものである。1,679人中,使用事犯者が約8割,所持事犯者が約4割,譲渡事犯者が約2割などとなっており,使用事犯者が圧倒的に多い。
 IV-11表は,調査対象者のうち,使用経験のある1,517人について使用開始の契機を,また,使用経験のある者から1回だけしか使用していない者を除いた1,407人について使用継続の理由を見たものである。使用開始の契機のうち,「勧められて」,「強制されて」及び「だまされて」はいずれも他人からの働きかけによるものと認められ,これが63.2%を占めているということは,覚せい剤の需要層の拡大の動きを示すものと言えるであろう。また,使用継続の理由では,「気持ち良さが忘れられない」,「セックスの快感を高める」が46.9%と半数近くを占め,享楽的な理由で使用を継続している者がかなり多いことがうかがわれる。

IV-10表 違反態様別人員及び営利目的の有無

IV-11表 覚せい剤の使用状況

 次に,覚せい剤の使用経験のある1,517人について,覚せい剤の使用状況等を見ると,使用頻度では,1日に数回使用する者が120人(7.9%),1日1回使用が195人(12.9%),週2,3回使用が268人(17.7%),週1回使用が198人(13.1%),月2,3回使用が184人(12.1%),月1回使用が104人(6.9%),年数回使用が141人(9.3%)であって,相当頻繁に使用していると認められる週1回以上の使用者の比率は過半数(51.5%)に達している。なお,使用の結果,幻覚,妄想等の異常体験を持つに至った者が185人(12.2%)いる。
 検挙した当該被疑者を追及して,背後関係を徹底的に解明することは,激増する覚せい剤事犯を根絶するための有力な方策の一つであるが,被疑者の否認など被疑者を通しての背後関係の追及は,困難であると言われている。そこで,本件調査対象者のうち,譲渡,所持及び使用の各事犯者について,譲受先に関する供述状況を見たのが,IV-12表である。譲受先を否認する者の割合は,譲渡事犯者(12.6%)が最も多く,以下,所持事犯者(8.4%),使用事犯者(7.2%)となっている。比較対照資料がないので,この資料だけで,この譲受先に関する否認割合の多寡については論じられないが,譲受先を否認する者のうち,暴力団関係者の占める比率が,各事犯とも,60%を超えていることは注目に値する。暴力団は,覚せい剤の密売組織を形成して市場を支配し,覚せい剤を資金源にしていることから見て,否認者の多くが暴力団関係者であるという事実は,暴力団が密売組織を守り,背後関係の追及を避けようとすることの現れと見ることができ,背後関係の追及の困難さがうかがえる。

IV-12表 違反態様別譲受先否認状況