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 昭和44年版 犯罪白書 第二編/第四章/二/6 

6 少年鑑別所における新しい動向

(一) 標準運営の試行

 すべての矯正施設が運営の合理化,能率化を図ることの必要なことは,いうまでもない。法務省矯正局においては,矯正施設の運営をより合理的,能率的に推進するための方式を「標準運営」と名付けて,まず少年鑑別所での試行的な運営を意図している。すなわち,少年鑑別所においては,鑑別と観護の二つの機能がもともと有機的に一体なものであるから,この連けいを軸にした標準運営方式が確立されるべきであるとして,昭和四〇年に,五つの少年鑑別所が指定されて,試行の開始をみたのである。そしてさらには,その成果を足がかりに,四二年に第二次試行の八施設が指定されて,次のような課題のもとに,よりよき標準化を期している。
大阪 大施設の有機的管理運営
神戸 チーム・システムによる少年処遇の改善
徳島 治療的開放処遇
旭川 治療的処遇
長崎 診断即治療方式の実践
山口 力動的観点に立つ鑑別の体制
小倉 一般外来少年の鑑別
静岡 判定会議
 これらの課題をみると,鑑別と観護の有機的一体化のために,いずれの施設も少年ひとりひとりを的確にとらえての処遇を指向するものであって,個別処遇の理念はすべての課題の中に生かされている。
 その全般的な傾向としては,おおむね小施設では,少年の個別的特性に応じて行きとどいた配慮を可能とする治療処遇の体制づくりが,中施設では,判定会議とか一般外来鑑別といった特定の問題にしぼっての掘りさげが,大施設では,職員の関与度を高くした有機的,総合的な管理体制づくりが,それぞれ重点的にとりあげられている。それらはいずれも,部分的に重複しあいながら一つの大きな標準体系の中に統合される方向をとっており,望ましい処遇方式の確立と全般的な鑑別水準の向上に資するものであろう。
 将来において,標準運営のもたらす成果を他の多くの少年鑑別所に押し及ぼして行くためには,人的物的諸条件のあるべき姿を,試行の過程において一層明らかにしていくことが必要であろう。

(二) 期待される活動

 少年鑑別所の主たる業務である鑑別に限定して非行対策上の諸問題を考察するとき,鑑別の基調は,そのもつ精度の高い鑑別技術を家庭裁判所をはじめとした関係機関の利用に供することにあり,科学技術面で果たす少年鑑別所の役割は,今後ますます増大するものと思われる。したがって,収容鑑別,在宅鑑別,依頼鑑別,さらには一般鑑別と多岐にわたる要請を充分に処理できる体制をつくることが期待される。たとえば,交通事犯少年に対していかなる科学的基準をもってのぞむか,集団暴力事犯の心理機制をいかに理解しようとするのか,といったような具体的な問題についても,当面解決が迫られるであろう。したがって少年鑑別所としては,高度に成長しつつある関係諸科学を充分に消化吸収したうえでのこれら諸問題についての鑑別方針を早急に策定する必要があり,しかもその結果がどのように処遇面で活用されるかは,刑事政策的視野からみた少年鑑別所の重みづけの問題と関連してくる。少年鑑別所としては,その科学的立場よりの創造をますます豊かにすべきであろう。