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 昭和35年版 犯罪白書 第四編/第二章/三/5 

5 少年院の処遇

 少年院の処遇は,「在院者の心身の発達程度を考慮し,明かるい環境のもとに,紀律ある生活に親しませ,勤勉の精神を養わせるなど,正常な経験を豊富に体得させ,その社会不適応の原因を除去するとともに,長所を助成し,心身ともに健全な少年の育成を期して行う」ことをたてまえとしている(少年院処遇規則第一条)。
 あらたに入院してきた少年に対しては,分類調査のうえ,段階処遇に編入する。分類と段階処遇との二つは,少年院が一面個別処遇の場であるとともに,一面には,集団処遇の場であることから,処遇の基礎となる二本の柱といえよう。

(一) 分類と新入オリエンテーション

 あらたに入院した少年は,一四日以内のあいだ,考査寮に収容される。そこで,行動の観察が行なわれる一方,その期間内に,面接や諸種の心理テストが行なわれる。また,少年院でどのような生活をしてゆけばよいかについての指示(オリエンテーション)も行なわれる。少年の人格調査については,家庭裁判所から送付された「少年調査記録」や,少年鑑別所の鑑別結果も参酌される。環境の調査については,これらの記録や本人の供述などを基礎として,だいたいのあたりをつける。そして,その詳細を知るためには,別に,保護観察所を通じて,環境調査報告をうけることになっている。
 人格調査のおわったところで,本人の矯正計画をたてることになる。これには,関係の職員が出席して,討議のうえできめる。これを処遇審査会といっている。この審査会は,新入時の調査ばかりでなく,その後の重大な処遇の変更は,すべて,付議することになっている。
 新入のさいの審査会では,居室,教科,職業補導,段階処遇,保安,生活指導,医療,保護者との連絡などについて,矯正計画がさだめられる。この場合,院内生活では院生同志の関係が重要なので,ソシオグラムの採取などが工夫されている。

(二) 段階処遇

 段階処遇とは,在院者の処遇に段階を設け,その改善と進歩との程度に応じて順次に向上した取扱いをすることであって,累進処遇ともいわれる。少年院では,収容が事実上不定期にちかいものであるから,この制度のもつ意義は大きい。
 現行の処遇段階は,一級上,一級下,二級上,二級下および三級に分けられており,あらたに入院した者は,二級下に編入され,以後,順次に段階を経て進級することになっているが,とくに成績が良い場合,またはとくに悪い場合には,二段階躍進したり,二段階降下される場合もある。
 昇進および降下は,教科,職業補導,生活態度ならびに更生の意欲などを総合して評価決定される。一級の下または上の者に対しては,とくに向上した取扱いがされることになっているが,そのおもなものは,賞与金の自己用途金額の増加,特別の居室や日用品などの使用,単独外出および単独帰省の許可,特別の服装,自治委員会の設置などである。
 さらに,一級上の者については,自治委員会の委員となることができることになっているが,もっとも重要なのは,仮退院許可の申請が,処遇の最高段階に達した者のなかからえらばれることである。つまり,仮退院の許可は,原則として最高段階にいたらないかぎりされないことになっている。昭和三三年末現在の処遇段階別人員は,IV-50表のとおりである。

IV-50表 処遇段階別人員(昭和33年末現在)

(三) 教科

 IV-51表にみるとおり,少年院に送致される者の三〇パーセント以上は義務教育未修了者である。

IV-51表 新収容者の教育歴別人員(昭和33年)

 不就学のおもな原因は,家庭の貧困と本人の素質的欠陥などであり,中途退学の多くは,家庭の無理解と本人の「勉強ぎらい」に基因する。義務教育をうけていないことは,実質的には社会性や道徳性の発達を阻害し,形式的には就職などに不利な条件となるから,彼等が社会生活への適応を十分にするには,とくに義務教育未終了者に対する補習教育に重点をおいて教育を実施し,また,収容少年の能力と必要に応じて,その他の教育をほどこすことが必要である。その基準は,おおむね,つぎのとおりである。
(1) 普通教育課程
イ 義務教育未修了者に対するもの(小・中学校課程)
ロ 義務教育修了者に対するもの(高等学校および大学に準ずる課程)―進学や復学の希望者に対して行なわれる。
(2) 特殊教育課程
 養護学校その他の特殊教育を行なう学校課程―精神薄弱者などに対して行なわれる。
(3) 社会教育課程
 義務教育修了者で,出院後ただちに職業につく必要のある者に対し,職業補導との関連を考慮して行なわれる。
 このうち,(1)および(2)の教科を修了した者には,少年院の長は他の一般の学校長が授与する修了証書と同一の効力のある証書を授与することができるし,在籍学校に照会して,修了証書の授与を斡旋することもできる。しかし,少年院に収容される者の大部分は,すでに,学齢をこえており,学習意欲もとぼしく,入出院の時期がまちまちで,学力差が大きく,学級編成や指導上いろいろ困難な問題がある。そのため,視聴覚教具の活用や共同学習指導方法の改善をして,学習効果の向上に努力している(IV-52表53表)。

