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 昭和53年版 犯罪白書 第3編/第3章/第2節/3 

3 刑事処分歴と保護観察

 保護観察は個別処遇であり,保護観察対象者に対して,各人の持つ問題に応じた指導や援助が行われる。前節では,対象者の職業,生計等について概観したが,職業がなく,あるいは生計が極めて貧しい等の事由がある場合,再犯を防止するため保護観察所は,職業安定所や福祉事務所等の公共機関から必要な措置を受けられるよう援助し,時には,民間の協力を得て,保護観察対象者の更生を図っている。
 保護観察対象者中,特に累犯者に見られる特徴は,家族や親類,知人から全く見放され,住む所もなく,アパートを借りる資金もなく,家具や身の回り品すらないような者の多いことである。保護観察所は,こうした者については,更生保護会に宿泊保護を委託し,本人自身が働いて得た収入から生活資金等を準備させ,自立できるように仕向ける措置を執っている。もっとも,これは,本人の意思を無視して強制する性質のものでないことは言うまでもない。前節と同じく,昭和52年に保護観察を終了した仮出獄者と保護観察付執行猶予者とについて,その保護観察期間中に更生保護会から宿泊を伴う救護ないし援護の措置を受けたことの有無を,刑事処分歴の別に見ると,III-47表及びIII-48表のとおりである。仮出獄者の場合,総数において25.4%の者がこの措置を受けているに対し,保護観察付執行猶予者の場合は総数の2.6%と極めて低率である。これは,保護観察付執行猶予者は,仮出獄者に比べて,頼るべき縁故者の全くない者が少ないためである。仮出獄者について,刑事処分歴の別に見ると,懲役の実刑歴のある者においては,そのうちの42.6%,特に入所度数4度以上の者については,そのうちの55.3%がこの措置を受けている。これに次いで高い割合を示すのは,起訴猶予歴のある者の26.9%であり,懲役の執行猶予歴のある者の場合は18.9%である。保護観察付執行猶予者について見ると,起訴猶予歴のある者の9.2%が最も高く,懲役の実刑歴のある者の6.9%がこれに次ぎ,他はいずれも低率となっている。

III-47表 仮出獄者の刑事処分歴と宿泊を伴う救護措置(昭和52年)

III-48表 保護観察付執行猶予者の刑事処分歴と宿泊を伴う援護措置(昭和52年)

 最後に,刑事処分歴と保護観察の期間,保護観察の終了事由及び終了時の保護観察成績との関係を見る。一般に,保護観察の成績が良好で終了した者は,その後の再犯率において低く,更生する者が多いことにかんがみ,保護観察においては,対象者を良好の状態に導くよう努力が払われている。しかし,保護観察の期間が余りに短い場合には,対象者の成績が良好とも,不良とも言えない「普通」の状態で終了することが多い。保護観察付執行猶予者の場合は,少なくとも1年間の保護観察期間があるのに対し,仮出獄者の保護観察期間が概して短いことは,前述のとおりである(II-79表参照)。ここで,昭和52年に保護観察期間を満了した仮出獄者について,その期間を刑事処分歴の別に見ると,III-49表のとおりである。保護観察期間が1月以内の者は,総数において22.2%であるが,懲役の実刑歴のある者については34.7%,特に入所度数4度以上の者は41.1%である。仮出獄者のうち,社会的に不安定で,問題が最も多いと見られる懲役の実刑歴のある者,とりわけ入所度数を重ねている者に,保護観察期間の極めて短い者が多く,これらの者に対する保護観察を一層困難なものにしている。

III-49表 仮出獄期間満了者の刑事処分歴別保護観察期間(昭和52年)

 昭和52年の保護観察終了者について,終了事由及び保護観察成績を見たのがIII-50表である。まず,仮出獄者について,期間満了時の成績が「普通」であった者を見ると,総数においては43.7%であるが,懲役の実刑歴のある者では57.5%,特に入所度数4度以上の者では61.3%と高い割合を示している。これは,保護観察期間が極めて短いことによると考えられる。
 期間満了時の成績が不良であった者と再犯等によって仮出獄を取り消された者との合計を見ると,総数においては,その割合は8.0%であるが,懲役の実刑歴のある者では10.5%,特に入所度数4度以上の者では13.5%であり,以下,懲役の執行猶予歴のある者の9.4%,起訴猶予歴のある者の7.6%の順となっている。社会的に不安定な者が多いと見られた刑事処分歴のある者の場合において,保護観察が困難であることを示している。もっとも,懲役の実刑歴のある者であっても,終了者のうちの約3人に1人,また,入所度数4度以上の者であっても約4人に1人は,良好な状態で保護観察を終了していることは注目に値しよう。
 保護観察付執行猶予者について,期間満了時の成績が不良であった者と再犯等によって執行猶予を取り消された者との合計を見ると,その最も高い割合を示すのは,起訴猶予歴のある者で,54.0%という数値を示している。以下,懲役の実刑歴のある者の48.3%,同じく執行猶予歴のある者の46.1%の順である。ここにおいても,社会的に不安定な立場にある者が多いと見られた処分歴のある者の場合,保護観察によって更生に導くことが困難であることが認められる。もっとも,この場合にも,保護観察の期間中において,既に社会の順良な一員として更生したと認められて保護観察を仮解除され,そのままの状態で保護観察を終了した者の割合は,低率とは言え,懲役の実刑歴のある者に4.5%,同じく執行猶予歴のある者に7.3%,起訴猶予歴のある者に9.8%とそれぞれ見いだされる。

III-50表 刑事処分歴と保護観察終了時の成績(昭和52年)