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 昭和35年版 犯罪白書 第二編/第一章/三/1 

三 起訴の手続と起訴後の勾留

1 起訴の手続

 検察官の起訴の方式は,公判請求と,略式命令の請求と即決裁判の請求との三つに分かれる。
 公判請求は,公判廷において行なわれる通常の審理と判決との手続の開始を請求するものである。
 略式命令の請求は,簡易裁判所においてのみ行なわれる略式手続,すなわち,罰金以下の刑にあたる罪および選択刑として罰金が定められている罪に係る事件(ただし,家庭裁判所でとりあつかうべき事件を除く)につき,書面審理によって五万円以下の罰金または科料に処する手続の開始を請求するものである。
 即決裁判の請求は,道路交通取締法令に違反する罪に係る事件につき,被告人の陳述をきいたうえ,適当と認める方法で取り調べた証拠資料にもとづいて即決裁判をする手続の開始を請求するものである。
 II-9表は,右の三方式に関する五年間の統計(この場合には道路交通取締法令の違反を含む)であるが,これによると,略式命令の請求が,全体の約八〇パーセントで,圧倒的に多いことがわかる。なお,即決裁判手続は,道路交通事件だけについてのもので,昭和二九年一一月から実施されたため,昭和二九年と昭和三〇年との両年は件数が少ないが,現在でも,道路交通取締法令違反事件のすべてが即決裁判手続によってまかなわれているわけではない。むしろ,大多数の事件は,略式命令の請求によって起訴されている。

II-9表 起訴手続の方式別人員と率

 略式命令請求または即決裁判請求の場合において,裁判所が,略式命令または即決裁判ができないもの,または,これをすることが相当でないものと認めるときは,職権により,事件を通常の裁判手続にうつす。また,略式命令または即決裁判に不服のある当事者は,略式命令の告知されまたは即決裁判の宣告された日から一四日以内に,正式裁判の申立をすることができ,この場合にも,事件は通常裁判手続にうつされる。
 略式命令請求または即決裁判請求が,このように通常の裁判手続にうつされる比率は,どの程度であろうか。昭和三三年の司法統計年報によると,II-9表に掲げる数字とやや異なるが,略式命令を請求をされた被告人の総数は,一,三九二,八五六人で,このうち正式裁判にうつされたものは九,四八八人(うち,正式裁判を申し立てたのが,八,八〇五人,職権によるもの六八三人)で,〇・六パーセントが通常の裁判手続にうつされている。また,即決裁判請求は,二四〇,八三一人で,このうち正式裁判にうつされたものは,一九八人(うち正式裁判の申立によるもの四八人,職権によるもの一五〇人)で,〇・〇八パーセントが通常の裁判手続に移されている。これによってみると,通常の裁判手続にうつされる場合がきわめて例外であることがわかる。