IV-52表 教科学級の編成数(昭和34年3月末現在)

IV-53表 教科修了証明書発行数(昭和33年4月〜34年3月)

(四) 職業補導

 法務省矯正局調査によれば,少年院の新収容者の約五七パーセントは,収容前は無職で,また職についていたものでも転職回数が多く,これらの徒為または職業生活における不適応が,非行の大きな誘因をなしていることは容易に想像される。
 これらの少年を出院後ふたたび非行に陥らしめないためには,在院中に勤労の習慣を身につけさせ,自信をもって生活設計を立て得る知識や技能をさずける必要がある。ここに,職業補導の重要性がある。
 現在,少年院で実施されている職業補導の種目と,それを実施している施設の数と補導をうけている少年の数は,IV-54表のとおりである。

IV-54表 職業補導種目別補導人員(昭和34年末現在)

 少年が,在院中に,なんらかの職業に関する資格や免許を取得することは,出院後の就職を容易にし,また,少年が自己の知識,技能に自信をもつなど,更生上有利なので,大いに望ましい。指導の結果は,受験者も合格者も,しだいに増加している。最近の状況は,IV-55表のとおりである。

IV-55表 資格・免許の取得人員と合格率等(昭和33年)

 少年院の職業補導における一つの重要な問題は,いちじるしい精神低格のため技能的な職業補導の困難な少年がかなりいることである。現在,少年院では,精神低格の少年に対しては,まず,苦労をいとわずに働く習慣を身につけさせるとともに,集団のなかで協調的に生活できる態度をやしなうことを主眼として,単純活動を内容とする種目で職業補導を実施しているが,まだ満足な成果をあげているとはいいがたい。これらの少年は,低格であるばかりでなく,そのために周囲から拒否されて,心的葛藤をおこしているので,のちに述べる治療的処遇が,とくに考慮されている。

(五) 院外に委嘱する職業補導

 この制度は,少年院における職業補導を補充し拡充する手段として,部外の学識経験者その他に委嘱してする院外の職業補導であるが,少年の更生にきわめて有効で,部外者の協力を得て,年とともに活発となり,各種の業種におよんでいる(IV-56表)。

IV-56表 院外職業補導種目別人員(昭和34年1〜6月)

(六) 通信教育

 少年院における通信教育には,義務教育未修了者と進学希望者とに対する学校通信教育と,義務教育修了者で出院後ただちに職業につく必要のある者に対する社会通信教育とがある。ともに,少年院の教科教育と職業補導との不足をおぎない,これを拡充する意味で,通信教育のしめる地位は高く評価される。とくに社会通信教育は,各種技能者としての免許や資格の取得に有利なため年々活発となっている。最近の模様は,IV-57表のとおりである。

IV-57表 少年院における通信教育受講人員(昭和34年)

(七) レクリエーション

 レクリエーションは,在院者の疲労の回復,気分の転換,健康の増進,教養の向上をはかるなど,青少年期における身体的発達の面からも,社会生活に必要な教養や情緒を涵養する面からも,きわめて重要な意義をもつので,実施にあたっては,種目の選定,指導の技術,運営の方法などに格段の研究と努力がはらわれている。
 実施種目は,スポーツ,野外運動,各種ゲーム,スクウェヤーダンス,弁論,討論,音楽鑑賞,絵画,映画,演劇などにわたっている。レクリエーションの実施時間は毎日行なうよう少年院処遇規則にさだめられているので,日課時間に折り込んだり余暇時間を活用して励行している。

