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 昭和36年版 犯罪白書 第二編/第五章/二/6 

6 事件種別にみた保護観察

(一) 家庭裁判所で保護観察処分を受けた者の保護観察―一号観察

(1) 一号観察対象者

 一号観察は,対象者の新受人員においては保護観察対象者総数の三三・三%を占め,年末現在人員においては総数の五三・一%を占めている(前掲VI-10表)。
 対象者の年齢と行為はVI-53表のようになっている。過半数の者は少年(二〇才未満の者)であるが,保護観察に付される時に一八才をこえている者は二年間が保護観察期間であるから,現在保護観察中の者のなかには,二〇才をこえている者も少なくない。なお,本表でわかるように,家庭裁判所で保護観察処分を受ける時に,すでに二〇才をこえている者が少数ながらある。これは次のような事情による。―少年の時に保護観察処分を受けて保護観察中になっている者について,成績が思わしくなく,平素の行状からみて犯罪のおそれがある場合には,保護観察所の長は,本人が二〇才以上の場合であっても家庭裁判所に通告することができる。この通告があると,家庭裁判所は,少年院に送致する処分をすることもできるし,再び保護観察に付する処分をすることもできる。したがって,保護観察を受け始める者のなかには,すでに二〇才をこえている者もいることになる。

VI-53表 1号観察対象者(家庭裁判所で保護観察処分に付された者)の行為種別・年齢別人員と率(昭和34年)

 行為の態様をみると,やはり窃盗(三九・七%)が一ばん多いが,暴行傷害・恐喝・強盗・強姦・殺人・脅迫などの粗暴あるいは凶悪な対人犯罪をした者が三二・四%を占めている。特別法犯の道路交通違反が一四・六%にもなっているが,これは前に述べたように一部の庁にだけみられる例外的現象であり,大多数の保護観察所の対象者は,道路交通事件以外の者である。

(2) 一号観察の成績

 一号観察の実績を,保護観察の終了事由と,終了までの期間との両面からみると,VI-54表のとおりである。

VI-54表 1号観察(家庭裁判所で保護観察処分者の観察)終了人員の終了事由別・期間別百分率(昭和34年)

 一号観察は,その期間中であっても,本人の状況からみて保護観察を続ける必要がなくなったち,保護観察所の長の裁量で,その保護観察を停止または解除することができる。停止をした保護観察は必要に応じて再開できるが,解除をすれば保護観察の終了となり再開ができない。そこで保護観察の解除は,慎重に行なう必要があるので,成績良好な対象者につき,本人が保護観察に付されてから一年以上を経過し,成績良好の状態を三カ月以上継続し,将来に全く不安がないことを確認したうえで行なわれている。昭和三四年中の保護観察解除の件数は三,四四四人,その七五%強は保護観察開始後一年以上二年以内の間の解除である。
 保護観察中に本人の状況がわるくて非行が多く,犯罪に陥るおそれがある場合には,一定の手続を経て少年院に送致されることがあり,また,再犯を犯して刑に処せられることもある。いずれの場合も,それらの処分があれば家庭裁判所は保護観察処分の取消をすることになる。保護観察処分の取消が行なわれるのは,本人が非行または再犯で少年院または刑務所に入れられた場合に限られるわけではないが,実際上はほとんどそれらの場合に行なわれている。したがって,家庭裁判所の保護観察処分取消の数は,保護観察中に再犯または非行(多くは再犯)をした少年の数をあらわしているといってよい。取消までの期間をみると,保護観察開始後一年から二年までの間で取消になった者が多いが,なかには,わずか三カ月も経たないうちに取消になったものもいる。
 良好「解除」で終了した者と成績「良」で満期になった者とは,保護観察の目的が達せられたもので,VI-51表では終了総人員の二九・八%にあたる。満期になったときの成績が「やや良」または「普通」で保護観察を終了した者(総人員の四二・四%)については,保護観察の目的が十分達成されたとはいえないが,当初心配されていた再犯への転落や不良化が二年以上にわたり防止されていることは,やはり保護観察の効果として認めなければならない。期待に反する結果になったものは,成績「不良」のまま満期になった者と「取消等」になった者で,あわせて総人員の二七・一%である。

(二) 少年院仮退院者の保護観察―二号観察

(1) 対象者

 二号観察対象者は二三才末満の青少年である。その年齢構成は,昭和三四年の新受人員についてみると,VI-55表のとおりで,一号観察の場合よりは高く傾いており,一八才で区切ってみると,一八才以上は,一号観察では四八・四%であるのに対して二号観察では五八・八%になっている。性別をみると,女は,一号では五・八%であるが二号では一一・一%である。

