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 昭和50年版 犯罪白書 第2編/第4章/第3節/2 

2 保護観察の実施状況

(1) 保護観察事件の受理及び処理状況

 初めに,犯罪者予防更生法施行以来の新受事件の推移を示すII-10図によって,その動きを見ることとする。戦後の貧困と混乱を背景とした窃盗,強盗の激増,詐欺,恐喝,傷害,殺人等の増加傾向によって特徴づけられる戦後の犯罪情勢は,ある程度保護観察事件にも反映している。保護観察新受人員は,昭和27年を第一のピークとして,28年には大幅に減少し,その後は緩やかに上昇し,35年を第二のピーク,41年を第三のピークとし,同年以降逐年減少の一途をたどっている。ところが,これを保護観察の種別ごとに見ると,それぞれ,異なった動きが見られる。すなわち,26年に保護観察処分少年が大幅に増加し,27年に少年院仮退院者がこれまた増加している。この事実は,26年に少年法の適用年齢に関する制限が撤廃され,従来の18歳未満から20歳未満となったために生じたものである。また,25年以来減少に向かっていた仮出獄者が27年に至って突如急増したのは,同年に講和恩赦が行われ,その影響によるものであろうことは容易に推測できよう。以来,仮出獄者は,若干の起伏を示しつつ逓減を続けている。また,保護観察付執行猶予者の29年以降の増勢は,いうまでもなく,同年に施行された執行猶予者保護観察法の結果であるし,41年をピークとする保護観察処分少年の増加傾向は,交通事件に関する保護観察が大幅に導入され始めたからにほかならない。

II-10図 保護観察新受人員の推移(昭和24年〜49年)

 このようにして,保護観察事件における新受人員の推移は,背景となる犯罪・非行情勢の変動に照応すると同時に,制度,施策等の沿革により強く影響されるものであることがわかる。なお,新受人員の罪名,非行名の構成比における推移は,相当程度に犯罪,非行の時代的変遷の跡を投影している。II-11図は,昭和34年,39年,44年,48年,49年の新受人員の罪名,非行名の構成比を示すものであるが,事件種別によって,増減率こそ違え,窃盗における共通な減少傾向や,保護観察処分少年及び保護観察付執行猶予者における道路交通法違反及び業務上(重)過失致死傷の比率の増加傾向等に犯罪情勢の変動,推移の跡を鮮やかに見いだすことができる。

II-11図 事件種別新受人員の罪名・非行名の構成比(昭和34年,39年,44年,48年,49年)

 最近5年間における保護観察事件の受理及び処理の状況は,II-87表のとおりである。これによると,新受,終了及び年末現在人員は,保護観察付執行猶予者の場合を除き各保護観察種別とも近年一様に減少の傾向をたどってきたことが知られる。昭和49年の全種別総数についていえば,新たに保護観察の対象となった者の総数は4万4,310人,終了人員は4万7,981人,同年末の人員は6万8,652人で,それぞれ,前年に比べ4%ないし7%の減少になっている。

II-87表 保護観察事件の受理及び処理人員(昭和45年〜49年)

 なお,昭和49年の各種別保護観察新受人員の総数に占める割合は,保護観察処分少年が半数に近く(45.0%),仮出獄者(35.1%),保護観察付執行猶予者(15.8%),少年院仮退院者(4.1%)の順となり,その比率は前年とほぼ同様である。例年,数人はあった婦人補導院仮退院者は,49年には該当者がなかった。

(2) 保護観察期間

 昭和49年の新受人員について,保護観察の種別ごとに保護観察期間を見ると,II-88表のとおりである。保護観察期間は,保護観察の種別によって期間の長短に著しい差異がある。仮出獄者では,2月以内の者だけで54.5%を占めているのに対し,保護観察処分少年では,1人の例外を除きすべて2年以上であり,また,保護観察付執行猶予者では,2年を超えるものが94.8%で,しかも,そのうちの49.3%までが3年を超え5年以内のものであり,保護観察期間の長い者が最も多い。保護観察処分少年及び保護観察付執行猶予者に比べ,少年院仮退院者及び仮出獄者は,保護観察期間が全般的に短くなっている。この保護観察期間における幅の大きさは,(5)で述べる保護観察の成績とも密接に関連するところである。なお,保護観察の種別によって,保護観察の成績が良好な場合,保護観察を打ち切る措置が執られることがあるので,その点については後述する。

