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 昭和35年版 犯罪白書 第四編/第二章/一/2 

2 少年検察

 少年事件を専門にとりあつかうために,地方検察庁には,それぞれ,一名ないし数名の少年係検事がおかれている。ここでは,ひろく検察庁における少年事犯の取扱いを少年検察とよぶこととする。
 少年検察の主たる対象は,いうまでもなく,犯罪少年の事件であるが,罰金以下の刑にあたる罪を犯した犯罪少年は,警察から直接に家庭裁判所に送致されることになっているから,少年検察の対象となる犯罪少年は,それ以外の懲役,禁錮やときには死刑にもあたるような重い罪を犯した犯罪少年である。また,そのような犯罪少年のほかに,これとともに罪を犯した成人がある。さらに,検察庁によっては,二三才未満の青年層をも含めて,青少年犯罪の捜査処理をひとまとめにしているのもある。
 ところで,全国検察庁が昭和三三年に受理した少年事件の被疑者人員はIV-27表のとおりで,この表によって明らかなように,検察庁で受理した少年事件の新受人員合計約五〇五,〇〇〇人中,約三五五,〇〇〇人余は,いわゆる特別法犯によってしめられ,新受人員の約七三パーセントにあたり,刑法犯と準刑法犯はその約二七パーセントをしめている。

IV-27表 刑法犯・特別法犯等別少年事件の検察庁受理人員(昭和33年)

 さて,検察官は,少年犯罪事件について,まず,犯罪の成否およびの少年が犯人であるかどうかなどについて捜査を行なう。捜査の結果,犯罪の嫌疑がなく家庭裁判所の審判に付すべき事由もないと思料する場合には,その事件を不起訴として処理する。この数は,昭和三三年には,刑法犯一,一五四人,準刑法犯二四人,特別法犯六六〇人,計一,八三八人となっている。また,共犯者の取調ができず事実関係が明らかにできないなどの理由で事件の処理を一時中止することもあるが,その人員は,昭和三三年にはわずか三八五人にすぎない。
 このような例外の場合を除いて,検察官は,少年事件について捜査を遂げたときは,かならず,事件を家庭裁判所に送致しなければならない。少年事件以外の一般の事件は,検察官は,捜査を遂げれば起訴,不起訴の処分を決することができるが,少年事件では,検察官にこのような処分権限はなく,原則として,すべての事件を家庭裁判所に送致しなければならない。送致にあたっては,検察官は,少年の処遇に関し自分の意見をつけることとなっている。
 処遇に関する検察官の意見は,単に犯罪事実および情状を究明し,その証拠を集めるだけでは適正を期することができない。犯罪の背景的な事項である当該少年の資質や性行やその環境などをもできるかぎり調査せねばならぬ。このような観点から,少年の犯罪事件については,検察庁も,昭和三三年一月から試験的に一一ヵ所の地方検察庁で少年調査票の制度を実施し,少年の精神状態や知能程度などのほか,両親や保護者との関係,家族の結合状態などの家庭環境とか,居住環境や職場環境,交友関係,読書,趣味,娯楽など少年をかこむ周囲の状況とか,非行少年の生活歴を調査することとしている。もとより,検察官の付する処遇意見は,家庭裁判所の審判に対し法的に拘束力をもつわけではないが,統一ある国家機関として検察官が国家社会の治安の維持や,国の一貫した刑事政策の実現に寄与すべき職責をもつところからも,また,二〇才をこえる成人について検察官が公訴権を専有することからも,この処遇意見は,実質的には,きわめて重要な意義をもつわけのものである。
 検察庁の少年事件処理状況をみると,昭和三三年中に検察庁から家庭裁判所に送致した人員は,検察統計年報によると,刑法犯一二七,三六九人,準刑法犯三,二三七人,特別法犯二四二,二二九人で,計三七二,八三五人とある。これら事件送致にあたっては,前に述べたとおり,処遇意見を付しているが,法務省刑事局で集計した結果によって,検察官の付した意見別に送致人員をみると,(1)刑事処分を相当とする旨の意見を付して家庭裁判所に送致したのが七六,二四七人(全体の二〇パーセント),(2)少年院送致の処分を相当とする旨の意見を付して家庭裁判所に送致したのが二六,一一八人(全体の七パーセント),(3)その他の処分すなわち保護観察または不処分などの処分を相当とする旨の意見を付して家庭裁判所に送致したのが二六五,二六三人(全体の七三パーセント)で,計三六七,六二八人である(この人員と前記の検察統計年報による人員とのあいだに九,二〇七人の差があるが,それは未処理として計上されているとおもわれる)。