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 昭和55年版 犯罪白書 第4編/第2章/第2節/4 

4 保護観察付執行猶予の取消し

(1) 罪  名
 保護観察付執行猶予者のうち,どのような者に取消率が高いかを,昭和54年の保護観察終了者について見ると,罪名においては,覚せい剤取締法違反の者の取消率が最も高く55.6%(終了人員964人中執行猶予取消しの者536人)で,以下,住居侵入41.4%(終了人員58人中24人),毒物及び劇物取締法違反40.0%(終了人員15人中6人)の順となっている。住居侵入又は毒物及び劇物取締法違反によって保護観察付執行猶予に付される者の数は多いとはいえないが,覚せい剤取締法違反によって保護観察に付される執行猶予者は,IV-32表に示すとおり,近年受理人員に増加の傾向が見られ,かつ,取消率も極めて高率で推移していることが注目され,その運用の実情について検討の要があるものと考えられる。

IV-32表 覚せい剤取締法違反による保護観察付執行猶予者の受理・終了人員及び取消率

(2) 刑事処分歴・保護処分歴
 昭和54年の保護観察終了者について,刑事処分歴別・保護処分歴別に取消率を見ると,IV-33表のとおりである。刑事処分歴においては,交通犯罪によって罰金を科せられた者及び刑事処分歴のない者の取消率がそれぞれ20.6%,26.5%と低いことが見られるほか,その他の処分歴においてはいずれも30%台で著しい差は認められない。保護処分歴においては,少年院送致歴のある者の49.6%が最も高く,保護観察歴のある者の39.1%がこれに次ぎ,保護処分歴のない者の27.4%が最も低い。

IV-33表 刑事処分歴別・保護処分歴別取消率

(3) 薬物濫用経験
 IV-34表は,昭和54年の保護観察終了者について,薬物濫用経験の有無別に取消率を見たものである。薬物濫用経験のある者の取消率は58.8%と著しく高い。特に,覚せい剤濫用経験のある者は60.4%と極めて高く,また,シンナー等濫用経験のある者も54.1%と高い比率を示している。

IV-34表 薬物濫用経験の有無別取消率

IV-35表 反社会的集団加入の有無別取消率

(4) 反社会的集団加入者
 IV-35表は,保護観察開始当初において,暴力団等のいわゆる反社会的集団に加入していたことの有無,ある者についてその集団の種類別に取消率を見たものである。反社会的集団に加入していた者の取消率は42.5%で,非加入省の27.5%に比して高い比率を示しているが,特に暴力団,地域不良集団に加入していた者の取消率は,それぞれ45.5%,41.6%と高く,暴走族及びその他の不良集団の加入者の場合はいずれも29.4%で,非加入者とほぼ同じである。
(5) 職  業
 保護観察終了時における職業の有無及び職種別に取消率を見ると,家事従事者,学生・生徒を除く無職の者は68.7%(終了人員1,688人中執行猶予取消しの者1,076人)で最も高い。以下は,印刷・製本工の38.1%(21人中8人),露天商・行商人37.9%(66人中25人)であるが,いずれも該当人員が少なく,かつ,無職者の取消率よりかなり低い。
(6) 取り消されるまでの経過期間
 IV-36表は,保護観察期間中の再犯又は遵守事項違反によって執行猶予を取り消された者について,保護観察付執行猶予確定の日から取り消されるまでの経過期間別に,人員,構成比及び累積構成比を見たものである。累積構成比によって見ると,取り消された者のうち7.6%の者が保護観察に付されてからわずか3月以内に取り消されているが,1年以内に取り消された者が50.2%,2年以内の者80.1%である。2年を超えると,取り消される者は著しく減少している。

IV-36表 再犯又は遵守事項違反によって執行猶予を取り消された者の保護観察経過期間別人員・構成比・累積構成比

 さきに,取消率の著しく高いものは,罪名においては,覚せい剤取締法違反の者,保護処分歴においては,少年院送致歴のある者,薬物濫用経験においては,覚せい剤濫用経験者及びシンナー等濫用経験者,反社会的集団加入者においては,暴力団加入者及び地域不良集団加入者,職業においては,無職の者であることを述べたが,これらのうち,執行猶予を取り消された者について,取り消されるまでに経過した期間別累積構成比を見ると,IV-37表のとおりである。少年院送致歴のある者,シンナー等濫用経験者及び無職の者は,3月以内,6月以内,1年以内のいずれにおいても,全体の累積構成比を上回っており,これらの者が早期に執行猶予を取り消されていることを示している。

IV-37表 執行猶予を取り消された者の保護観察経過期間別人員の累積構成比