II-88表 新受人員の保護観察期間(昭和49年)

(3) 年齢・性別

 昭和49年の新受人員を性別・年齢層別に見たのが,II-89表である。性別では,女性は全体の3.6%にすぎない。また,年齢構成では,17歳以下が21.1%,18歳・19歳が28.0%であって,この両者だけで49.1%を占めている。これらの比率は,前年とほぼ同様であり,例年ほとんど変化を示していない。なお,仮出獄者にあっては20歳代が44.1%,保護観察付執行猶予者にあっては20歳代が57.1%を占めており,若年犯罪者の比重が大きいのが例年の傾向となっている。

II-89表 新受人員の性別・年齢層別人員(昭和49年)

(4) 罪名・非行名別

 昭和49年の新受人員の罪名・非行名別構成は,II-90表のとおりである。総数のうち,刑法犯が73.8%,特別法犯が25.1%,虞犯が1.1%となっており,窃盗が30.0%で最も多く,道路交通法違反の20.8%,業務上(重)過失致死傷の16.5%の順となっており,その比率,順位とも例年と変わらない。

II-90表 新受人員の罪名・非行名(昭和49年)

 これを保護観察の種別ごとに見ると,保護観察処分少年では,道路交通法違反が実数において前年の8,425人に比べ563人減少しているが,比率においては39.4%を占めて最も高く,窃盗は実数においてわずかながら増加し,比率においては前年の22.5%に比べ上昇して33.6%に達し,これに続いている。少年院仮退院者では,窃盗が依然過半数(54.9%)を占め,強姦(9.8%),虞犯(8.1%)の順で,これまた順位,比率とも前年とほとんど変わらない。仮出獄者の場合も,窃盗(34.1%)は,実数がわずかに減少したが,比率は前年と同様で最も高く,業務上(重)過失致死傷(18.3%)が実数,比率とも前年に比べ減少したものの依然第2位を占めている。強姦,詐欺はともに約1,000人,比率も約7%で,前年と変わりない。また,保護観察付執行猶予者では,前年に比べ,窃盗(32.4%)は実数がわずかながら増加し,比率もやや上昇し,依然第1位であり,これに次いで,業務上(重)過失致死傷(10.9%),道路交通法違反(10.2%),傷害(9.6%)などの比率が高く,これまた前年と傾向は変わらない。このように,新受人員の総数が減少し,罪名・非行名別構成ではおおむね変化がない中で,特徴的といえるのは,道路交通法違反による保護観察付執行猶予者の増加である。その数は,昭和48年において,前年に倍増し514人に達したが,49年においては更に増加して717人に達し,比率においても,7.2%から10.2%に上昇している。
 なお,交通事件の保護観察については,第3編第3章第4節で述べる。

(5) 保護観察の成績

 保護観察の対象者については,毎月「保護観察成績の総合評定基準」に基づき,次に示す4段階による保護観察経過の総合評定が行われる。
良:生活にほとんど問題が認められず,一般の健全な社会人と同等の水準に達していると認められる者。
やや良:ほぼ安定し,一般の健全な社会人と同等な水準に近づいていると認められる者。
普通:やや不安定で,指導監督上相当の注意を要すると認められる者。
不良:不安定で,指導監督上強力な措置を要すると認められる者。
 最近5年間に,期間満了で保護観察を終わった者の終了時の成績は,II-91表のとおりである。良好(良,良好停止中,仮解除中)とやや良の占める割合が逐年段階的に上昇し,不良とその他が減少しているのが,近年の傾向である。保護観察の種別による内訳を見ると,前年に比べ,仮出獄者を除く他の種別における良好群の占める比率が,それぞれ,2%ないし3%程度上昇し,また,従来他の種別に比べ良好の割合が少なく,不良が著しく多かった少年院仮退院者の成績が,わずかながら向上していることが注目される。

II-91表 期間満了による保護観察終了者の成績累年比較(昭和45年〜49年)

 仮出獄者に不良と評定された者が少ないのは例年のとおりで,その他も1.2%にすぎず,保護観察の種別中最も低率であるのは,先に,(2)保護観察期間において述べたように,仮出獄者の保護観察期間が一般に短く,成績不良等と認定される前に期間が満了する場合が多いためと推測される。

