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 昭和56年版 犯罪白書 第2編/第2章/第2節/3 

3 金融機関強盗の暴力性

 前記の各国の研究が共通に指摘しているのは,金融機関(銀行)強盗の暴力性は,一般に信じられているほど重大なものではないという点である。金融機関強盗は,強盗一般と同じく,利欲(財産)犯と暴力犯が結合した犯罪であるが,その暴力性・攻撃性は顕在的なものというより,むしろ潜在的なものであり(路上強盗のような事犯の方が暴力性は強いと言われている。),その本質は利欲犯罪であって,凶器(銃器)は被害者側の反抗を心理的に抑圧し,金融機関を自己の統制下におくための威嚇手段として使用されるにすぎないという。また,典型的な強盗は暴力的傾向のある犯人によって犯されるものではないこと,強盗犯人は抵抗に遭遇しない限り,暴力を行使しない傾向があり,むしろ被害者側を殺傷することなく,大きな収穫を得ることを強盗としての成功と見なしていること,したがって,強盗の被害者で殺傷された事例は意外に少なく,被害者が殺傷された事件の多くは,抵抗に出会った犯人の狼狽・恐怖による発砲の偶発的な結果であること,この狼狽等による発砲は犯人が若年層の場合に起りやすいことなどが,諸研究の結論であった。しかし,金融機関強盗では身体的被害が少ないという事実にもかかわらず,銃器による潜在的な「暴力と死」の危険性,綿密な計画と周到な準備による計画性,被害の高額性などによる犯罪としての悪質性が強く指摘されている。
 このような金融機関強盗の暴力性に関する外国の研究の結論は,我が国における前記の調査データの分析結果の評価にも基本的に妥当するように思われる。そして,それは強盗犯人に対する金融機関側の対応に関して,有益な示唆を含むものであろう。しかし,注意すべき点は,金融機関強盗の暴力性が比較的高くないというこの結論は,約10年前の研究によるという点である。最近の欧米の強盗事犯は若年型になっており,フランスの例のように殺傷事犯が多発しているので,欧米では暴力性の程度は最近かなり高まっているように思われる。また,このような研究・調査に基づく結論は,統計上の比率によって一応の傾向を示すにすぎないという点に注意する必要がある。我が国でも,三菱銀行北畠支店事件のように,異常性格的な犯人による残酷な殺傷事件が起っており(この犯人は約15年前の少年時の強盗殺人事件の際,「情性欠如型」の精神病質と鑑定されていた。),このような暴力的・攻撃的犯人による危険性も十分に考慮に入れて対応する必要があるように思われる。