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 昭和46年版 犯罪白書 第二編/第二章/一/2 

2 受刑者の処遇

(一) 受刑者処遇の基本原則

 受刑者処遇の目標は,単に,刑罰の執行にとどまるものではなく,できる限り,受刑者の改善および社会復帰を図ろうとすることにある。「改正刑法準備草案」(昭和三六年)もこのことを明らかにし,刑の適用の目的を,「犯罪の抑制及び犯人の改善更生に役立つこと」におき,行刑上の処遇は,「できるだけ受刑者の個性に応じて,その改善更生に役立つ処遇をするものとする」としている。
 法務省当局は,以前から,この目的に沿って,監獄法,同法施行規則の運用を図り,行刑累進処遇令,受刑者分類調査要綱,受刑者職業訓練規則などの法令を整備してきた。しかし,受刑者処遇の基本となっている監獄法は,明治四一年に制定されたもので,大正一二年ごろから改正の企てがあり,戦後も新しい刑事政策の進展にそぐわないものがあるとして,昭和二二年および昭和二八年に監獄法の改正が計画され,検討が進められたが,改正の実現をみるまでには至らなかった。この間,矯正思潮の進展に即応するため,監獄法施行規則の一部改正が,しばしば行なわれてきており,とくに昭和四一年には,相当大規模な改正が行なわれて,昭和四二年一月から施行された。この一部改正では,独居拘禁期間およびその更新期間の短縮,一般的交談禁止の廃止,所長裁量による開放的処遇の導入,新聞紙などの閲読許可,受刑者の「丸刈り」を他の適当な調髪方法に改めることなどを主要なものとする,相当大きな改革がみられたが,収容者の法的地位を明確にすると同時に,矯正処遇の徹底,更生復帰の促進を図るためには,処遇の基本法である監獄法を新しい見地から構成し直す必要があり,法務省矯正局においては,昭和四二年七月,矯正局監獄法改正準備会を設け,監獄法を調査,検討して,監獄法改正のための草案作成の作業を進め,現在,検討が続けられている。

(二) 分類

(1) 分類調査

 新たに刑務所に入所した受刑者に対しては,入所時に,個々の受刑者について,科学的な調査を行ない,それぞれのもつ問題と資質との関係を明らかにして,本人に最もふさわしい処遇計画をたてることを目的として,分類調査が行なわれている。
 分類調査は,医学,心理学,社会学,教育学等の専門的知識および技術をできるだけ活用して行なわれるもので,犯罪の内容・経過,生活史,心身の特質,家族状況,近隣関係および所属集団などの資料のほか,施設収容の経験のある者については,その記録が用いられる。この分類調査においては,以上の資料を総合して,受刑者の個性をは握し,保安,作業,教育その他の処遇方針が具体的にたてられる。
 入所時分類調査の期間は,一般の刑務所では,一五日程度であるが,昭和三二年,中野刑務所に設けられた分類センターでは約二か月間にわたり,また,昭和三八年以来,各矯正管区に一か所ずつ設けられた分類業務充実施設では,約四五日間の収容期間に,とくに精密な分類調査が行なわれている。

