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 昭和54年版 犯罪白書 第4編/第4章/第2節/2 

2 矯  正

  (1)女子受刑者とその処遇
 女子受刑者を収容する施設としては,栃木刑務所,和歌山刑務所,笠松刑務所及び麓刑務所があり,そのほかに札幌刑務所に独立した女区がある。
 昭和53年の女子新受刑者は707人で,前年に比べ,91人,14.8%の増加である。女子新受刑者数は30年以降49年まで減少傾向にあったが,50年から増加に転じ,その傾向が続いている。
 女子新受刑者の罪名を見ると,IV-41表のとおり,覚せい剤取締法違反,窃盗が共に34%を超え,次いで詐欺(10.6%),殺人(8.2%)となっている。窃盗が近年横ばい傾向にあるのに対し,覚せい剤取締法違反は急増し,昭和53年の罪名別新受刑者人員数では,窃盗を抜いて第一位となった。
 次に,年齢について見れば,ほぼ半数が40歳以上である(前出II-28表参照)。そして,IV-42表及びIV-43表に見るとおり,配偶関係はほとんどが既婚者で,犯時の職業はサービス業,家事従事又は無職が多い。
 女子受刑者は,その特性により,また,受刑者数が少ないことなどから,男子受刑者のように施設ごとの分類収容は行われず,家族等との保護関係の維持・調整のため,原則として受刑者の居住地に近い施設に収容されている。ただし,外国人受刑者はすべて栃木刑務所に収容されている。
 女子受刑者の処遇に当たっては,その特性を考慮して,情緒の安定性を養うこと,家庭生活の知識と技術を習得させること,教養と趣味を身につけさせること,健康の管理に留意すること,保護引受人との関係の維持に努めることが,処遇重点事項とされている。施設の調度品などについても,特に家庭的なものが用意され,開放的なふん囲気の下で,心理的圧迫感をできる限り少なくするように配慮されている。

IV-41表 女子新受刑者の罪名別人員(昭和51年〜53年)

IV-42表 女子新受刑者の配偶者の有無(昭和53年)

IV-43表 女子新受刑者の犯時職業(昭和53年)

IV-44表 女子出所受刑者の職業訓練種目別受講人員(昭和53年)

IV-45表 女子出所受刑者の帰住予定先(昭和53年)

 就職のための技能教育の必要な者に対しては,職業訓練が行われている。昭和53年に出所した女子受刑者557人のうち,職業訓練を受けた者は119人で,その種目別内訳は,IV-44表のとおりである。家事サービス及び調理が中心となっているが,免許・資格を取得した者は,美容師11人,珠算検定6人,調理師5人,その他5人の計27人である。
 これらの生活指導,職業補導とともに,医療及び母子衛生に特別の配慮が加えられている。女子受刑者の医療は,軽症の場合は,各刑務所の医務課で行われるが,重症の場合は,特に支障のない限り,一般病院に入院させている。なお,昭和54年8月,八王子医療刑務所に女子受刑者のための病床が設置され,医療処遇の充実化が進められている。また,受刑者が妊産婦である場合には,特別の保護措置が執られ,出産は原則として外部の病院で行われている。更に,受刑者が1歳未満の実子を伴う場合には,その乳児を刑務所内の保育室で1歳になるまで育てることも許されている。1歳を超えた乳児は,一般の乳児施設又は保護者のもとに預けられる。
 次に,女子受刑者が出所する際の帰住予定先を見ると,IV-45表のとおりである。父母,配偶者等家族のもとへの帰住が6割を超えているが,更生保護会を帰住予定先としている者が約2割いることも,見逃すことができない。
  (2)少年院女子収容者とその処遇
 少年院の女子収容者のための施設は,全国に10箇所あり,そのほかに,医療的措置の必要な女子のために,関東医療少年院及び京都医療少年院に女子部が設けられている。
 女子の少年院新収容者の数は,昭和34をピークとし,以後起伏を示しながらも減少傾向にあったが,50年から増加し始め,53年には428人となり,前年に比べ98人,約3割の増加を示している。
 昭和53年における女子新収容者の非行名別内訳を見ると,IV-46表のとおりで,虞犯が50%近くを占め,窃盗は25.5%,覚せい剤取締法違反は12.1%となっている。51年からの比較で見ると,覚せい剤取締法違反が51年の8倍強と急増していることや,傷害・暴行,恐喝という粗暴犯に増加の傾向の見られることなどが注目される。女子新収容者の犯時の職業を見ると,無職が60.3%を占めている。これらの女子収容少年に対する処遇は,昭和52年からの少年院の運営改善に伴い,その特性を考慮して,規律ある生活習慣の形成,女性としての教養・情操のかん養などの生活指導,教科教育,社会奉仕活動等による体験学習,保護者ぐるみの教育等に重点をおいて行われている。

IV-46表 少年院女子新収容者の非行名別人員(昭和51年〜53年)

 また,出院後の生活に備えて職業補導も活発に行われている。昭和53年の女子出院者の在院中の職業補導について種目別に見ると,半数近くが家事サービスであり,次いで,農業,園芸などとなっており,事務,タイプ,手芸などの指導も行われている。
  (3)婦人補導院収容者とその処遇

IV-47表 婦人補導院の入出院状況(昭和35年,51年〜53年)

 婦人補導院は,売春防止法第5条(勧誘等)の罪を犯して補導処分に付された成人の女子を収容し,これに更生のために必要な補導を行う施設である。婦人補導院の新収容者数は,IV-47表のとおり,昭和35年以降減少の一途をたどり,58年は15人が新たに収容されたにとどまる。この15人についてその特性を見ると,年齢は40歳以上が7人,前科のある者14人,なんらかの精神的疾患のある者9人となっており,売春の動機としては,7人が生活費のためとしている。収容期間は6箇月であるが,処遇に当たっては,その特性にかんがみ,51年から新しい処遇体系に基づいて徹底した個別指導を実施している。