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 昭和46年版 犯罪白書 第三編/第一章/一/2 

2 少年刑法犯の動向

(一) 全般的推移

 昭和四五年に刑法犯で検挙された犯罪少年は,一九一,〇〇二人で,前年に比較して,三,一六四人の増加となっている。III-1表は,戦後における少年刑法犯検挙人員の推移を,実数と人口比(人口一,〇〇〇人に対する割合)について,成人のそれと対比しながらみたものであるが,これによって,少年刑法犯検挙人員の推移をみると,戦後の混乱と貧困とを背景として第一波がおこり,昭和二六年の約一三万四千人をピークとして,その後昭和二九年まで減少を続けたが,昭和三〇年から再び増勢に転じて逐年増加し,昭和四一年には約一九万三千人と,戦後最高の数字を記録し,その後は一八万人台を上下して,昭和四五年には再び一九万人をこえるにいたっている。

III-1表 少年・成人別刑法犯検挙人員および人口比(昭和21〜45年)

 次に,この推移を人口比によってみると,昭和二九年の九・〇を最低にして,以後は上昇傾向を示し,昭和三九年には一五・一となり,その後下降するかにみえたが,昭和四三年には一五・六,四四年には一六・五と上昇を続け,四五年には一七・七と戦後最高の数字を示している。
 この人口比の推移を,成人のそれと対比して図示したのが,III-1図である。成人の刑法犯については,検挙人員,人口比とも,昭和三八年から急増しはじめ,昭和四五年には,検挙人員約八八万人,人口比一二・六と,いずれも戦後最高を記録している。これは自動車交通に起因する業務上(重)過失致死傷の激増によるものである。

III-1図 少年・成人別刑法犯検挙人員人口比(昭和21〜45年)

 なお,刑法犯検挙人員総数中に占める少年の割合は,昭和三八年の二八・七%を頂点に,その後は漸減して,昭和四五年には一七・八%となっているが,有責人口(一四歳以上の人口)中に占める少年人口の割合の一三・四%よりは,かなり上回った割合である。
 ところで,自動車事故の激増に伴って,業務上(重)過失致死傷の刑法犯検挙人員中に占める割合が,逐年増加を示してきていることについては,前に述べたところであるから,ここでは業務上(重)過失致死傷を除いた主要刑法犯について,少年刑法犯の推移をみることとしたい。
 なお,ここで主要刑法犯とは,窃盗,詐欺,横領(業務上横領,占有離脱物横領を含む。),背任の「財産犯」,暴行,傷害・同致死,脅迫,恐喝の「粗暴犯」,殺人(尊属殺,殺人予備,自殺関与を含む。),強盗,準強盗,強盗致死傷,強盗強姦・同致死の「凶悪犯」,強姦・同致死傷,強制わいせつ・同致死傷,公然わいせつ,わいせつ文書・図画の頒布・販売の「性犯罪」および放火,賭博をさしており,業務上(重)過失致死傷のほかには,検挙人員において数の少ない準刑法犯等数種の罪名を,全刑法犯より除外したものである。この主要刑法犯について,さきのIII-1表と同様の比較をしたのが,III-2表である。これによると,成人の検挙人員は,戦後の混乱と貧困とを背景とした昭和二六年の約三八万人から,経済的発展とともに漸減の一途をたどって,昭和四四年には約二三万六千人と最低の数字を示したが,昭和四五年は,前年より増加して約二三万九千人となっている。

III-2表 少年・成人別主要刑法犯検挙人員および人口比(昭和26〜45年)

 これに対し,少年においては,昭和二六年の約一二万七千人から昭和二九年の約八万五千人まで逐年減少をみせたものの,成人の場合とは異なって,昭和三〇年から増勢に転じて第二波が始まり,昭和三九年の約一五万一千人を頂点とし,その後,また漸減の傾向を示して,昭和四四年には,約一〇万一千人となった。しかし,昭和四五年には約一〇万九千人と再び増加に転じたことが注目される。
 これを人口比でみると,成人においては,検挙人員と同様,ほぼ一貫して漸減傾向を示しているのに対し,少年においては,検挙人員と同様の二つの波型を示し,さらに昭和四四年を谷として,昭和四五年には上昇に転じている。これを成人と少年との対比という観点からみると,主要刑法犯の人口比は,戦前においては,成人が少年をりようがしていたが,戦後に至って,少年は成人に接近し,第一波に入って,その数字が逆転して少年が成人を上回り,III-2図に示すとおり,成人は逐年減少の一途をたどってしだいにその差を開き,第二波の頂点である昭和三九年には,成人の四・三に対し,少年は一二・〇となっている。その後も二倍を上回る状況が続き,昭和四五年には,成人の三・四に対し,少年は一〇・一と,成人の三倍に近い数字を示すに至っている。また,検挙人員総数中に占める少年の比率についてみると,昭和四五年は,三一・三%であって,有責人口中に占める少年の割合一三・四%を大きく上回る数字となっており,さらに後述の触法少年の増加傾向をみても,少年刑法犯の動向は,けっして楽観を許さない状況にあるといえよう。