(2) 分類処遇

 受刑者は,分類調査の結果に基づいて,それぞれ適正なグループ(分類級という。)に編入され,分類級に対応する別個の刑務所,または同一刑務所内の区画された場所に収容される。これは,同質の受刑者を一つのグループにまとめることによって,共通の処遇条件を樹立し,その上に立って処遇を行なうことは,個別的処遇を効率的にするばかりでなく,処遇設備を集約的に整備できる利点があるからである。なお,処遇の経過中,定期および臨時に,再調査を行ない,必要に応じて本人の分類級の変更が行なわれる。
 現在とられている分類級は,一一種で,この分類基準を,受刑者の改善の難易,性別,年齢別,刑名別,刑期別,国籍別および心身の障害の有無などにおいている。それらの分類級別符号およびその内容は,A級(性格がおおむね正常で,改善容易と思われる成人男子),B級(性格がおおむね準正常で,改善困難と思われる成人男子),C級(成人男子中刑期のとくに長いもの),D級(少年法の適用をうける男子少年),G級(A級のうち二五歳未満のもの),E級(G級のうち,おおむね二三歳未満で,とくに少年に準じて処遇する必要のあるもの),H級(男子中,精神薄弱HX・精神病質HY・精神病HZのため医療の対象となるもの),K級(男子中,身体疾患KX・身体故障KY・老衰,身体虚弱KZ等により療養または養護を必要とするもの),J級(女子),M級(外国人)およびN級(禁錮受刑者)である。
 昭和四五年一二月二〇日現在における分類級別人員は,総人員三八,九一一人のうち,B級受刑者が一八,八三〇人(四八・四%)と半数近くを占めている。次に多いのが,A級の六,六八五人(一七・二%)で,以下,G級一一・三%,C級八・九%,N級三・四%,H級三・四%,J級二・一%,K級一・八%,E級一・八%,D級一・六%,M級〇・一%の順となっている。
 分類制度は,このように分類級によって,それぞれ適切な内容の処遇を施すことを目的としている。
 たとえば,女子受刑者(J級)については,栃木,和歌山,笠松,麓の四刑務所と,札幌刑務所の女区とに収容されている。なお,妊産婦(妊娠五か月以上,産後二か月以内)は病人に準じて取り扱い,その子を満一歳に達するまで施設内で保育しうるなど,特別の考慮が払われているほか,処遇全般にわたって,女子の特性に応じた処遇が行なわれている。
 少年受刑者(D級)については,後述のように,少年刑務所が設けられ,特別の処遇が行なわれている(第三編第一章六参照)。
 老人受刑者(KZ級)についても,呉拘置支所に収容して処遇することが行なわれており,保安面を緩和し,作業内容を軽くし,居室・日課・レクリェーション等を老年者に適するようにし,また給食・医療対策を充実し,さらには帰住先を十分調整して,社会復帰を容易にすることに努めている。
 病気にかかった者については,医師が治療にあたり,必要がある場合には病室に収容するが,心身に著しい故障があって,重大な手術,継続的な治療あるいは特別な治療的処遇を必要とする者は,医療刑務所に収容して,疾患に応じた専門的治療が行なわれている。たとえば,八王子医療刑務所では,痴愚級以下の精神薄弱者に対する治療教育と,手術的処置または専門的治療を必要とする結核その他の疾患に対する治療が,岡崎医療刑務所および城野医療刑務所では,精神障害者に対する医療的処遇が,菊池医療刑務支所では,らい患者に対する治療が,それぞれ行なわれている。
 さらに,近年,業務上過失致死傷による禁錮受刑者(N級)の増加にかんがみ,交通事犯禁錮受刑者の集禁施設が設けられ,特別の処遇が行なわれている(第三編第二章四参照)。
 昭和四五年における分類級別による状況は以上のとおりであるが,最近における受刑者の収容状況,矯正処遇内容の進展および重点的分類処遇の必要性等にかんがみ,分類級別の改正と収容区分の広域化が検討されている。

(三) 累進処遇

 累進処遇とは,受刑者の自発的な改善への努力を,責任の加重と処遇の緩和とを通じて促進し,その程度に応じて,最下級(四級)から最上級(一級)へと段階的に累進させる受刑者の処遇方法であり,わが国では,行刑累進処遇令によって,昭和九年以降,全国的に統一して実施されるようになった。
 本令には,累進階級に応じた処遇差が設けられている。たとえば,四級,三級の受刑者には,原則として雑居制がとられ,二級以上の者には,昼間は雑居とし,夜間は独居制がとられている。作業の指導補助,自己のためにする労作等は,二級にならないと許されない。自己用途物品の許可範囲,接見および発信の制限も,上級に進むにしたがって緩和される。また受刑者の自治に基づく矯正処遇は,おおむね上級者において許されるのである。
 本令は,懲役受刑者にのみ適用されるものであるが,近年禁錮受刑者が増加し,その大部分が請願作業についていることから,禁錮受刑者についても,累進処遇に準ずる取扱いがなされている。
 累進処遇制度は,第一次大戦から第二次大戦の間,世界的に,受刑者の処遇にとりいれられた画期的なものであったが,第二次大戦後における社会思潮や矯正理論の発展等に伴って,受刑者処遇の最低基準に関する一般的な考え方が変わり,処遇差を設けることが困難な状況にあり,さらに,分類制度の発達は,矯正教育ないし治療の観点に立って,処遇の個別化を図ろうとし,単なる形式的平等をさけて,必要な処遇差を認めようとするものである等の点から,累進処遇については,今後,適当な優遇制度を統合した分類処遇体系とあわせ,検討されなければならないであろう。

