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 昭和55年版 犯罪白書 第4編/第4章/第1節 

第4章 各国の犯罪者処遇の実情

第1節 概  説

 犯罪に関する種々の国際会議では,近年,犯罪者処遇に関する問題がしばしば主要な議題として取り上げられている。例えば,1974年6月にヘルシンキで開催された国際刑法及び刑務財団(工.P.P.F)主催の研究会議では,「刑務所に未来はあるか」という問題をめぐって,犯罪防止上,人道上等の諸観点から,自由刑に対する再検討とこれに代替する制度について討議され,更に,1975年9月にジ,ネーブで開催された犯罪防止及び犯罪者の処遇に関する第5回国連会議では,拘禁下にある,又は社会内にある犯罪者の処遇が議題の一つに取り上げられ,また,例年この国連会議の機会に開催されている国際更生保護協会(InternationaL Prisoners Aid Association,I.P.A.A.)大会では,犯罪者に対する援助活動を議題として討議している。
 一方,受刑者などの被拘禁者に対する国際的基準としては,1955年の犯罪防止及び犯罪者の処遇に関する第1回国連会議で決議され,1957年の国際連合経済社会理事会で承認・採択された「被拘禁者処遇最低基準規則」がある。また,我が国の詔87回通常国会で,昭和54年6月に承認され,同年9月に効力が発生した「国際人権規約」においても,被拘禁者の処遇に関して,「自由を奪われたすべての者は,人道的にかつ人間の固有の尊厳を尊重して,取り扱われる。」「行刑の制度は,被拘禁者の矯正及び社会復帰を基本的な目的とする処遇を含む。」(第3部第10条)と規定されており,我が国の被拘禁者処遇も,この国際的基準に沿って行うことが基本とされている。
 このように,犯罪者処遇に対する国際的な関心が一段と高まりつつある現在,諸外国における犯罪者処遇の実情を知ることが必要と思われる。そこで,本章では,欧米諸国のうち,アメリカ,イギリス,ドイツ連邦共和国,フランス及びスウェーデンの5箇国について,入手できた最新の公的な統計資料を基に,これら各国の犯罪発生,刑事処分等の状況を概観するとともに,犯罪者に対する施設内処遇と社会内処遇の現状と現在に至る推移を見ることとした。
 いうまでもなく,各国は,刑事司法制度を異にし,国情も違うため,各国の犯罪者処遇の実情を単純に比較して評価することはできないが,大体の理解は得れるものと思われる。