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 昭和52年版 犯罪白書 第2編/第3章/第2節/6 

6 保護観察における新しい処遇活動

 近年の急激な技術革新や産業・経済の進展に伴い,社会構造や生活様式,更には価値観等広範な分野で大きな変動が見受けられる。このような情勢は,保護観察対象者の意識や行動に影響を与え,また,本人の更生に必要な社会資源を変容させている。このため,常に時代的・社会的背景を踏まえて弾力的に対処し,効果的な処遇方法を開発し,各種の施策や実験的試みが積み重ねられてきた。例えば,昭和46年には,保護観察の実効を高めるため,保護観察対象者を処遇の難易によって分類し,保護観察官と保護司の適切な処遇活動を事案に即して行わせる分類処遇制度が実施された。また,49年には,東京及び大阪の両保護観察所を実施庁として,保護観察官が,直接,人格考査及び環境調整等を行い,適切な処遇を実施するとともに,その臨床的経験を基礎に効果的処遇技法を開発する目的で,青少年対象者の処遇に当たる直接処遇制が導入された。更に,52年から,第3編第1章第7節で述べるように,特定の交通事件保護観察処分少年及び短期処遇を実施する少年院からの仮退院者に対して,短期の特別な保護観察が実施されることとなった。
 これらの施策のほかに,各保護観察所においては,効率的,効果的な処遇方法を自主的・積極的に求めて,独自の実験的試みを行っている。その試みには,次のようなものがある。
(1) 問題のある対象者に対する集団処遇
 保護観察は,本来,個別処遇が原則で,集団処遇は比較的問題が少ない交通事件対象者に対して試みられてきた。しかし,最近では,問題の多い対象者に対しても,個別処遇に加えて集団処遇が実施されてきている。例えば,シンナー等薬物濫用者に対して集団処遇を実施ないし企画している保護観察所は,昭和52年4月末日で7庁に及んでいる。これは,最近,保護観察対象者の中にシンナー等の薬物を濫用する者が激増していることに対応するものである。法務省保護局の調査では,52年4月末日現在,保護観察中の対象者総数の6.4%に当たる4,399人(保護観察処分少年では10.4%の3,887人,少年院仮退院者では11.6%の301人,仮出獄者では0.2%の16人,保護観察付執行猶予者では0.9%の195人)が,これらの薬物に関係しているか又は関係したことのある者となっており,これらの者に対する有効策が求められている。
 この集団処遇は,一,二泊程度の期間,一定の場所に集合させて実施するものや,夜間に特定の場所において数回にわたり実施するもの,あるいは平日に集中して実施するもの等,その方法は様々である。
 このほか,いわゆる暴走族を対象とする集団処遇を数庁の保護観察所で実施している。これらの集団処遇は,いまだ試行的段階にあり,その効果については今直ちに断定的に言うことはできない。しかし,集団処遇を取り入れることにより,専門家による適切な治療的手当てが可能なことや,好ましい方向への相互作用の効果を挙げ得るなどの利点があり,現に,そうした成果の幾つかが報告されている。
(2) 長期刑仮出獄者に対する特別処遇
 無期刑又は長期の有期刑等の仮出獄者の中には,長期にわたる受刑生活によって社会生活との間に心理的・境遇的落差が生じ,社会適応機能の衰えている者が多い。また,帰住予定先の受入れ状況も,本人が犯した罪や長期不在のために,社会感情,就職の見通し等に難点があって,受入れ態勢が十分でない場合がある。このような事情から,この種の仮出獄者の円滑な社会復帰を促進するために,本人の意向をも徴して,暫時(通常,3箇月ないし6箇月の間),更生保護会(本章第3節3で説明する。)に宿泊させ,社会適応上必要な機能を回復させるための訓練を積極的に施し,同時にまた,帰住予定先の環境の調整を行うなどの援助活動が2庁の保護観察所において試みられている。中間報告によると,長期刑仮出獄者の社会への円滑な導入にかなりの成果を挙げている。