(四) 教育活動

 受刑者に対する教育活動は,入所時および出所時教育,生活指導,教科教育,篤志面接委員による助言指導,篤志宗教家による宗教教誨,体育およびレクリェーション指導などの形で行なわれており,教育活動の実施にあたっては,ラジオ,テレビ,映画,ビデオ・コーダー等の視聴覚教育の方法が活用されている。
 生活指導は,受刑者の日常生活を通じて,しつけ教育を行なうとともに,個々の受刑者の心情の安定を図りつつ,正しいものの見方と考え方とを身につけさせることに目標を置いて行なわれる。このため,一般講演,読書指導,社会見学,クラブ活動,集会などを行なうとともに,個別または集団カウンセリングが実施されている。
 教科教育については,受刑者の教育程度が最近向上し,不就学,義務教育未修了者は,逐年減少しているが,義務教育修了者中にも学力が著しく低い者も少なくないので,これらの者に対して,国語,数学等基礎的教科が補習教育として行なわれており,なお職業指導をもかねて,珠算,簿記等の指導も行なわれている。
 また,通信教育は,昭和二四年以来,施設に導入され,学校通信教育と社会通信教育を主として,受刑者に教育の機会を与えている。受講生には,受講料を国費でまかなう公費生と,これを自弁する私費生とがあるが,昭和四六年三月までの一年間の受講生は,公費生一,六〇七人,私費生二,八二二人で,受講生の多い講座名は,簿記,電気工事,自動車,英語,中学・高校の課程の教科等となっている。
 篤志面接委員制度は,昭和二八年実施以来,逐年活発化し,昭和四五年末現在一,〇一〇人の篤志面接委員が委嘱されており,その面接回数は,昭和四五年中,集団に対するもの四,二九二回,個人に対するもの五,五九五回で,委員一人当たりの来訪回数は六・八回,面接回数は九・八回となっている。
 宗教教誨は,受刑者の希望する教義にしたがって,民間の篤志宗教家(教誨師と呼ばれる。)によって実施されており,昭和四五年四月一日現在における教誨師の数は,一,二二四人で,各宗各派に属し,昭和四五年中の指導回数は,個人に対するもの九,六九九回,グループに対するもの六,七二五回となっている。

(五) 刑務作業および職業訓練

 刑務作業としては,刑法上定役に服すべき懲役受刑者の作業がそのおもなものであるが,このほか,これに準じて施行される労役場留置者の強制作業と,法律上は作業を強制されない禁錮受刑者,拘留受刑者,未決拘禁者などの請願による作業(請願作業という。)とがある。
 刑務作業の運営は,受刑者の釈放後の生活を基礎として必要な職業訓練を行なうことおよび受刑者の勤労精神を育成するとともに,その労働生産性を一般社会に近づけることなどを基調として行なわれる。このため,各分類級に応ずる作業賦課の基本方針が定められているが,とくに,青少年およびA級受刑者に対しては,全国四施設(中野刑務所,奈良少年刑務所,山口刑務所,函館少年刑務所)を総合職業訓練所に指定するとともに,矯正管区ごとに,施設を特定して,特定種目の集合職業訓練を行なうなど,職業訓練に重点をおいている。また,主としてB級受刑者に対しては,有用種類の作業を選択し,強力に作業を推進することによって労働の意欲と習慣とを身につけさせ,技能の習得を図るとともに,あわせて,生産性の向上と経済性を強調することにより,受刑者に正しい経済生活を営むことのできる能力を付与することに努めている。

