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 昭和36年版 犯罪白書 第二編/第三章/九 

九 矯正科学の進歩

 矯正施設の収容者の処遇には,科学的知識と技術とが必要である。特に,医学,精神医学,心理学,教育学,社会学,統計学などの寄与をうけいれて,これを総合して,収容者の治療,教育および更生に応用していかねばならない。この総合的な科学的領域を矯正科学といっている。この矯正科学を推進させるために,法務省矯正審議会に矯正科学審議部会がもうけられて,各方面の専門学者が委員に委嘱されている。
 戦後,施設の各方面に,これらの専門につき教養をうけた職員が多数参加するようになって,この矯正科学の進歩にはめざましいものがでてきた。それらの職員は,外部研究機関と連絡をたもちながら,収容者処遇の各種のテーマにとりくんでいる。そのテーマは,医学,精神医学,心理学,社会学などの分野における専門かつ高度の研究におよんでいる。
 たとえば,昭和三五年度「矯正医学」誌および日本矯正医学会に発表された研究報告をあげると,
分類,鑑別,診断に関するもの 二七
処遇および治療(心理療法など)に関するもの 一六
再犯および非行予測に関するもの 五
受刑者および非行少年の精神医学的研究に関するもの 五
受刑者および非行少年の身体医学的研究に関するもの 七
拘禁の身体的,精神的影響に関するもの 五
基礎医学的研究 八
臨床医学的研究 九
 その他八〇余に達し,なお,目下,継続中の重要な研究テーマは,次のとおりである。
非行少年および犯罪者の内分泌学的研究
身体に障害のある非行少年および犯罪者の医学的,心理学的研究
「問題収容者」の医学的,心理学的,および社会学的研究
薬物嗜癖(アルコール,麻薬,覚せい剤)のある非行少年および犯罪者の医学的,心理学的および社会学的研究
拘禁環境下の生活基準に関する研究
拘禁性精神障害―拘禁反応,拘禁性精神病―の研究
拘禁下の異常行動(自傷,詐病,拒食)の医学的および心理学的研究
拘禁環境におけるストレスの解明と対策に関する医学的研究
矯正技術としての集団心理療法およびグループ・カウンセリングの研究
精神障害による非行少年および犯罪者に対する薬物治療―精神薄弱者および精神病質者に対するガンマ・アミノ酪酸(ギヤバ),脳加水物(センモン),クロルブロマヂン,選択的精神安定剤(マントールまたはバランス)等の使用
 昭和三五年秋,東京にて開催された第一回日米矯正医学合同会議においては「矯正施設のストレスの諸問題」がパネル・デスカッションの形式でとりあげられ,拘禁の近代的意義,拘禁の心身におよぼす影響,拘禁場面における適応,矯正施設内での心理療法の特殊性,矯正施設においてストレスが作用する場合の条件と反応等が討議された。