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 昭和52年版 犯罪白書 第2編/第3章/第2節/5 

5 保護観察の結果

 保護観察に付された者の成績を検討するため,ここでは,保護観察対象者の所在不明の状況,保護観察の終了状況及び再犯・再非行の状況等について考察することとする。
(1) 所在不明の状況

II-73表 保護観察対象者の所在不明率(昭和47年〜51年)

 保護観察に付された者は,自分の住居を明確にしてこれを常に保護観察所に知らせておかなければならず,転居や旅行をする場合には,一定の手続を踏み,保護観察所長の許可(ただし,保護観察付執行猶予者の場合は届出)を必要としている。ところが,対象者の中には,当初から保護観察を忌避して出頭しなかったり,あるいは,説示や指導にもかかわらず無断で転居や旅行をして,そのまま所在をくらまして保護観察を離脱する者がある。
 このような所在不明となった者の状況は,II-73表に示すとおりで,昭和51年末現在の所在不明率は,保護観察処分少年が2.7%で最も低く,少年院仮退院者は7.6%,保護観察付執行猶予者は8.1%であり,仮出獄者は20.7%で最も高い。仮出獄者の所在不明率が高いのは,仮出獄者が所在不明になると保護観察が停止されて刑期の進行が止まり,時効が完成するまで保護観察事件が終結しないので,所在不明者数が累積されていくためである。所在不明率の推移を見ると,全般に減少傾向にあったが,51年には,横ばいないし上昇している。
 所在不明者には,一般に遵法精神が欠如した者や放浪性の強い者等が多く,しかも,指導監督や補導援護がなされないまま放任の状態におかれるので,再犯のおそれが極めて強い。これを防止するためには,保護観察の導入時における関係諸機関とのより緊密な提携や,所在不明に陥らせないための処遇技術の向上,所在発見のための積極的努力等が特に必要である。
(2) 保護観察の終了状況等
 保護観察は,良好措置や不良措置によって期間満了前に終了する場合もあるが,通常は,期間満了日まで継続して実施される。
 昭和51年中に保護観察を終了した者の終了事由及び終了時の成績を見たのが,II-74表[1]ないし[4]までである。
 まず,同表の[1]により保護観察処分少年について見ると,保護観察終了者総数中,保護観察を解除された者は1万3,057人(56.3%),良好停止のまま終了した者は27人(0.1%)である。期間満了者は7,074人(30.5%)であるが,終了時の成績が良好な者は2,648人(11.4%),反対に不良の者は242人(1.0%)である。取消しによる終了者は1,777人(7.7%)である。総じて,良好な状況で保護観察を終了した者の割合は67.8%と,その率は高く,不良な成績で終了した者は9.5%にすぎない。これは,この種の対象者の中には比較的問題の少ない交通事件対象者が多く含まれていることのほか,保護観察がこれらの者に対して有効に作用していることによるものと思われる。

II‐74表 保護観察終了者の成績区分人員(昭和51年)