(1) 刑務作業の就業状況

 昭和四五年一二月末日現在における刑務作業の就業率をみると,懲役受刑者九一・七%,禁錮受刑者九二・九%,未決拘禁者三・一%,労役場留置者八三・八%である。懲役受刑者に不就業者がいるのは,分類調査,疾病等の理由による。
 刑務作業の業態は,物品製作,委託加工および修繕(以下,加工修繕という。),労務提供,経理ならびに営繕の五種であるが,経理および営繕を除いたもの(生産作業という。)の,昭和四四年度における就業延べ人員は,II-50表のとおり,約九一二万人で,前年に比べて,八二万人余(前年比で八・三%)の減少をみている。そのおもな理由は,収容人員の減少によるものである。業態別の就業延べ人員の比率についてみると,労務提供が最も多く,五〇・八%であり,次いで加工修繕の二六・〇%,物品製作の二三・二%の順となっている。

II-50表 生産作業支出額・収入額・調定額と業態別生産額・就業延べ人員(昭和44年度)

 同表により,昭和四四年度の年間生産額についてみると,総額は七〇億円をこえ,前年より約五億円の増加である。業態別には,物品製作が最も多く,約三四億円で,総生産額の四八・六%を占め,次いで労務提供の約二〇億六千万円の二九・四%,加工修繕の約一五億四千万円の二二・〇%となっており,前年に比べ,物品製作で四・一%,加工修繕で一〇・四%,労務提供で一二・二%の増加をみている。
 次に,昭和四四年度における刑務作業のための支出額,生産額および就業延べ人員を業種別にみたのが,II-52表である。これによると,就業延べ人員では経理夫が最も多く,一九・五%であり,生産作業では,金属作業が最も多く一七・三%で,以下,紙細工一一・五%,洋裁一〇・八%,木工八・一%,印刷五・五%の順で,近年この順位は変わっていない。生産額の点からみると,木工が最も多く二四・四%(前年より一・七億円増)を占め,以下,金属二三・二%(前年より一・九億円増),印刷一四・三%(前年より〇・五億円増),洋裁一〇・六%(前年より〇・七億円増)の順となっている。

II-52表 業種別支出額・生産額と就業延べ人員(昭和44年度)

 刑務作業においては,いわゆる作業体質の改善による生産性の向上と収容費の償却が図られ,国家財政に寄与している。II-51表は,作業収入と作業の実施に必要な作業費の関係の累年比較であるが,昭和四四年度においては,その比は,作業費に対して,二八三%であり,近年,作業費の回収率は伸びている。

II-51表 作業費回収率の累年比較(昭和40〜44年度)

(2) 職業訓練

 受刑者の職業訓練については,昭和三一年に受刑者職業訓練規則を設け,昭和三三年に職業訓練法が施行されてからは,訓練の時間および内容をこれに近づけ,適格者には,できるだけ実施するよう努められている。なお,昭和四四年,職業訓練法が全面改正されたが,受刑者の職業訓練も,この法律の趣旨に沿って,いっそう充実するように努力されている。
 昭和四五年一二月末日現在の職業訓練の実施状況は,II-53表に示すとおりで,実施人員は一,三〇二人(同日現在受刑者の三・三%)で,木工,活版印刷,自動車運転整備,溶接など三〇余種目について実施されている。また総合職業訓練施設に指定された刑務所において訓練を修了した者は,労働省職業訓練局長から職業訓練履修証明書の交付を受けているが,昭和四五年度における右証明書の受領者数は,II-54表のとおり,総数で二九三人である。

II-53表 職業訓練種目別人員(昭和45年12月31日現在)

II-54表 労働省職業訓練局長履修証明書受領者数(昭和45年度)

 次に,昭和四五年度における国家試験その他の資格または免許の取得状況は,II-55表のとおりで,受験者数一,八〇三人に対して,合格者数は一,五一四人で,合格率は八四・〇%である。

II-55表 資格または免許の取得状況(昭和45年度)

