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 昭和48年版 犯罪白書 第2編/第3章/第2節/6 

6 保護観察実施上の問題点と処遇の動向

 保護観察対象者の数は,近年減少の傾向にある。しかし,前述のとおり,保護観察中に再犯に陥る者,あるいは所在不明となる者の割合は少ないとはいえず,それらの中には,社会の注目を集める重大な再犯を行う者もまれにみられる。また,近年対象者の移動が激しく,特に大都市及びその周辺への集中傾向が顕著で,所在不明には至らない場合であっても,対象者との緊密な接触の保持にかなりの困難を伴う場合が少なくない。法務総合研究所の調査によっても,地域社会のつながりを前提とする従来の保護観察活動が,都市化又は流動性の激しい地域で,より多くの困難を伴いつつあることが示唆されている。時代に即応した保護観察処遇体制の強化が望まれるゆえんである。
 我が国の保護観察は,保護観察官と保護司によって行われることを建前としているが,従来,保護観察官の人員が少ないため,かなり処遇のむずかしい対象者の場合でも,これを主として民間篤志家である保護司にゆだねざるを得ない状況にある。全国の保護観察所の数が50庁,同支部の数が3か所に限られていることも,保護司の活動に大幅に依存しなければならない一因となっている。
 しかし,このような状況下にありながら,近年では,保護観察官が,条件の許す限り直接対象者に接し,自らの専門的知識・技術を処遇に反映させるための制度が行われつつある。次に述べる保護観察官の定期駐在,分類処遇及び集団処遇等の諸方法がそれである。保護観察官の人員等に制約があり,総じてまだその端緒を開いた段階にすぎないが,これらの方法が更に進められる場合,その成果が期待されるところである。

(1) 保護観察官の定期駐在

 定期駐在は,保護観察官が,対象者,保護司及びその他の関係者との接触を密にするため,一定の日に,自分が担当する地区内の一定場所に駐在して,保護観察の業務を行うものである。
 法務省保護局が実施した昭和47年の調査によれば,965か所を拠点として,全国の大部分の地区において駐在が行われ,47年1月から同年3月まで3か月間の実施延べ回数は,1,559回,また,同期間に保護観察官が定期駐在により面接した人数は,1万6,941人(1回平均約11人)に及んでいるが,このうち,保護観察対象者の数は7,508人であった。これは,同年2月末現在の全国保護観察対象者総数8万802人の約9%に当たる。

(2) 分類処遇

 保護観察の対象者を,一定の基準に基づく処遇の難易度に応じてA及びBの二段階に分類し,困難なAのケースに対し,保護観察官が重点的に処遇上の配意を行う方法は,昭和42年以来一部に実施されていたが,46年からは,全年齢層,全地域に拡大適用されるようになった。法務省保護局の調査によれば,48年3月末現在においてAに分類されていた者は約10%であった。これらの者に対しては,前記の定期駐在その他あらゆる機会をとらえて,重点的な処遇が試みられている。

(3) 集団処遇

 従来,保護観察においては,専ら個別的に処遇が行われていたが,近年,道路交通法違反及び車両運転等による業務上(重)過失致死傷の事件により保護観察に付される少年の増加に伴って,グループ・カウンセリング,共同学習,座談会,講義などを組み込んだ集団処遇が行われるようになり,現在では,大多数の保護観察所がこれを実施している。なお,一部の保護観察所においては,集団処遇を一般の保護観察少年に対しても意欲的に適用し,また,対象者の家族に働きかけるため,保護者の集会を開催しているところもある。