VI-55表 2号観察対象者(少年院仮退院者)の行為種別・年齢別人員と率(昭和34年)

 行為種別をみると,窃盗の割合は五五・二%で,一号対象者群における三九・七%よりはるかに高い。これは二号観察対象者には非行前歴者が多いことと関係がある。粗暴凶悪な対人犯罪の者は一号観察事件(三二・四%)より低率で二六・三%になっている。前歴者が比較的多いことは前掲VI-16表の示すとおりである。

(2) 特殊措置による終了と保護観察成績

 二号観察では,成績が良くて保護観察を続ける必要がなくなると,保護観察所の長が地方更生保護委員会に退院(仮退院中の退院処分)の申請をすることができ,退院の決定があると保護観察は終了する。退院の決定を得たものは,満期終了者中の終了時成績良好者とともに,保護観察の目的が達せられた者であるが,終了総人員に対するその割合は,前掲VI-51表でわかるとおり八・六%で,一号観察の目的達成率二九・八%には遠くおよばない。
 保護観察中に再犯をして刑事処分に付されると,もととなった少年院送致の処分が,取り消され,それによって保護観察は終了する。また,保護観察中に遵守事項違反があると,地方更生保護委員会の決定で,少年院に戻して収容されることとなって保護観察は終了する。したがって,この「取消」と「戻し収容」は,保護観察の失敗を示すものである。この失敗率(成績不良で満期終了した者と取消・戻し等の者の計)はVI-51表によると昭和三四年では四一・四%であって,一号観察の場合(二七・一%)にくらべるとはるかに高い。

(3) 保護観察の実施期間

 このように,二号観察が一号観察にくらべて,目的達成率が低く失敗率が高いのは,一面では,対象者の質によることと思われるが,他面では,二号観察では十分な保護観察をするには期間が足りない結果であろうと思われる。満期終了者の保護観察実施期間はVI-56表のとおりで,一号観察よりかなり短い。だから二号観察では,成績が「普通」の状態で一進一退しているうちに期間満了となるものや,成績が「不良」のままで期間満了となるものが,一号観察にくらべるとはるかに高率になっているのである。保護観察期間については,在院中に相当長期の収容継続の決定があれば,短かくてこまるということにはならないが,収容継続の決定は,年間六五五件(昭和三四年)という程度に行なわれているにすぎない。

VI-56表 2号観察(少年院仮退院者の観察)終了人員の終了事由別・期間別百分率(昭和34年)

(三) 仮出獄者の保護観察―三号観察

(1) 対象者

 三号観察は,対象者の数においては,前述のように,新受人員では全対象者数の約四四%を占めている。三号観察の対象である仮出獄者は,年齢的にほとんどみな成人で,総数の五二・八%は二〇才代(内訳をすると,二〇才以上二五才未満が二二・二%,二五才以上三〇才未満が三〇・六%),三〇才代三〇%,四〇才代一一・四%,五〇才以上が五・三%という年齢構成をもち,罪種をみると,窃盗が五九・四%,これに賍物・詐欺・横領を加えた四種の財産犯で総数の七五%を占め(VI-57表),累犯者がいちじるしく多い。

VI-57表 3号観察対象者(仮出獄者)の行為種別・年齢別人員と率(昭和34年)

(2) 保護観察の停止

 三号観察の対象者は,累犯歴や境遇の関係から住居・職業の安定性がことに乏しく,所在不明になって保護観察を離脱する者が少なくない。そこで現行法ではこれを防止するために,仮出獄者が所在をくらまして保護観察ができない場合には,地方更生保護委員会の決定で保護観察停止の処分をして,刑期の進行を停止することになっている。しかもなお所在不明になる者が少なくなく,昭和三四年末現在保護観察停止中の者は一,七一二人で,保護観察に付されている者の現在人員の一三・八%にあたる。

(3) 保護観察の終了事由と期間

 本人の成績が良く更生をとげた場合には,保護観察を続ける必要はないわけであるが,三号観察では,不定期刑で仮出獄になっている者を除いては,仮出獄期間満了前に保護観察を終了させる措置ができない。不定期刑の者については,地方更生保護委員会が不定期刑を終了させることができるが,不定期刑の者はきわめて少数である。その他の一般の仮出獄者の保護観察は,成績が良い場合でも仮出獄期間の満了まで続けることになっている。
 これに反して,本人が保護観察中に遵守事項に違反し,または再犯をすると,仮出獄が取り消されて保護観察は終了する。
 三号観察の終了状況はVI-58表のようになっている。終了時の成績は,前掲VI-51表のとおりで,良は一二・三%,不良が六・八%,仮出獄取消四・三%であって,大部分(七六・一%)の者は,良でもなく不良でもない中間の状況(やや良または普通)で期間満了となっている。このように,一号観察あるいは二号観察にくらべで,中間状況で保護観察を終了する者が多いのは,保護観察の期間の短い者が多いからであろう。十分に保護観察を受けさせて仮出獄者の更生率を向上させるためには,十分な期間が必要である。改正刑法準備会の準備草案では,仮出獄者の保護観察期間は最低六カ月とする案が示されている。