III-2図 少年・成人別主要刑法犯検挙人員人口比(昭和26〜45年)

(二) 主要罪名別考察

 昭和四五年における刑法犯検挙人員を,主要罪名別に示し,さらに,刑法犯検挙人員総数中に占める少年の割合を求め,これを前年の数字と対比したのがIII-3表であり,少年刑法犯検挙人員中に占める各主要罪名の構成比を図示したのがIII-3図である。

III-3表 主要罪名別少年および全刑法犯検挙人員(昭和44,45年)

III-3図 主要罪名別少年刑法犯検挙人員構成比(昭和45年)

 これをみると,昭和四五年の検挙人員で最も多いのは,業務上(重)過失致死傷の七七,〇〇八人で,少年刑法犯検挙人員総数の四〇・三%を占め,窃盗の七六,三一四人,四〇・〇%が,これに次いでいる。これらに続いて,傷害,暴行,恐喝の順となるが,この三罪名に脅迫を加えた粗暴犯の検挙人員は,二五,八八八人となり,総数の一三・六%を占めている。
 なお,罪名別検挙人員を前年に比較した場合,これまで逐年増加を続けて昭和四四年には,窃盗をしのいで第一位となった業務上(重)過失致死傷が,昭和四五年では前年より約二千八百人の減少をみせているのに対し,最近減少をたどっていた窃盗の検挙人員が前年に比較して約七千二百人も増加し,業務上(重)過失致死傷と大差ない数を示したことが注目される。そのほか,恐喝,暴行がかなり増加し,また脅迫,横領もわずかに増加しているが,その他は減少している。
 次に,昭和四五年の検挙人員総数中に占める少年の割合をみると,最もその割合の高い罪名は,恐喝の四四・三%で,以下,窃盗四四・〇%,強盗三八・六%,強姦三四・四%の順となっている。昭和四四年においては,窃盗が最も高く四三・一%で,恐喝四二・一%,強盗四〇・二%,強姦三六・八%となっており,昭和四五年においては前年に比して,恐喝と窃盗の占める割合が増加しているのに対し,強盗と強姦のそれが減少しているが,量的に八万近い検挙者をみている窃盗および恐喝,強盗などの悪質な犯罪の四割以上,もしくは四割に近い割合が,少年によって占められている事実については,留意を要する。
 次に,主要罪名別に,少年刑法犯検挙人員の昭和三〇年以降の推移を,同年を一〇〇とする指数で一年おきに示したのが,III-4表である。これをみると,業務上(重)過失致死傷の最近における激増に伴って,総数で,昭和三〇年以降一〇年間は,昭和四〇年の一九七に至るまで二倍近くも急伸し,その後の五年間についても一九〇台で推移している。罪名別にみて,昭和四五年において高い指数を示しているのは,わいせつ(二五〇),暴行(二三六)および恐喝(一七〇)であるが,過去の推移をみると,昭和四一年に,わいせつ(三六三)と暴行(三五六)については,三六〇前後の,恐喝については,昭和三八年に三七五の高い指数を示すピークがあって,昭和四五年に至っていることを指摘することができる。また,これらの罪名が粗暴犯ないし性犯罪であることにも,最近の少年犯罪の特色があらわれているとみてよいであろう。

III-4表 主要罪名別少年刑法犯検挙人員の指数の推移(昭和30,32,34,36,38,40,42,44,45年)

(三) 年齢層別考察

(1) 少年人口の推移

 犯罪の発生や増減は,基礎となる人口の動きと密接に関連している。
 III-5表は,少年の年齢区分を一四,五歳の年少少年,一六,七歳の中間少年および一八,九歳の年長少年の三段階の年齢層にわけ,これに二〇歳ないし二四歳の若年成人を対比させて,昭和三五年以降同五〇年までの人口の推移を示したものである。これによると,昭和三五年の少年人口は,一,〇八二万人であったのが,その後,逐年増加して,昭和四一年には一,三三七万人のピークに達し,以後は減少傾向に転じて,昭和四五年には一,〇七九万人(前年より約六一万人の減少)となっており,昭和五〇年には九三六万人まで減少することが推計されている。このことを,昭和三五年を一〇〇とする指数で表わすと,ピークの昭和四一年は一二四になるが,昭和四五年には一〇〇に,さらに昭和五〇年には八六に低落する。