(3) 構外作業

 受刑者に社会適応性を与える方法の一つとして通役(外部の作業場へ毎日通うこと)あるいは泊り込みによる開放的な構外作業場が設けられている。作業の内容は,主として農耕,牧畜,土木工事,造船作業等である。昭和四五年一二月末日現在の出業者は八七六人で,全就業人員の二・四%に当たっている。

(4) 作業賞与金

 刑務作業に従事した者には,作業賞与金が支給される。これは,就役に対して恩恵的に支払われるもので,作業の種類,就業条件,作業成績,行状等を考慮して,一定の基準のもとに計算し,作業賞与金計算高として,毎月就業者に告知されている。昭和四四年における計算高の一人平均月額は,七五四円である。この賞与金は,原則として,釈放時に給与される。II-56表は,釈放受刑者の作業賞与金給与額別人員とその比率を示したもので,作業賞与金一万円をこえる金額を受ける者の比率は年々増加してきている。

II-56表 釈放受刑者の作業賞与金給与額別人員と比率(昭和42〜45年)

(5) 自己労作

 懲役受刑者は,定役としての作業のほか,累進処遇一級者および二級者で,技能が特に優秀で,作業成績の優良な者には,作業時間終了後一日二時間以内,自己労作をすることが許されており,その収益金は,本人の収入となる。昭和四六年一月末日現在では,全国で七九五人が従事し,一人一月当たり平均二,二八五円の収入を得ている。

(六) 給養

 受刑者の日常生活の必需物資である衣類,寝具,日用品,食糧などは給貸与されるが,これらのものの管理には,科学的な配慮がなされている。なかでも食糧の改善に努力が払われている。
 主食は,原則として米麦混合であり,重量比で米五・麦五とされており,性別,年齢,従事する作業の強度によって,一等食(一日三,〇〇〇カロリー),二等食(二,七〇〇カロリー),三等食(二,四〇〇カロリー),四等食(二,〇〇〇カロリー)および五等食(一,八〇〇カロリー)の五等級に分けて給与されている。
 副食については,一日六〇〇カロリー以上を確保することが要求されており,一日の副食費は,昭和四五年度は,受刑者一人一日当たり四〇・五二円(少年刑務所では四六・三五円)で,そのほか,食生活にうるおいをもたせるとともに,動物性蛋白質を補給するための食費(心情安定食)が二・九四円となっている。
 また,治療食を必要とする結核等の患者,妊産婦,日本人と食生活を著しく異にする外国人などには,副食費の特別増額ができることになっている。給食の調理方法,温食給与の方法などについても,種々の工夫が加えられている。

(七) 医療および衛生

 昭和四五年中におけるり病者(医療を受けて二日以上休養した者,または休養はしないが,医療を受けて三日以上治ゆするに至らなかった者)の数は,II-57表のとおり,三八,八五六人で,前年から繰越した者五,一九三人(全体の一三・四%)および本年新たにり病したもの三三,六六三人(八六・六%)となっている。昭和四五年のり病率(一日平均収容者に対する入所後発病者数の百分比)は,五九・六%となっている。

II-57表 り病者の発病区分と転帰事由(昭和43〜45年)

 次に,昭和四五年のり病者を,主要な傷病別にみると,消化器系の疾患は,り病者中の二三・六%で最も多く,次いで,呼吸器系の疾患一五・五%,循環器系の疾患一一・〇%,神経系および感覚器の疾患一〇・九%,不慮の事故九・四%の順となっている。
 なお,昭和四五年のり病者を,転帰事由別に,百分比によって示すと,治ゆ七三・九%,死亡〇・二%,未治ゆ出所一二・七%および後遺(昭和四五年一二月三一日現在において未治ゆのものをいう。)一三・二%となっている。
 刑務所の衛生管理上,最も注意を要するのは,伝染病ことに腸管伝染病の発生である。この予防のため,地区ごとに指定された全国四八施設の防疫センターおよび保健所等が,収容者の入所時や移送時,また給食担当者等について検便その他の検査を行なっているほか,消化器伝染病病源体の培養検出,水質検査,所内外の消毒など環境衛生についても配慮している。
 なお,矯正施設においては,医療専門職員の充足が困難な事情にあるが,その対策の一環として,医師については,昭和三六年度から貸費生の制度を設け,また看護士(婦)については,昭和四一年から八王子医療刑務所に准看護人(婦)養成所を設け,その養成にあたっている。

