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 昭和51年版 犯罪白書 第1編/第2章 

第2章 生命・身体犯の動向

 刑法犯を代表する犯罪類型の一つとして,殺人,強盗殺人,傷害等のように,人の生命・身体に対する侵害を内容とするものがあり,これらを一般に「生命・身体犯」と呼んでいる。この種の犯罪は,特別法犯などとは異なり,国家の行政施策と直接のかかわりがなく,また,国情の相違を超えて一般に犯罪性の明白なものとして,国民の犯罪観の中に定着していると言える。この種犯罪の増加及び悪質化は,市民生活に重大な脅威と不安を与えるが,反対に,その減少は,法秩序を安定させる要因となるものであるから,その犯罪動向は,一国,一地方の治安情勢を占う重要な指標であると言うことができる。
 我が国における生命・身体犯の動向を見ると,部分的に犯罪形態が変容し悪質化しながらも,一般的には犯罪発生件数が減少する傾向にあり,アメリカなど一部諸外国で殺人等の凶悪犯が増加し,治安上深刻な問題となっているのと対照的である。しかし,一方では,最近,こうした生命・身体犯の被害者及びその遺族の実態が問題とされ,犯罪被害者補償制度の必要性が叫ばれてきており,現在,法務省においても,その制度化について検討が進められている。
 そこで,本章では,最近までの我が国における生命・身体犯の推移を統計的に概観し,一部諸外国における同種事犯の動向との比較を行い,更に,法務総合研究所が最近行った生命・身体犯の被害者等に関する実態調査などに基づいて,この種事犯の被害及び被害者等の実態を明らかにすることとする。
 なお,この種事犯は,暴力団関係者によって犯される割合が大きいが,暴力団犯罪については,第3編第3章第1節第2節において述べる。