ア 保護観察の成績良好者に対する措置

 保護観察に付された者は,法定の期間が満了する前であっても,保護観察の成績が引き続き良好で,一般の健全な社会人と同等の水準に達していると認められ,これ以上保護観察を行う必要がないと思われるときは,保護観察の終了,停止又は解除あるいは仮解除等の措置を受けることができる。このような成績良好者に対する措置の内容・基準は,保護観察の種別によって異なるが,最近5年間において保護観察成績良好者に対して執られた措置の概況は,II-92表のとおりである。措置人員の総数において,前年に比べ730人の減となっているが,措置率においてはわずかながら上昇し,引き続き18%を超えている。

II-92表 成績良好者に対する保護観察所の措置(昭和45年〜49年)

 保護観察処分少年については,保護観察所長の権限で,試みに保護観察を停止し,又は解除することができるようになっているが,昭和49年中に行われた解除は,1万1,430人で,実数においては前年に比べ746人の減となっているが,解除率では更に上昇して27.5%となっており,逐年の上昇傾向が注目される。なお,解除された者のうち,75.9%に当たる8,670人は,交通事件で保護観察に付された少年である。
 次に,少年院仮退院者については,保護観察所長が地方更生保護委員会に対し退院申請を行い,決定があった場合に保護観察は終了する。この退院申請及び決定人員は,少年院仮退院者の減少に伴って減少傾向にあり,また,その比率は,少年院仮退院者の2%台にすぎない。
 仮出獄者については,不定期刑の者にだけ,成績良好な場合に保護観察を終了させることができ,この不定期刑終了は,保護観察所長から地方更生保護委員会に対する申請に基づいて決定される。昭和49年における不定期刑終了決定は7人である。
 保護観察付執行猶予者については,期間満了前に保護観察を終了させる制度はないが,成績良好で保護観察を実施する必要がないときは,保護観察所長から地方更生保護委員会に対して申請し,その決定により保護観察の仮解除を行う。仮解除については,II-92表のとおり,実数,申請率ともに前年に引き続きわずかながら上昇しており,その結果,仮解除の状態で保護観察期間満了となった者の構成比が,II-93表の示すとおり上昇した。

II-93表 期間満了者の仮解除の構成比(昭和45年〜49年)

イ 保護観察成績不良者に対する措置

 II-94表は,最近5年間に成績不良者に対して執られた措置の概況を示したものである。これによると,昭和49年中にこれらの措置が執られた者は1,017人で,ここ数年,総数,措置率ともほとんど変化はない。

II-94表 成績不良者に対する保護観察所の措置(昭和45年〜49年)

 保護観察処分少年については,遵守事項違反を理由とする矯正施設収容は認められておらず,その者に保護観察期間中新たな虞犯事由があると認められるときは,保護観察所長が家庭裁判所に対してその旨を通告することになっている。昭和49年中に行われたこの通告人員は100人で,通告率はわずか0.2%にすぎない。
 少年院仮退院者について,再び少年院に収容する必要が生じたときは,保護観察所長の申出に基づき,地方更生保護委員会は家庭裁判所に対して戻し収容の申請を行うことができる。昭和49年中の戻し収容の申出は23人で,前年よりわずかに減少している。
 仮出獄者については,新たな刑の確定又は執行を理由として仮出獄取消しを申報する場合と,遵守事項違反を理由として仮出獄取消しを申請する場合とがあり,いずれも地方更生保護委員会において決定される。昭和49年中の仮出獄取消申請・申報人員は,817人で前年よりわずかに減少しているが,申請・申報率はむしろ上昇している。なお,49年中に仮出獄が取り消された者は,前掲II-82表に見るとおり,706人で,その内訳は,遵守事項違反を理由とするもの507人,新たな刑の確定を理由とするもの199人である。
 保護観察付執行猶予者については,遵守事項を遵守せず,その情状が重いため,猶予の言渡しを取り消すことを相当と考えるときは,保護観察所長が検察官に対し執行猶予取消しの申出をすることになっている。この申出がなされた者は,例年30人前後にすぎなかったが,昭和49年には77人に急増した。しかし,その申出率は0.4%にすぎない。そのほか,保護観察付執行猶予者が猶予の期間中に更に罪を犯したため執行猶予が取り消された者は1,526人で,同年中に保護観察を終了した保護観察付執行猶予者の23.0%を占めている。
 なお,地方更生保護委員会又は保護観察所長は,保護観察に付されている者が一定の住居に居住しないとき,又は遵守事項を遵守しなかった疑いがあり,かつ,呼出しに応じないか,応じないおそれがあるときは,裁判官があらかじめ発した引致状によりその者を引致させることができ,更に,引致された者につき,少年院への戻し収容,仮出獄の取消し,婦人補導院仮退院の取消しに関する審理及び執行猶予取消しの申出に関する審理を必要とする場合は,その者を引き続き一定の期間所定の施設に留置することができる。ただし,保護観察処分少年に限り,引致することはできるが,留置することは認められていない。II-95表は,最近5年間の引致及び留置の概況を示したもので.昭和49年中に引致され,更に留置された者は112人で,留置されなかったその他の者は引致後24時間以内に釈放されている。

