前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和36年版 犯罪白書 第二編/第二章/三/3 

3 無罪率

 無罪は,主として犯罪の証明がないときに言い渡されるが,このほか,心神喪失とか,罪とならずなどの理由によっても言い渡される。司法統計年報により,通常第一審における無罪の人員とその比率を昭和三〇年から昭和三四年の五年間につき示すと,III-12表のとおり,昭和三〇年の〇・七%から漸減を示し,昭和三四年は〇・四%となっている。ところが,法務省刑事局の調査によって,公安犯罪に関する無罪率をみると,昭和三四年の終局被告人の総数三〇二人のうち,無罪となった者は三九人であって,その一二・九%を占めている。この異常に高い無罪率は,どのように説明すべきであろうか。公安犯罪の個々の具体的ケースを検討しなければ,これに対する答えは出し得ないと思うが,ただ,この種事件の特殊性に基づく事案の複雑性と捜査および公判維持の困難性が無罪率に影響を与えていることだけは疑いがない。もっとも,無罪となった三九人のうち,三二人については検察官控訴がなされ,このうち昭和三五年末までに一四人は上訴審で無罪判決が破棄されており,その他はまだ係属中である。一審の無罪判決は上級審で逐次是正される傾向にあるといえよう。

III-12表 通常第一審終局被告人中の無罪人員と率(昭和30〜34年)