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 昭和35年版 犯罪白書 第三編/第三章/一/4 

4 保護観察の内容

 保護観察の内容は,方法として,指導監督と補導援護とに分けることができる。

(一) 指導監督

 指導監督は,「遵守事項」を守らせるにあるが,それには,(イ)本人に対し,遵守事項を守らせるために,必要かつ適切と認められる指示をあたえ,(ロ)本人と適当に接触を保ち,つねにその行状を見まもり,(ハ)その他本人が社会の順良な一員となるよう必要な措置をとるのである。
 保護観察にともなう自由の制限は,(イ)遵守事項の設定,(ロ)引致や留置ができること,(ハ)住居の制限(転居,長期旅行の許可または届出の義務)の三つをその礎石としているが,保護観察には,一方的な決定としてでなく,ケースヮークの原則の一つである対象者の「参与の原則」が適用され,開始の当初に本人がすすんでこの制限に服するよう,本人の意思を尊重し,納得づくで決定される。いわゆる「誓約」のかたちをとっている。
 したがって,遵守事項も,保護観察に付されている者がその行動を自律してゆくものとしてさだめられるのであるが,遵守事項には,そのさだめ方に二つの種類がある。その一つは法定遵守事項で,他の一つは特別遵守事項である。法定遵守事項とは,「善行を保持すること」など法律(犯罪者予防更生法または執行猶予者保護観察法)でその内容がきめられているもので,保護観察に付されているかぎり誰でも守らなければならない共通事項であり,特別遵守事項は(執行猶予者の保護観察にはこの制度がない)個々の保護観察対象者に対して,本人にもっともふさわしく,かつ,その更生をはかるために是非とも必要とされる具体的な事項を選んで個人別にさだめられる。
 ところで,遵守事項を守らせるよう指導監督するためには,まず,あたえられた遵守事項について,本人が納得といちおうの理解とをもっていることが前提とされる。だから,保護観察の開始にあたっては,とくに本人に対して書面でこれを指示し,かつ,よく理解納得させたうえで,これを遵守する旨を誓約させるのである。また,その後の保護観察の全期間を通じて,これを守らせるために「必要かつ適切と認められる指示」が考慮されている。

(二) 補導援護

 犯罪者予防更生法によれば,補導援護は,本来,本人に自助の責任のあることを認めて,これに,(イ)教養訓練の手段を助け,(ロ)医療および保養を得ることを助け,(ハ)宿所を得ることを助け,(ニ)職業を補導し,就職を助け,(ホ)環境を改善調整し,(ヘ)更生を遂げるため適切とおもわれる所への帰住を助け,(ト)その他,本人の更生を完成させるために必要な措置をとるなどを内容とする。また,執行猶予者保護観察法によれば,補導援護の方法は「公共の衛生福祉その他の施設にあっ旋する等の方法によって,本人が就職し,本人の環境を調整し,その他本人が更生するために必要な助言,連絡その他の措置をとる」ものだとしている。
 このためには,担当者たる保護観察官や保護司は,つねに本人やその家族の状況を把握するのにつとめ,個々の事情に即して適時適切な手をさしのべることができるよう,日ごろから公立の病院や診療所など社会教育団体の社会資源とも連絡をとっておく必要がある。しかし,補導援護は,あくまで「自助の責任」を前提とするもので,担当者の仕事は「助ける」ことにあり,主体は,あくまでも本人である。つまり,補導援護は,もともと本人に人間として自助の責任のあることを自覚させ,これを助長するよう援護することなのである。