(八) 保安

 刑務所および拘置所における矯正のための他の機能が十分行なわれるようにするため,施設の安全と秩序を維持する業務を,保安という。保安は,拘禁という特殊な環境のもとにおける人間の集団が対象であるため,その業務の遂行には,多大の困難が伴う。
 まず,施設の安全と秩序を維持するため,法令およびその範囲内において,各施設で所内規則が定められている。受刑者で所内規則に違反し(反則),懲罰を受けた者の数は,昭和四五年においては,二九,一〇四人である。II-58表は,最近三年間における受刑者の受罰人員を,その事犯別にみたものであるが,昭和四五年において最も多いものは,収容者に対する暴行(受罰人員総数の一八・四%)で,物品不正所持・授受等(一三・〇%),抗命(一二・三%),怠役(一〇・三%)がこれに続いている。

II-58表 受刑者懲罰事犯別受罰人員(昭和43〜45年)

 これらの懲罰事犯に対しては,軽へい禁(二か月以内の期間,罰室に収容して,必要と認める場合のほか,その室から出さないで反省させる方法),文書・図画閲読禁止,叱責など,監獄法に規定されている懲罰が科せられる。II-59表は,昭和四五年における懲罰の種類別受罰人員およびその構成比を示したものである。受刑者について最も多いものは,文書・図書閲読禁止であり,次は,軽へい禁で,この二つの懲罰は,併科されることが多い。運動の停止,減食等が科せられることは,まれである。

II-59表 懲罰の種類別受罰人員(昭和45年)

 次に,懲罰事犯にとどまらず,刑事事件として起訴された収容者数は,II-60表のとおりで,昭和四五年においては,受刑者二四六人,その他の収容者四一人であり,前年に比べ,受刑者では一一人,その他の収容者では一人減少している。起訴罪名は,例年,傷害が最も多い。

II-60表 在所中の行為により起訴された収容者数(昭和43〜45年)

(九) 処遇困難者

 刑事施設においては,昭和四五年四月下旬,静岡刑務所で発生した金嬉老事件のように,巧みに職員に取り入り,あるいはささいな職務上の弱みにつけ込んで,不当に有利な処遇を強要する者,なにかにつけて告訴,告発,行政訴訟等を濫発して,職員の士気の低下をはかる者,自己の不当な要求を貫くため,ことさら徒党を組み,暴行,脅迫等を行なう者,獄中闘争と称して,出廷拒否,ハンストなどを行なうもの,ささいなことで興奮して,暴行・傷害を反復する者など,いわゆる処遇困難者が少なくない。
 II-61表は,最近の五か年および昭和三五年において,各年一二月二〇日現在の受刑者について,集団処遇の難易の度合別に百分率を示したものであるが,これをみると,最近においては,ひところにくらべて,処遇の容易なものの割合が減り,困難に属する者の割合が若干増加の傾向にあることがわかる。

II-61表 受刑者集団処遇難易別人員(昭和35,41〜45年各12月20日現在)

 次に,昭和四五年一二月末日現在において,各刑務所でとくに保安上問題があり,厳重な視察と警戒を要すると指定されている者について,実務上の立場から,自殺要注意者(以下表中略号(A)),逃走要注意者(略号(B)),好訴者(略号(C)),獄中闘争者(略号(D)),粗暴行為頻発者(略号(E)),暴力団関係者(略号(F)),不良ボス(略号(G)),性的異常者(略号(H)),反則常習者(略号(I)),その他(略号(J))の一〇の類型に類別し,処遇の困難さの度合別に分布を示すとII-62表が得られる。これをみると,総人員三,八九四人中最も多いのは粗暴行為頻発者の一,〇二六人で,二六・三%に当たっている。次いで多いのは暴力団関係者の二〇・三%,反則常習者の一二・六%,自殺要注意者の九・九%,逃走要注意者の八・三%などである。

