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 昭和35年版 犯罪白書 第四編/第二章/一/7 

7 逆送致

 家庭裁判所の終局的な処分の一つとして,逆送致または逆送とよばれるものがある。
 普通,逆送致(または逆送)とよばれるのは,すでに述べたように,家庭裁判所から検察官に事件を送致することで,これには,調査審判の段階的区分に応じて,調査の結果による逆送と審判の結果による逆送とに分けることもできるし,また,逆送の理由により,年齢超過による逆送と,刑事処分相当と認めたことによる逆送とに区別することもできる。
 すでに述べたように,少年事件は,家庭裁判所から逆送をうけなければ検察官は公訴を提起できないし,逆送をうけた事件は原則として公訴を提起しなければならない(起訴強制)のだから,逆送がどの程度に,どのような事件について行なわれているかを知ることは,きわめて重要である。
 昭和二四年以降の逆送数と処分決定総数に対するその比率とをみたIV-39表によると,昭和二七年に二・八パーセントであった逆送率が昭和三三年には六・九パーセントに上昇している。しかし,これを道路交通取締法令関係事件とこれを除く事件とに分けてみると,逆送率は,道路交通事件では二・四パーセントから八・一パーセントにまで上昇しているのに,その他の事件では,二・九パーセントから四・二パーセントに増加しているにすぎない。実数についてみると,道路交通関係事件は九三四人から二九,五九七人と急激に増加したのに対し,その他の事件では,四,二八七人から六,五六〇人とわずかの増加をみせたにとどまっている。

IV-39表 家庭裁判所処分決定人員と検察官送致人員とその百分率

 さて,逆送をうけた事件にはどのような犯罪が多いか,また,それについて検察官は懲役や禁錮を求刑したか,罰金を求刑したかをみたのがIV-40表IV-41表である(この表は,昭和三四年一月から六月までの間に逆送された事件につき法務省刑事局が調査したもので,IV-40表は一八才未満の年少少年,IV-41表は一八才以上の年長少年に関する統計表である)。まず,IV-40表をみると,年少少年で逆送された者の新受人員は七,八〇三人,うち道路交通関係が六,六〇一人で大多数をしめ,ついで多いのは,過失傷害の八六一人である。なお,窃盗の八三人,傷害の六四人,猥褻,姦淫の三八人,強盗の三四人,殺人の二五人,恐喝の二二人などがこれにつづいている。その処理をみると,道路交通関係や業務上過失傷害致死などはほとんど略式命令の請求で罰金が求刑され,公判を請求したものとしては,窃盗の五七人を筆頭に,猥褻,姦淫などの三四人,強盗等の二九人,殺人の二三人,傷害等の二一人がこれについでいる。傷害等については,別に,一四人について略式命令の請求で罰金が求刑されていることが注目さるべきである。

IV-40表 逆送事件の検察庁受理・処理別主要罪名別人員(年少少年)(昭和34年1〜6月)

IV-41表 逆送事件の検察庁受理・処理別主要罪名別人員(年長少年)(昭和34年1〜6月)

 年長少年についてのIV-41表に移ろう。逆送された新受人員二一,一五七人,うち交通関係が一六,九四三人で大多数をしめ,過失傷害の二,六六七人がこれにつぐのは,年少少年の場合と同様である。また,窃盗の五四六人,傷害の三四三人,強盗の一二〇人,恐喝の一一九人,猥褻,姦淫などの一〇一人,殺人の五〇人などがこれにつづいている。年少少年にくらべて,強盗,恐喝などの財産犯が,強盗や殺人よりも多いのが注目される。その処理をみると,道路交通関係や過失傷害などはほとんど略式命令を請求されているが,過失傷害では三五人の公判請求がなされているのが注目される。公判を請求したものとしては,窃盗の三九四人を筆頭に,傷害の一一三人,強盗などの一一三人,恐喝の八三人,猥褻,姦淫などの八一人,殺人の四九人が,これについでいる。傷害については,公判請求人員とほぼ同数の一一〇人に対し,略式命令が請求されている。してみると,逆送事件のきわめて多くが交通関係法規の違反や交通関係の過失事犯によってしめられていることがわかる。これが略式命令の請求と,したがって,また,罰金の言渡の数を増加させているのである。なお,刑法犯のうち,窃盗に逆送数が多いのは,その絶対数が多いためであろうが,のちに刑事裁判のところでこれらの罪種別の科刑をみてもわかるように,累犯的,常習的な窃盗の少なくないことをうかがわせる。なお,年長少年に逆送数の多いのは,刑事処分相当という検察官の意見も,家庭裁判所の逆送率も,年長少年にその比率の高いのが一つの大きな要素となっていることを見うしなってはなるまい。
 なお,これらの表のなかで再送致その他の処分に付された者の数がかなりあがっていることに留意したい。すでに述べたように,少年事件については,起訴強制主義がとられている。しかし,検察官が,家庭裁判所から送致をうけた事件について公訴を提起するにたりる犯罪の嫌疑がないため訴追を相当でないと思料するとき,送致をうけた事件について犯罪の情状などに影響をおよぼすべきあらたな事情を発見したため,訴追を相当でないと思料するとき,または送致後の情況,たとえば示談があったとか,弁償がなされたとか,法令が改正されたとかの事情で,訴追を相当でないと思料するときには,例外として,公訴を提起しないで事件を家庭裁判所に再送致するか,不起訴処分にすることができるのである。