 少年院仮退院者については,同表の[2]のとおり,成績良好で退院の決定があった者は98人(5.3%),反対に成績不良により戻し収容をされた者は15人(0.8%),取消しのあった者は271人(14.8%)である。全般に,良好な状況で終了した者と不良な状況で終了した者の占める率はほぼ同じで,いずれも終了総数の約四分の一である。
 仮出獄者については,同表の[3]に示すとおりである。不定期刑終了者は,不定期刑受刑者そのものの人員が僅少な関係もあって,その数は極めて少なく,6人である。期間満了者は1万3,234人(90.9%)でその人員が多いが,これは,恩赦による場合を除いては保護観察を終了させる措置がないという法制上の制約によるものである。仮出獄の取消しを受けた者は842人(5.8%)である。全体的に,良好な状況で終了した者は終了者総数の24.4%を占めているが,不良な状況で終了した者は7.6%で,その率は比較的低い。
 保護観察付執行猶予者については,同表の[4]のとおりである。期間満了によって終了した者は4,444人(60.9%)であるが,そのうち,仮解除中に終了した者は792人(10.8%)である。執行猶予の取消しによって終了した者は2,099人(28.7%)で,その数はかなり多い。総じて,良好な状況で終了した者の終了総数中に占める率は36.2%,また,不良な成績で終了した者の占める率は31.1%である。保護観察付執行猶予者については,保護観察が比較的長期間実施され,その間,対象者の行状が十分は握されるため,良好な状況で期間を終了し得た者のほとんどは社会適応に成功していると思われ,しかも,このような成功例が相当数あることは好ましい結果と言える。しかし,その反面,再犯等で執行猶予が取り消される者もかなりの数に及んでおり,そこに問題が認められる。この点に関しては,次の(3)で触れる。
(3) 再犯・再非行の状況
 保護観察中の再犯や再非行については,違反事実の内容,本人の行状,その他諸般の状況を総合的に検討して,なお本人の更生が期待される場合には,保護観察が継続される。しかし,保護観察の目的は,対象者の更生を図るとともに再犯を防止して社会の保護を図ることにある。このため,保護観察の評価基準として,再犯の有無が取り上げられている。
 II-75表は,保護観察終了者について,保護観察中の犯罪・非行により処分を受けたことのある者の処分状況を示している。昭和51年では,保護観察中に再犯・再非行に陥って処分を受けた者の総数は8,018人で,終了者総数の17.1%に当たる。これを保護観察種別ごとに見ると,その率は保護観察付執行猶予者で最も高く36.4%に及んでおり,少年院仮退院者では26.6%,保護観察処分少年では17.3%,また,仮出獄者では5.9%となっている。仮出獄者において再犯率が低いのは,仮出獄者には保護観察期間の短い者が極めて多いことが主な理由である。

II-75表 保護観察中の犯罪・非行により処分された者の状況(昭和50年,51年)

 このように仮出獄者の期間中における再犯率は極めて低いが,刑事政策的観点からは,仮出獄期間経過後も再犯に陥らせないことが重要である。この間の実態を見るため,II-76表によって,仮出獄者の期間経過後にわたる成行きを,満期釈放者のそれとの対比で検討することとする。同表は,全国の刑務所を仮出獄又は満期釈放によって出所した者の再入所状況を見たものである。仮出獄者にあっては,出所の当年にその約3%ないし4%,2年目以内に約12%ないし16%,3年目以内に約20%ないし22%に当たる者が再び刑務所へ収容されているが,満期釈放者にあっては,出所の当年にその約10%ないし13%,2年目以内に約30%ないし35%,3年目以内に約41%ないし46%に当たる者が,それぞれ再収容されており,仮出獄者の成行きは,満期釈放者に比べてはるかに良好であることがわかる。この結果は,各人の資質及び帰住環境の差などによるもののほか,仮釈放者については,保護観察を通じて行われた改善更生への働きかけの効果が寄与したものと考えられる。なお,近年,仮出獄者,満期釈放者共に,わずかではあるが再入率が高くなる傾向が見られる。

II-76表 仮出獄者と満期釈放者の成行き(昭和47年〜51年)

II-77表 執行猶予を取り消された保護観察付執行猶予者の再犯に至るまでの期間別(累積)人員分布

 他方,保護観察付執行猶予者のうち,昭和51年末までに執行猶予を取り消された者について,再犯に至るまでの期間別(遵守事項違反であれば,検察官に対する申出までの期間であるが,遵守事項違反による取消しは極めて少ないので,表中の大部分は,再犯による取消しである。)に累積人員の分布を見ると,II-77表に示すとおりである。これによると,保護観察開始後3月以内に再犯をする者が4%前後で,6月以内になると約7%から9%,1年以内は13%前後,2年以内には約20%となっていて,保護観察が必ずしも十分に軌道に乗らない早期に再犯に陥る者が少なくないことが注目される。