II-62表 処遇困難者の類型別人員(昭和45年12月31日現在)

 困難の度合いを,「きわめて困難」「困難」「困難の生ずるおそれがあり要注意」の三段階に分け,各類型別の百分率を求めると,II-63表にみるように,「きわめて困難」が全体の一五・一%みられ,各類型中とくに目だって多いのは好訴者の四三・七%であり,粗暴行為頻発者の二一・四%がこれに次いでいる。

II-63表 処遇困難者の困難の程度別構成比(昭和45年12月31日現在)

 次に,この「きわめて困難な者」と「困難な者」をあわせた二,〇二六人について,犯罪性,精神状況などの特性を調査した結果は次のとおりである。
(ア) 資格別 死刑確定者四五人(七七・七%),受刑者一,七六一人(四・四%),未決拘禁者二〇八人(二・七%)となり,死刑確定者中の比率が著しく高い。
(イ) 罪名別 罪名別については,II-64表のとおり,一般受刑者と対比し,凶悪犯,粗暴犯の比率が高く,窃盗,知能犯,その他の占める比率が低い。とりわけ,粗暴行為頻発者,好訴者にこの傾向が著しい。
(ウ) 初犯・累犯別 処遇困難者中,初犯者は八五六人(四二・三%),累犯者は一,一一九人(五五・二%)で,昭和四五年一二月末日現在,一般受刑者中初犯者五二・七%,累犯者四七・三%であることとを考え合わせると,処遇困難者中には,累犯者が多いことがわかる。とくにこの傾向は,好訴者(七九・三%),粗暴行為頻発者(六二・五%),性的異常者(七五・〇%)に著しい。
(エ) 精神状況 精神状況については,II-65表のとおり,一般受刑者に比較し,困難の程度が高くなるにしたがって,正常,準正常の占める比率が低くなり,精神病質,神経症,精神病の比率が高い。とくに,自殺要注意者,粗暴行為頻発者,性的異常者,好訴者には,精神病,精神病質の者が多い。
(オ) 暴力団関係者は,一般的に処遇困難者が多い。II-66表に示すとおり,処遇困難者中,暴力団関係者は八三四人(四一・二%)で,不良ボス,粗暴行為者,好訴者に多い。
 また,II-67表によれば,昭和四五年一二月末日現在の暴力団関係収容者は,八,四八七人(全収容者の一七・八%)で,この比率は,昭和四〇年以降最高である。
(カ) 分類級別 処遇困難者の分類級別人員百分比を一般受刑者と対比すると,II-68表のとおりC級(刑期がとくに長い者)およびH級(精神障害者またはこれに準ずる者)受刑者の占める比率がきわめて高いことが目だっている。

II-64表 処遇困難者の類型別・罪種別人員(昭和45年12月31日現在)

II-65表 精神状況百分比(昭和45年)

II-66表 処遇困難者の類型別・暴力団関係の有無別人員(昭和45年12月31日現在)

II-67表 暴力団関係者収容状況累年比較(昭和41〜45年各12月31日現在)

II-68表 受刑者の分類級別百分比(昭和45年12月20日現在)

 以上,概略処遇困難者の特質について述べたのであるが,さらに特記すべきことは,多くの場合,処遇困難と判定された理由は単一のものでなく,複合的なものであるということである。たとえば,好訴者であると同時に暴力団関係者であり,かつ反則常習者であるというような場合が多い。さきに述べたとおり,今回の調査では,処遇困難な類型を一〇に分けて調査したが,これらの類型中,五以上の複合型のものも少なくはなかった。
 刑務所としては,それぞれの類型に応じた細心にして適正な処遇を行なっているが,とりわけ精神障害者については,必要に応じて医療刑務所へ移送し,あるいは治療的処遇計画により再適応工場または設備で錬成を行なうなどしている。また暴力団関係収容者は,ややもすると,所内で結合して職員を威圧し,または他の集団と反目対抗して重大事故を招きやすいので,保安業務を円滑に遂行するため,これを分散移送するとともに,関係機関とも緊密な連絡をとるほか,職員の士気の高揚にも意が用いられている。