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 昭和48年版 犯罪白書 第1編/第4章/第3節 

第3節 連合王国の都市犯罪

 イギリスにおける代表的な大都市であるロンドンにおける犯罪動向をみることにする。I-75表は,1963年から1971年までのロンドンにおける要正式起訴犯罪(無謀運転による過失致死傷を除く。)の発生件数の推移を示したものである。要正式起訴犯罪(Indictable offences)とは,原則として,正式起訴状により起訴され,審理,裁判すべき犯罪をいい,ほぼ我が国の刑法犯に当たるものである。ロンドンでは,1963年から1971年までの間に,人口は817万人から742万人に減少しているが,同表により,1963年の件数を100とする指数によって発生件数の推移をみると,1971年において,総数では149に増加しており,その内訳では,すべての罪名にわたって増加している。すなわち,最も増加の著しいのは偽造であり,1971年の指数が306となっているほか,強盗が280,詐欺が234,傷害・暴行が225,強姦が218,賍物が215,殺人が208などとなっている。また,1971年の罪名別構成をみると,窃盗が62.5%で最も多く,次いで,不法侵入の23.5%,詐欺の6.1%,賍物及び傷害・暴行の各2.2%の順となっている。これによって,窃盗,詐欺及び賍物を合わせた財産犯が総数の7割を占めていることが分かる。

I-75表 要正式起訴犯罪発生件数(ロンドン)(1963年,1965年,1967年,1969年,1971年)

 ロンドンにおける犯罪動向を連合王国(イングランド及びウェールズ)全国の犯罪傾向と比較すると,1963年から1971年までの間に,全国における要正式起訴犯罪の発生件数は1.67倍に増加しているのに対して,既に述べたとおり,ロンドンでは1.49倍の増加である。また,同期間における罪名別の推移を比較すると,ロンドンの増加率は,殺人,強姦,その他の性犯罪,詐欺及び偽造において,全国の増加率を超えているが,その他の罪名では,全国の増加率を下回っている。1971年のロンドンと全国における罪名別の構成を比較すると,両者の罪名別構成はほぼ同じである。ただ,ロンドンにおいては,不法侵入の総数中に占める割合が,全国の割合よりも低く,窃盗,強盗,詐欺及び偽造の割合が全国の比率よりも高くなっていることが目につく。
 次に,ロンドンにおける要正式起訴犯罪による逮捕者の年齢層別推移をみると,発生件数の増加に応じて,逮捕人員も1963年の4万5,472人から1971年の8万6,287人に増加している。これに伴って,年齢層別構成にも変化が生じ,21歳以上の成人層では,1963年の総数の57.3%から1971年の50.2%に低下しているのに対し,14歳未満の児童層では,10.3%から11.6%に,14歳以上17歳未満の少年層では,14.4%から18.5%に増加し,17歳以上21歳未満の青年層でも,18.0%から19.7%に上昇している。このように,ロンドンでは,ニューヨークと同じく,特に青少年層による犯罪の増加が著しいことを示している。
 また,他の欧米諸国の大都市と同様に,ロンドンにおいても麻薬犯罪が増加している。ロンドン警視庁警視総監の報告書によると,治安判事裁判所及び少年裁判所に危険薬物法〔1965年〕及び薬物(乱用防止)法〔1964年〕違反(ヘロイン,モルヒネ,コカイン,合成麻薬,あへん及び大麻事犯を含む。)により起訴された件数は,1967年の2,972件から1971年の6,850件に激増している。最近のロンドンにおいても,アメリカの大都市ほど深刻ではないが,麻薬犯罪が増加の一途をたどっていることが注目される。
 なお,1971年のロンドンにおける死傷の結果を伴う交通事故数は,5万4,252件であり,死者は739人,負傷者は5万3,513人となっている。1972年の東京における死傷の結果を伴う交通事故数は3万7,266件(1971年には4万4,273件)であり,そのうち,死者が375人(1971年には479人),負傷者が4万7,864人(1971年には5万8,335人)であるのと比較すると,ロンドンにおける自動車交通等による被害状況も相当深刻であることを物語っている。