VI-58表 3号観察(仮出獄者の観察)の終了事由別・観察期間別人員の百分率(昭和34年)

(四) 刑の執行猶予中の者の保護観察―四号観察

(1) 対象者

 刑の執行猶予とともに保護観察に付される者は,VI-7表のように昭和三三年からは毎年八千人をこえ,また,現在保護観察中の人員は二万三千人にちかく,保護観察の全対象者の二三%になっている(昭和三五年一二月三一日現在)。この対象者を性別に分けると,男九三%,女七%。年齢をみると二〇才から二五才までが五二%強,二五才から三〇才までが二一%を占めているから,総人員の七三%以上は二〇代の者である(VI-59表)。

VI-59表 4号観察対象者(刑の保護観察付執行猶予者)の行為種別・年齢別人員と率(昭和34年)

 犯罪の種別をみると財産犯が多く,窃盗が五一・五%,これに詐欺・横領・賍物をあわせると総人員の六六・五%になる。しかし粗暴な対人犯罪を犯した者も少なくはなく,恐喝・暴行傷害・強姦・強盗・殺人・脅迫の六種で二四・五%を占めている(VI-59表参照)。執行猶予の言渡を受ける前に,前科前歴の処分を受けた者は,前掲VI-15表のとおりで,六一%であるから,この対象者群の累犯性は,三号観察の仮出獄者群よりは低いが,かなり高いといわなければならない。

(2) 期間

 保護観察の期間は執行猶予の期間と同じであるが,前掲VI-8表のように,ほとんど全部が二年以上であるから,おおむね,保護観察の実効を収めるに必要な期間が与えられているといわねばならない。

(3) 保護観察の仮解除・執行猶予の取消

 四号観察では,成績がよくて保護観察を続ける必要がないと認める場合には,保護観察所の長の申請に基づいて,地方更生保護委員会の決定で,保護観察を仮に解除することができる。仮解除中は保護観察は行なわれないが,必要があれば仮解除の取消をして保護観察を再開することになるので,仮解除で保護観察が終了するわけではない。仮解除中に執行猶予期間が終了すると,そのとき保護観察が終了したことになる。
 保護観察中の者が遵守事項遵守の義務に違反してその情状が重いか,または再犯をしたときには,執行猶予の取消が行なわれる。執行猶予の取消があると,それによって保護観察は終了する。

VI-60表 4号観察(刑の執行猶予者に対する観察)終了人員の終了事由別・期間別百分率(昭和34年)

(4) 成績

 四号観察の成績を,保護観察終了者の終了成績からみると,前掲VI-51表のように,成績が良好で終了した者(仮解除中の者を含む)が終了総人員の一四%,「やや良」または「普通」の状況で終了した者が三三・五%,成績「不良」で満期終了の者が一二・〇%,期間中に執行猶予取消をされた者が三八・七%となっている。この成績は,他の種別の対象者に対する保護観察にくらべると,いちじるしく見劣りがする。もっとも,この成績率は,年間終了人員に対する比率であって,年間保護観察人員に対する比率ではなく,基礎数となった年間終了人員の年間保護観察人員に対する割合は保護観察の種別によってちがうので,この成績は各号の成績を正しく比較したことにはならない。そこで年間保護観察人員に対する比率をみると,前掲VI-52表のとおりで,やはり四号観察の成績は他の種の保護観察にくらべて最も悪い。

(五) 婦人補導院仮退院者に対する保護観察―五号観察

 婦人補導院から仮退院中の者は一面からは刑の執行猶予期間中に属するが,他面からは仮退院期間中保護観察に付されている者であって,この手続からみるとパロールに属する。それで,遵守事項の定め方や,遵守事項に違反した場合の措置などは,二号観察や三号観察と類似の形で行なわれている。
 五号観察は,売春防止の方策として大きな期待をもって昭和三三年から始められた制度であるが,前述のように,保護観察の期間があまりにも短いので十分な効果があげにくい。年間保護観察人員も,昭和三三年二〇人,昭和三四年一〇七人にすぎない。