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 昭和44年版 犯罪白書 第二編/第二章/一/1 

第二章 矯正

一 刑務所における処遇

1 概説

(一) 刑務所

 刑務所は,自由刑(懲役,禁錮および拘留)の執行を主要な任務とする行刑施設である。その目的は,単に,受刑者の自由を拘束するというだけではなく,その者を改善し,正常な社会生活への復帰(社会再適応)を可能にすることによって,再犯を防止することにある。かかる意味において,刑務所は,少年院などとともに矯正施設と称される。
 刑務所は,法務省設置法第一三条の三により置かれている監獄で,具体的には,その名称は,何々刑務所,何々拘置所ということになっている。そして,刑務所と呼ばれる施設は,主として受刑者を収容し,拘置所は,主として未決拘禁者を収容する施設であるが,経費,人員その他の関係から,ほとんどの刑務所,少年刑務所には,罪責の確定しない刑事被告人や被疑者を拘禁する拘置監,いわゆる未決監をあわせ持っている。ただし,城野医療刑務所は,懲役および禁錮の受刑者のみを拘禁することとされており,未決監を持っておらず,また実際上,小菅,府中,大阪および神戸の各刑務所は,とくに必要やむをえない場合を除き,未決拘禁者は,拘禁しないことになっている。一方,拘置所および拘置支所は,主として,拘置監からなっているが,施設運営上の必要等から,懲役監,禁錮監または拘留場をあわせ持ち,受刑者をも拘禁している。現在,独立の行政施設としての拘置所は,東京,大阪,京都,神戸,名古屋,広島および北九州の大都市に合計七施設あり,ほかに,拘置支所一〇二施設が置かれている。刑務所は,五七施設,少年刑務所が九施設で,ほかに刑務支所一二施設がある。刑務所は,収容する受刑者の年齢から,成人と少年,性別から,男子と女子の刑務所に分かれている。また,専門的治療を施す施設として医療刑務所がある。

(二) 機構

 刑務所,少年刑務所および拘置所の組織は,これらの施設の種別,施設の規模により差異がある。大施設には,おおむね,所長の下に,総務,管理,医務,教育および分類の五部(室を含む。)がおかれ,一般の施設には,おおむね,所長の下に,総務と管理の二部,および所長直属の教育,分類および医務の三課がおかれる。また,医療刑務所には,管理部の代わりに,医務部が,少年刑務所には補導部が,おかれている。部には,さらに,数課がおかれるが,通常,総務部に庶務・会計・用度,管理部に保安・作業,教育部に教育・厚生,医務部に保健・医療の各課ならびに分類審議室に考査・審査・保護の三班がおかれている。
 なお,刑務支所および拘置支所は,いずれも,独立の行刑設備を持つ施設ではあるが,刑務所,少年刑務所または拘置所の所轄に属している。
 これらの施設は,法務省矯正局の指導,監督の下に業務を行なっているのであるが,なお,全国を八地域に分け,その管轄区域内の行刑施設を指導,監督する中間監督機関が設けられている。これを矯正管区といい,東京,大阪,名古屋,広島,福岡,仙台,札幌および高松にある。この矯正管区は,地方支分部局として,矯正局の所掌事務を分掌し,刑務所,少年刑務所,拘置所,少年院,少年鑑別所および婦人補導院の適切なる運営管理を図るために設けられたものである。なお,矯正管区長は,上述のほか,管轄区域内に設けられている地方更生保護委員会と協力する任務を負っている。矯正管区には,矯正管区長の下に,三部七課がある。

(三) 職員数その他

 昭和四三年末における矯正施設の種類別,官職別の職員定員は,II-53表のとおりである。

II-53表 矯正施設職員定員(昭和43年12月31日現在)