II-95表 引致及び留置人員(昭和45年〜49年)

(6) 保護観察対象者の移動と所在不明

 近年の社会的・経済的変動による都市化その他の現象に伴う人口移動の激化は,保護観察対象者の場合も例外ではなく,保護観察期間中に移動する者が相当数あり,その中には無断で転居又は旅行する者も少なくない。保護観察対象者が他の保護観察所管内に移動したときは,原則として,保護観察事件は移動先の保護観察所へ移送される。II-96表は,最近5年間の保護観察事件の移送状況を示したもので,例年,移送受理率は19%前後を示し,対象者の地域移動の激しさを物語っている。なお,仮出獄者の移送受理率が他の種別に比べ例年著しく低く,6%ないし7%にとどまっているのは,保護観察期間が短い者が多いためである。

II-96表 保護観察事件の移送受理率(昭和45年〜49年)

 転居又は長期の旅行が保護観察を行う者の了解の下でなされる場合には,通常問題はないが,無断で行われる転居及び旅行は,所在不明の原因ともなりやすく,再犯に陥りやすい危険な場面といえよう。II-97表は,最近5年間の所在不明状況の累年比較で,昭和49年末現在の所在不明者の総数は4,674人で,実数,比率とも逐年減少している。なお,仮出獄者の所在不明率が例年20%台で,他の種別に比べ著しく高いのは,仮出獄者の場合には,本人が所在不明になると,保護観察が停止され,刑期の進行が停止するので,仮出獄者の所在不明数の中に,停止による累積人員が含まれるためである。

II-97表 所在不明状況累年比較(昭和45年〜49年)

(7) 保護観察の終了状況及び期間中の再犯

 昭和49年中に保護観察が終了した者の総数は4万7,981人で,そのうち,3万2,051人(66.8%)は保護観察期間満了によるものである。このほか,保護観察成績の良好者又は不良者に対する特別措置が執られ,あるいは再犯,再非行等により新たな刑事処分又は保護処分に付されたため,当初に予定された保護観察期間満了前に保護観察を終了した者がある。II-98表は,保護観察の種別ごとに終了事由を示したもので,期間満了者の占める率では,保護観察期間の短い者を多数含んでいる仮出獄者が94.1%で最も高く,次いで,少年院仮退院者の82.9%,保護観察付執行猶予者の74.3%,保護観察処分少年の44.9%の順となっており,その順位は例年同じで,比率もほとんど変わらない。

II-98表 保護観察終了者の終了事由別人員(昭和49年)

 一方,保護観察中の犯罪・非行により処分された者の状況は,II-99表のとおりで,昭和49年中に,保護観察終了総人員の13.0%に当たる6,240人が保護観察中の再犯あるいは再非行により処分されている。これを保護観察の種別ごとの割合で見ると,保護観察付執行猶予者(30.3%)が最も高く,次いで,少年院仮退院者(24.0%),保護観察処分少年(12.7%),仮出獄者(4.6%)の順となっている。仮出獄者の割合が低いのは,保護観察期間が短い者が多いことによるものと思われる。これに対し,保護観察付執行猶予者の場合は,保護観察期間2年を超える者が約95%も占めており,総じて保護観察期間の長い者が多いため,この間に再犯に陥る場面が生ずるものと考えられる。なお,保護観察中の犯罪・非行等により処分された者の処分結果は同表のとおりで,保護観察付執行猶予者の場合76.5%,仮出獄者の場合46.7%が,それぞれ,懲役刑によって占められている。

II-99表 保護観察中の犯罪・非行により処分された者の状況(昭和49年)