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 昭和55年版 犯罪白書 第4編/第4章/第2節/1 

第2節 各国の犯罪者処遇

1 アメリカ合衆国

(1) 犯罪の概観
 アメリカの犯罪動向を知る上で,重要な手がかりとなるものに,連邦捜査局(F.B.I.)作成の統一犯罪報告書(UniformCrimeReports)がある。この報告書では,犯罪の傾向と分布を測定するために,殺人,強姦,強盗,加重暴行傷害,不法侵入,窃盗及び自動車盗の7犯罪を指標犯罪(CrimeIndex)に指定しているが,IV-22図は,1960年以降の指標犯罪の発生件数及び発生率を見たものである。1978年の発生件数は,前年に比べて20万5,500件増加し,1,114万1,300件となっており,犯罪の増加傾向が顕著である。1978年における指標犯罪の検挙率は21%であり,この検挙率はここ数年間大きな変動はない。
 アメリカでは,連邦(Federal),州(State),郡(County)及び市(Munic-ipal)によって,司法管轄を異にし,かつ,犯罪類型の細部が違うなどの理由から,検察,裁判,矯正及び保護の各分野について,我が国のようには統一的な統計を利用できない事情がある。したがって,指標犯罪に関するその後の司法的処理の全容は不明であり,量刑を含めた犯罪者処遇の傾向等を全国的,統一的には握することも困難である。そで,司法手続及び犯罪者処遇に関しては,主として連邦の制度を中心に見ることとする。IV-83表は,連邦犯罪に対して管轄権を有する連邦地方裁判所の判決傾向を1960年から1975年までの3年ごと及び1977年について見たものである。これによると,最近では,拘禁刑に処せられる者のうち,刑期1年以下の者は相対的に減少し,代わって混合刑(sp1It sentence,ジェイル収容6月以下の刑と相当期間のプロベーションとを併合した刑)に処せられる者が増加していること,全般的に平均刑期が長くなってきていることが分かる。IV-23図は,連邦施設における釈放受刑者の平均の言渡刑期,執行率及び執行刑期を見たものである。これによると,1965年から1975年においては,平均言渡刑期の長期化が見られる反面において,執行率の低下の傾向が認められる。

IV-22図 指標犯罪発生件数及び発生率

IV-83表 連邦地方裁判所における有罪判決の種類別人員構成比

IV-23図 連邦施設釈放者の平均言渡刑期及び平均執行刑期

(2) 犯罪者の処遇
 刑事司法統計年鑑(Sourcebook of CriminalJustice Statistics)の1978年版によると,全矯正施設(本所・支所,成人・少年を含む。)の数は,連邦で68,州及び郡で5,606であるが,このうちジxe,イルが3,921である。IV-24図は,1960年以降,各年末現在の州及び連邦施設に収容されている者の数を見たものである。これによると,収容人員は1962年から減少傾向を示していたが,1973年から急激に上昇傾向をたどっている。また,女子も増加傾向を示している。IV-84表は,連邦及び州の施設における矯正職員数と収容者との比率を示すものである。連邦では1対2.5,州では1対5.9となっている。

IV-24図 州及び連邦刑務所における収容人員の推移

IV-84表 連邦及び州における施設職員の収容者に対する負担率

 連邦政府所管の施設では,塀のない軽警備のキャンプから重警備の刑務所まで多様であり,処遇に当たっては,収容者の教育及び訓練の計画,レクリエーションが拡充されてきている。IV-85表は,連邦及び五つの州における施設外通勤(通学)を含む各種の帰休制度の採用状況を見たものである。連邦では1965年から開始し,州では,ミシシッピ州が最も早く1918年から始めているが,広く採用している州から,制限的に認めている州まで多岐にわたっている。また,全く帰休制度を認めていないウィスコンシン州などの例もある。
 連邦所管の施設内処遇として特徴的なものは,ハーフウエイハウス又は地域処遇センターを利用し,いわゆる中間処遇として社会復帰を促す処遇が行われていることである。1978年において,連邦自ら11の地域処遇センターを持ち,400以上のハーフウエイハウスと契約を結んでいる。これらの施設は,連邦犯罪者に対して,主として刑期の最終段階の60日から120日間の釈放前処遇のために利用されている。これらの中間施設においては,安定した雇用の場を確保し,釈放時の居住場所を設定し,経済的な計画を立七させ,自立をはかることに重点が置かれている。

IV-85表 連邦及び主な州における成人受刑者の帰休制度の採用状況

 矯正施設からの逃走は,1972年から1975年までの4年間では,年間平均,連邦施設から678人,州施設から7,326人,合計8,064人に上っている。また,州レベルの外部通学からの逃走は,1974年では,通学が許]された3,997人中逃走又は所在不明になった者は139人であり,比率にして3.5%となっている。
 刑事司法統計年鑑の1978年版によると,プロベーション及びパロールの機関数は,連邦で219,州及び郡で3,576,合計3,795である。これらに従事する職員数は,IV-86表のとおりであって,1976年では,1957年の3.9倍となっている。特に,職員の増員は州において顕著であり,同じ期間内に5倍となっている。IV-87表は,連邦の保護観察職員1人当たりの事件負担量を見たものである。保護観察官の増員と反比例して負担量が減少し,1977年では48件となっている。

IV-86表 行政機関別更生保護(プロペーション及びバロール)の職員数

IV-87表 連邦保護観察官の事件負担量

IV‐25図 連邦保護観察対象者の事由別人員

 IV-25図は,連邦の保護観察に付されている者について,その事由別人員を見たものである。これによると,判決による保護観察及び仮釈放による保護観察の対象者は,1975年をピークにほぼ頭打ちの様相を呈している。
 IV-88表は,1976年における連邦及び州の矯正施設からの釈放状況を見たものである。連邦では仮釈放になる者の率が低く,州では仮釈放になる者の率が高くなっている。IV-89表は,1965年から1974年までの間における42の州の刑務所及び少年刑務所から出所した成人の重罪犯の仮釈放率を見たものである。これによると,出所者の約6割が仮釈放となっている。

IV-88表 連邦及び州における受刑者の釈放事由別人員

IV-89表 州刑務所(少年刑務所を含む)から出所した成人重罪犯罪者数   アメリカ(1965年〜74年)