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 昭和44年版 犯罪白書 第二編/第一章/二/4 

4 裁判の執行

 裁判の執行は,原則として,その裁判をなした裁判所に対応する検察庁の検察官が,これを指揮することとされているが,以下,主刑の執行について,簡単に触れることとしたい。

(一) 死刑の執行

 死刑の言い渡しを受けた者は,その執行に至るまで,監獄に拘置され,原則として,判決確定の日から六か月以内に,法務大臣の命令により執行されることになっている。しかし,上訴権回復請求,再審請求,非常上告または恩赦の出願もしくは申出がされ,その手続が終了するまでの期間,および共同被告人であった者に対する判決が確定するまでの期間は,これを六か月の期間に算入しないこととされており,さらに,死刑囚が心神喪失または妊娠中であるときは,刑の執行が停止され,その状態がなくなった後に,法務大臣の命令によって執行されることとなる。ところで,わが国においては,死刑はごく限られた罪種について,慎重審理のうえ,言い渡されることはもちろんであるが,死刑の判決が確定したのちも,再審などの請求,恩赦の出願または執行停止の事由の有無等を,きわめて慎重に審議検討したうえで執行されるので,確定から執行までに相当の期間を経過するのが通常である。
 ちなみに,昭和三九年から四三年までの五年間に死刑を執行された人員は,三一人であるが,これを罪名別にみると,強盗殺人または致死が二六人で,総数の約八四%を占め,残りの五人が殺人となっている(矯正統計年報,同資料による)。

(二) 自由刑の執行

 懲役は,監獄に拘置して定役に服させ,禁錮は,監獄に拘置し,拘留は,拘留場に拘置して,それぞれ刑の執行をする。自由刑の執行を受けている者が,心神喪失の状態にあるときは,その状態が回復するまで,刑の執行を停止することになっており,刑の執行によって,著しく健康を害するなどの事由があるときは,その刑の執行を停止することができることになっている。また,執行すべき主刑が二以上あるときは,罰金・科料を除いては,その重いものを先に執行するが,検察官は,たとえば,仮出獄を容易ならしめようとする目的等のため,重い刑の執行を停止して,他の刑の執行をさせることができることとされており,その趣旨に添った運用がなされている。
 昭和三九年から昭和四三年までの五年間における自由刑の執行指揮の状況をみると,II-50表のとおりであるが,懲役刑の執行指揮人員が,昭和四二年以降漸減しているのに対し,禁錮刑のそれが,逐年,かなりの割合で増加し,昭和四三年では,昭和三九年の二倍に近い数字となっている。これは,自動車事故による業務上過失致死傷事件の増加に伴う禁錮刑の実刑の増加に起因するものと思われる。

II-50表 自由刑の執行指揮人員(昭和39〜43年)

(三) 財産刑の執行

 わが国の財産刑には,罰金と科料とがあり,罰金は千円以上,科料は五円以上千円未満と定められている。II-51表[1]・[2]は,最近三年間の罰金および科料の調定件数と調定金額(本来,調定とは,歳入徴収官が徴収すべき金額を調査決定することをいうのであるが,検察庁の事務の上では,徴収金原票を作成し,これに登載された徴収すべき金額を,検察官が確認して執行指揮印を押印するなどの手続をとることを,歳入徴収官のそれとの近似性から調定と呼んでおり,事件の新受に相当するものである。)をみたもので,昭和四二年度(会計年度)から,昭和四三年度にかけて,罰金が激減し,また,科料も逐年減少の傾向にあることを示しているが,その原因については,それぞれ先に触れたところである。

II-51表

 次に,昭和四三年度における罰金および科料の徴収状況についてみると,II-52表のとおりである。これによると,現金等により収納されたものと,労役場留置処分とを合わせた徴収率が,件数において,罰金が九六・一%,科料が九五・三%となっており,五年前の昭和三八年度のそれが,罰金九〇・三%,科料九〇・四%であったのに比較して,徴収率にかなりの向上が認められる。

II-52表 罰金および科料の徴収状況(昭和43年度)