III-5表 少年人口の推移(単位1,000人)(昭和35〜50年)

 また,年齢層別には,年少少年は,昭和三八年をピークとして減少傾向をたどり,中間少年は,昭和四〇年を,年長少年は昭和四二年をピークとして,いずれも減少に向かっている。そして,ここしばらく増加を続けてきた若年成人の年齢層も,昭和四六年をピークに,以後は減少に向かうことが予測される。
 したがって,昭和四五年の少年人口は,戦後のいわゆるベビー・ブーム期の影響をほとんど受けていない構成になっており,そのすべてが,同期以後の出生率が減退した時期に生まれた少年によって占められていることとなる。

(2) 刑法犯の推移

 少年犯罪の増減にみられる戦後の動きの中で,第一波と第二波の谷底に位置する昭和二九年を起点にして,同年以降,昭和四五年までの刑法犯検挙人員を,年齢層別にとらえ,その実数と人口比の推移を示したのが,III-6表であり,このうち,昭和三五年からの人口比のみの推移を図示したのが,III-4図である。

III-6表 年齢層別刑法犯検挙人員および人口比の推移(昭和29〜45年)

III-4図 年齢層別刑法犯検挙人員の人口比の推移(昭和35〜45年)

 まず,年少少年についてみると,刑法犯検挙人員は,昭和三〇年から増加しはじめて,昭和三八年の六五,九五七人をピークに,昭和四四年の三一,五一一人と,ピーク時の半分を割るまで減少の一途をたどってきた。しかし昭和四五年には,再び増加し,前年増約七千人の三八,三七九人となっている。これを人口比でみると,昭和三二年から上昇しはじめ,昭和三九年の一四・〇をピークとして,同年以降昭和四四年まで下降傾向を示してきたが,昭和四五年は一転上昇して一一・六と,前年より二・七も増加している。
 中間少年の検挙人員は,昭和三一年から同三六年まで増加し,翌三七年に一度大きく減少したうえで,昭和四〇年には七三,二九七人を示すピークに達している。その後は昭和四四年まで下降傾向を示しているが,昭和四五年には上昇して五七,五六四人と,前年よりも,約二千人の増加をみせている。これを人口比でみると,昭和三〇年から増加しはじめ,昭和四五年までの傾向は,昭和三六年の一四・四を第一の山,昭和四〇年の一五・〇を第二の山とした上昇を示し,ことに,昭和四三年からは,前年の一三・七を底にかなり急なカーブで上昇して,昭和四五年の一六・四にいたっており,この人口比は,前年より一・七も増加している。
 年長少年の検挙人員も,昭和三〇年から増加しはじめ,昭和三六年の六二,七五八人を第一の山とし,その後減少したが,昭和四〇年から再び増加して同四四年の一〇一,二一六人を第二の山として,昭和四五年は前年より約六千人減少した九五,〇五九人となっている。これを人口比でみると,昭和四一年までは同三九年の一七・八を最高に起伏をみせながら緩慢に上昇し,昭和四二年以降になると,急速な増勢に転じて,昭和四五年には,二三・九と,これまでの最高の人口比を示し,中間少年を大きく引き離している。
 若年成人の検挙人員は,昭和三〇年から徐々に増加し,昭和三二年の一四八,二〇七人を頂点としてその後は徐々に減少し,昭和三七年を谷として以後は増加の一途をたどり,昭和四五年は,昭和三七年の二倍を上回る三〇五,七一六人に達している。これを人口比でみると,昭和三六年まではとくに著しい増減はなく,いわゆる横ばいないしは下降傾向にあったものが,昭和三七年の一五・四を谷として上昇に転じ,昭和四四年には二七・三,昭和四五年には二八・三と上昇速度はきわめて急である。
 このように,少年刑法犯検挙人員は,少年人口が減少に向かっているのにもかかわらず,年齢がすすむにつれて,実数,人口比とも多くなる傾向にある。
 ところで,昭和四五年の刑法犯検挙人員は,年少少年が,三八,三七九人で,前年の二一・八%にあたる六,八六八人の増加,中間少年も五七,五六四人で,前年の四・五%にあたる二,四五三人の増加となっており,これに対し,年長少年では九五,〇五九人で,前年の六・一%にあたる六,一五七人の減少をみせているが,このうち,年少少年にみられる急激な増加は,昭和四五年の少年犯罪における特徴的な傾向を示すものであろう。
 なお,以上述べたように,少年刑法犯検挙人員についてみられる増加の原因には,最近における業務上(重)過失致死傷犯の急増が著しい影響を与えていると認められるので,同事犯を除外した刑法犯の最近五年間における検挙実数および人口比の推移をIII-7表として年齢層別に示し,参考までに,若年成人のそれをも付記してみた。これをみると,年少少年,中間少年においては,検挙実数,人口比ともに,昭和四四年まで減少傾向にあったものが,昭和四五年からは一転して上昇しており,その傾向は年少少年において著しい。しかしながら,年長少年では,検挙実数,人口比ともに,逐年,減少してきている。また,若年成人では,検挙実数で増加の傾向を示しているが,人口比は横ばいないし減少の状況にあり,昭和四五年においては年長少年のそれよりもかなり低い。なお,昭和四四年から同四五年にかけて,年長少年および若年成人にみられた人口比の減少傾向を,前年差によって検討してみると,年長少年は,若年成人の前年差の約五分の一にあたる〇・二となる。また,この表に掲げてはいないが,一般成人についての人口比は,昭和四五年において三・八であるから,少年のうちで最も人口比の低い年長少年の九・〇という比率でもなお,一般成人の二・四倍にあたっている。このように,一般成人に比して少年における犯罪の出現率が高い事実については,十分な注意と関心とを向ける必要があろう。

