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 昭和54年版 犯罪白書 第4編/第1章/第2節/1 

第2節 覚せい剤事犯

1 全般的動向

 覚せい剤事犯は,昭和20年代後半から30年代初めにかけての時期に第一の流行期が見られ,その後長期間にわたりほぼ鎮静化していたが,40年代後半以降再び増加傾向を示した。同事犯による検察庁新規受理人員は,48年に罰則強化を中心とする覚せい剤取締法の改正が行われたその翌49年に一時減少を見たが,その後は著しい増加が続き,52年には2万人を超え,53年には3万人に達しようとしており,戦後第二の流行期に入っているものと見られるが,第一の流行期に比べ,その継続期間の長いことに留意を要する。
 覚せい剤は,中枢神経興奮作用を持つ薬物で,昂揚感,自信感,エネルギー,活発性,持続性をもたらす薬理作用があることから,第二次大戦でドイツやイギリスの軍隊で肉体的・精神的な疲労回復と活力増進のために使用されたが,戦後,欧米や我が国で少年・主婦を含めて,仕事や享楽のために使用することが流行した。特に,ヘロインの禁圧の結果,その代替薬物として世界的に広がり,覚せい剤の濫用は,各国の厳しい法的規制にもかかわらず,今や欧米の都市生活の大衆文化に深く根を下ろしたとも言われている。
 我が国における最近の覚せい剤事犯の特徴的傾向として,[1]韓国・香港等の外国地域から覚せい剤が密輸入されたうえ,暴力団等の組織的密売ルートにより広範な地域に売りさばかれていること,[2]密輸入・密売等の手口がますます複雑・巧妙化していること,[3]享楽的な社会風潮の下に,会社員・主婦・青少年等一般市民層にまで使用が広がりつつあることなどが挙げられている。