(八) 生活指導とカウンセリング

 少年院における生活指導のねらいは,少年の反社会的な考え方や行動様式などを除去して健全な社会性を発達させるにある。少年院の在院期間は,大きく三つに分けることができるが,各時期について,それぞれ,指導内容がさだめられている。
第一期(入院当初の期間)
 この時期は,今後展開される少年院生活について未知のため不安,動揺をいだいて,不安定な状態にあるのを取り除いて,新しい生活をうけ入れる心構えをもたせるのが目標である。このため,(イ)少年院の目的や教育の内容や院内生活のきまりなどについて知識をあたえ,少年院における生活様式を理解させ,(ロ)過去の非行を反省させ,将来の生活へのスプリング・ボードとさせ,(ハ)将来の具体的な生活設計をたてさせ,健全な生活への意欲をわきたたせ,(ニ)日常生活の基本的な行動様式を身につけさせ,個人衛生その他の良い習慣をやしなわせる。
第二期(中間の期間)
 この期間には,少年は,安定した精神状態で,施設の指導計画をうけ入れる態度にあるから,本格的な生活指導がされるときである。このため,(イ)自己表現と自己抑制の能力を身につけさせ,社会規範にしたがって合理的かつ自律的に行動できるようにし,(ロ)集団生活が円滑にできるよう他人の立場を尊重する習慣を身につけさせ,(ハ)職業生活を満足感をもっておくることのできる考え方を身につけさせ,職業人としての意識をわきたたせる。
第三期(出院準備の期間)
 出院をひかえて,喜びと不安とのいりまじった不安定な状態にあるのをおちつかせ,出院直後の生活に失敗しないようにする。このため,(イ)少年院収容というハンディキャップに耐えて,正しく社会生活をおくるという意識を高めさせ,(ロ)少年院を出院した後ただちに入る生活環境において,どのような行動や態度をとらねばならないかを理解させる。
 指導の方法としては,面接による個別指導を併用している。集団指導については,グループ・カウンセリングとか,共同討議とか社会教育などが多く利用されている。しかし,最近における少年院の処遇のうちもっとも注目されるのは,集団心理療法ないしグループ・カウンセリングである。この方法は,さまざまな性格的問題点をもった少年たちにグループ・ワークを通じて,おのずから,人間関係における適応性を体得させていこうとするもので,少年非行の治療に一つの活路を示すものとみられている。とくに,最近,関東医療,愛光女子,有明高原寮,交野女子,和泉,再度山,加古川学園,三重,美保,福岡,筑紫少女,佐世保,置賜,盛岡などの少年院では,かなり組織的かつ活発にこれをとり入れており,他の少年院でも,専門職員の不足,設備の不備,管理上と戒護上の問題などを克服しつつ,しだいにこのような処遇をとり入れつつある。
 このような処遇の効果については,これら施設などの報告によれば,院内における事故や反則など問題行為が減少し,少年たちの自主的,積極的な態度が助成され,職員に対する信頼感や親和感が増大し,施設全体が明朗化されたなどがあげられている。

(九) 医療

 少年院の医療については,すでに第二編で述べたので,ただ,少年院では,収容少年の精神面の治療がとくに注目されていることを一言したい。それは,少年のなかに精神障害者が含まれているからである。前述のとおり,昭和三四年の調査によれば,精神障害者は,調査人員一〇,二二九人のうち二,六三二人で二五・七パーセントにあたる。うち精神病が一〇五人(一・〇パーセント),精神病質が一,一一八人(一一・〇パーセント),精神薄弱が一,三五八人(一三・三パーセント),神経症が五一人(〇・五パーセント)である。
 これらのうち,精神病のほとんど全部と,精神薄弱の三分の一すなわち高度の精神薄弱と,精神病質の約一〇パーセントと,神経症の約三分の一すなわち特別な精神医学的治療処遇を必要とするものとは,医療少年院に収容し,その他は医療少年院に準ずる少年院医療部や併設医療少年院に収容し,さらに障害の度が比較的に軽微で一般少年院でも処遇できるものは,その他の一般施設に収容している。これらの施設における精神障害少年に対しては,精神科医や心理学者が中心となって,電撃その他の物理療法やトランキライザーなどの薬物療法はもとより,個別または集団的な心理療法をほどこしている。
 なお,精神障害者が矯正施設を出所するときは,精神衛生法第二六条により,施設の長は都道府県知事にその旨を通報することとなっているが,少年院出院者中該当者として通報されている件数は,年間平均約一四〇件である。

(一〇) 篤志面接委員

 矯正教育の社会化をはかるため,民間の学識経験者に依頼して,篤志面接委員として,少年の面接指導を行なっている。現在,五九八人(うち婦人一八七人)の篤志面接委員が,少年の精神的な悩みや,身上問題や出院後の生活設計などについて,相談と助言とにあたっている。