III-7表 年齢層別刑法犯険挙人員および人口比(昭和41〜45年)

(3) 罪名・罪種別の傾向

 III-8表は,昭和四五年における刑法犯検挙人員についで,年齢層別,主要罪名別に,その実数と構成割合を示し,参考として若年成人のそれを付記したものである。

III-8表 年齢層別・刑法犯主要罪名別検挙人員(昭和45年)

 少年刑法犯の全体については,すでに述べたように,従来,罪名別割合において首位を占めていた窃盗が,昭和四四年から,その座を業務上(重)過失致死傷に譲り,同年において約一万人の検挙人員の開きをみせていたが,昭和四五年においては,両者の差が縮まって業務上(重)過失致死傷が窃盗をわずかに上回っている状況にある。これをまず年少少年についてみると,窃盗が七九・一%で圧倒的に多く,業務上(重)過失致死傷は一・五%にすぎない。窃盗に次いで多いのは,暴行,恐喝,傷害であるが,いずれも四,五%程度である。
 中間少年では,年少少年と同様に,窃盗が最も多いが,その割合は四六・〇%で,年少少年と比較すると著しく低くなっている。次いで業務上(重)過失致死傷の二九・五%で,他は,暴行の六・二%,傷害の五・七%,恐喝の五・一%,強姦の一・三%が,おもなものである。
 年長少年になると,窃盗は二〇・五%に低落し,代わって業務上(重)過失致死傷が六二・五%と,全体の三分の二近くを占める上昇を示し,前年に比べた場合,この構成比は一・四%の増加となっている。ただし,実人員は五九,四〇二人で,前年よりも二,五五五人減である。その他の罪名としては,傷害の五・五%,暴行の三・五%,恐喝の二・一%,強姦の一・四%などが目につくが,横領,恐喝,暴行,わいせつなどは,中間少年や年少少年より低率を示している。
 若年成人になると,さらに業務上(重)過失致死傷の割合が高くなり,七一・三%に達する。次いで窃盗が多いが,その割合は年長少年の場合よりさらに低く,一一・一%にすぎない。これに対して若干高くなっているのは,傷害の六・七%,暴行の三・六%であるが,恐喝,横領などについては,少年におけるいずれの年齢層よりも低率であり,注目をひく。
 なお,III-9表は,業務上(重)過失致死傷を除外した刑法犯について,罪種別,年齢層別にその構成比を示したもので,これによると,低年齢層ほど財産犯の占める割合が大きく,高年齢層ほど,粗暴犯の占める割合が大きくなっている。凶悪犯,性犯罪については,年少少年よりも中間少年,中間少年よりも年長少年が高い構成比を示しており,このことは性犯罪において顕著である。また,この凶悪犯,性犯罪についての構成比は,年長少年と若年成人との間では,類似した結果を示している。

III-9表 年齢層別・罪種別刑法犯検挙人員の構成比(昭和45年)