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 昭和50年版 犯罪白書 第3編/第1章/第1節 

第1節 概況

 昭和40年代の少年犯罪は,量的に見ると,緩やかな起伏を示しながら流動的に推移しているが,その内容について見ると,複雑な社会的,経済的情勢の変化を反映して,多様な犯罪が,様々の形態をとって発生していることがうかがわれる。
 昭和49年の少年犯罪においても,前年に引き続く消費者物価の騰貴やその抑止施策等に伴う不況,経済成長の停滞など,一般犯罪動向に関連を持つと思われる社会的要因を巡る動きが多様化している時期であるだけに,その現象を明確に把握することは困難であるが,増減を反復する40年代の動きの一環としてとらえることができよう。同年の少年犯罪等に見られる主要な特色は,次のとおりである。
[1] 昭和49年における少年犯罪を量的に見ると,全体としては横ばい,業務上(重)過失致死傷等を除いた主要刑法犯についてはかなりの増加となっている。すなわち,49年に刑法犯で検挙された犯罪少年は,16万2,889人で,前年に比べて実数で約1,000人の減少となっているが,人口比(少年人口1,000人に対する検挙人員の割合)では0.1の上昇を示し,全体として,ほぼ横ばいとなっている。主要刑法犯については,実数で約7,000人,人口比で0.9上昇して少なからぬ増加ぶりを見せている。
 また,特に,女子少年犯罪の増加が著しく,検挙人員は1万7,286人,主要少年刑法犯検挙人員中に占める割合は14.9%となり,戦後の量的推移において,最も高い数値を示している。
[2] 罪名別に見て,前年との比較において増加している刑法犯は,横領,放火,窃盗,暴行等であり,減少しているのは,わいせつ,脅迫,傷害等である。横領は,昭和44年以降逐年増加を続けており,窃盗もまた47年以降増加傾向にあるが,暴行は,数年来の減少傾向が止まり再び増加を示すこととなったものである。主要刑法犯の全般的な増加傾向の中にあって,殺人や強姦など罪質の重い犯罪が減少し,万引きのような窃盗や自転車の占有離脱物横領など罪質の軽い犯罪が増加している事実は,最近における遊び型の少年犯罪の増加傾向が続いていることを示すものと思われる。
 なお,特別法犯については,銃砲刀剣類所持等取締法違反が前年に引き続き若干減少したものの,シンナー等の濫用による毒物及び劇物取締法違反は,前年より約59%増加して,大きな問題となっている。特別法犯全体としてはかなりの減少となり,実数,人口比ともに,昭和38年以降,最低の数値を示している。
[3] 少年犯罪における低年齢層化の傾向は,依然として進行している。昭和49年における主要刑法犯の検挙人員及び人口比は,年少少年及び中間少年において若干の増加,年長少年において横ばい,触法少年及び若年成人において若干の減少となっている。40年代のほぼ全般を通じて,年少少年及び中間少年の増加傾向と年長少年の減少傾向が認められ,両者の対照的な動きから低年齢層化の傾向が更に明確なものとなった。
[4] 道路交通による少年の業務上(重)過失致死傷の検挙人員は,前年に引き続き減少しており,これが年長少年の刑法犯の減少に大きく影響しているものと思われる。
[5] 触法少年は前年よりやや減少したが,全体としては横ばいである。虞犯少年は激減している。