 矯正職員を,大別して,保安系統の職員とその他の職員とに分けて考えた場合,刑務所における保安系統の職員の勤務形態には,いわゆる「日勤」と「昼夜勤」の二種類がある。日勤は,その勤務時間が昼間のみであるのに対し,昼夜勤は,二四時間勤務で翌日非番という勤務形態である。したがって,昼夜勤務者は,おおむね特定の職員に固定してしまいやすい。また,収容者を拘禁しているので,日曜日等の休日においても,その業務は中断することがないのみならず,収容者に対し各種の教化活動を活発に行なうため,休日をとくに活用する必要がある。そのために,保安系統の職員は,おおむね月一回程度,休日勤務に服している状況である。
 その他の職員の勤務形態は,一般公務員ととくに異ならないのであるが,収容者の作業指導,教育,身上調査,入出所事務,面接指導等,処遇に関する多くの業務が,通常の勤務時間外にもわたる場合が多い。
 なお,少年院等においては,保安系統の仕事は,主として,教務課(観護課)に配置された教官の業務の一部に属する。ただ,その業務が,教育的配慮を主とした多面的な内容をもっているため,刑務所のように「日勤」と「昼夜勤」とを区別した勤務形態をとることは困難である。したがって,夜勤に際しては,保安系統の職員全員および施設によってはその他の職員をも含めた順点によってその職務に従事している。
 また,少年院の教務について付言すれば,少年院の施設専門化と処遇の個別化がすすみ,教育内容が充実されるに伴って,従来のように,課長→係長→教官といったライン型の組織による運用では,勤務体制の合理化のうえでも不十分なところが多くなってきたので,昭和四〇年以来,専門職制を導入して,教官のうちの適格者を登用のうえ,教務課の組織の中に専門職の役割を明確に位置づけることとした。ライン型よりスタッフ型への移行は,係長が中間監督者としての本来の職務に専従できるなどの利点も多く,その効率的な運用とあいまって,現在では定着した制度となってきている。

(四) 建築

 刑務所の建築については,すでに,明治五年の監獄則および図式において,当時の西欧の制度にならい,厳格な隔離主義にもとづく分房制実施の方針がたてられ,以後,大正期まで,欧米の刑務所建築様式を範として,独居房主義および放射型舎房制が採られてきた。
 大正末期から昭和初期にかけては,世界の行刑思潮となった改善主義が積極的に取り入れられ,雑居房を重視し,あるいは,刑務作業の運営その他,管理の便宜上,施設の規模の大型化が図られた。このようにして,府中,横浜等一〇余の刑務所の改良が行なわれた。その後,第二次世界大戦の結果,刑務所は,戦災等によって,その収容能力の約四割を失い,しかも,収容者の激増のため,ひきつづき過剰拘禁の応急対策に追われ,戦後一〇余年にしてようやく一応の復興をとげるにいたった。
 近年,刑務所の所在場所が,都市発展に伴って,しだいに都市の中心部に位するようになったため,地元における都市計画等の見地から刑務所の移転を求める声が高まり,これについては,各般の事情を勘案し,緊急度の高いものから実施をみているが,移築,改築にあたっては,考慮すべきことが多い。たとえば,就寝設備などについて,気候上の条件,最低床面積,照明,暖房および換気に適当な考慮を払うべきことや,作業場につき,通風,採光,照明に留意すべきこと,その他入浴設備や便所等,設備の保健性の確保を図ることが必要である。わが国の刑務所設備の近代化を図るためには,右のほか,夜間独居室の増設,医療設備・炊事場・食堂等の合理化・近代化,あるいは新しい処遇技術の導入に伴い,各種テスト室,精神治療室,面接室,職業訓練教室,屋内体育館,クラブ活動の集会室などが必要であるが,行刑施設として十分な機能を発揮できるよう,長期的計画のもとに,漸次,整備を図る必要があろう。
 なお,ここで少年院等の建築について述べることとする。
 少年院は,昭和二四年一月,少年院法の施行により,すべて国立の施設として設けられることになったが,当時,その前身である矯正院は,本院一二,出張所八をかぞえるにすぎなかった。ただ,これを補充する民間の矯正施設として,私設の保護団体が一六六あったので,とりあえず,これら保護団体その他の建物の買収や旧軍施設の転用をはかることによって,施設増設の必要を充たすことができたのである。
 したがって,少年院の施設の多くは,現在,すでに老朽となっているばかりでなく,収容施設としてはきわめてぜい弱で,設備上も不適当なものが多い。そこで,少年院の特殊化など矯正施策の展望の下に,計画的に,少年院の改築ないし整備が,逐年,実施され,寮舎にユニット制を採用するなど新しい様式による建築もみられる。
 少年鑑別所の設置および建築の状況については,その前身にあたる施設のない点が異なるほか,少年院の場合とほぼ同じであるが,近年,技術官庁にふさわしい整備が図られて,外来鑑別室,脳波室,病理室,個別検査室など,少年鑑別所が創設された当時の建築にはみられない新しい構図をたてて,徐々にではあるが,移転もしくは改築がなされている。