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 昭和35年版 犯罪白書 第一編/第二章/六/1 

六 交通犯罪

1 交通犯罪の種類

 交通犯罪は,交通に関連して発生する各種の過失事犯と,各種の交通規制法規に違反する罪との二つに大別される。これらの交通犯罪は陸海空の各交通について考えられるが,海空のはきわめて少ないので,陸上交通に限定した。
 まず,交通犯罪としての過失犯は,主として業務上過失傷害,業務上過失致死,重過失傷害,重過失致死として,つまり,生命身体に対する罪としてあらわれている。また,各種の交通規制の法規に違反する罪は,ほんらい純粋に技術的な行政規則の違反で,刑法上の犯罪とは本質を異にするとされている。たとえば,道路で歩行者に右側通行を求めるか左側通行を求めるかはまったく技術的な便宜で,これらに違反することは,もともと,人を殺したり,物を盗むなどといった刑法上の犯罪とは,明らかにその性質を異にする。これらの交通違反が罪とされるのは,交通規制つまり行政上の必要にもとづいてそれを実効あらしめるために法が刑罰的制裁をさだめているからであって,元来の性質上は犯罪たるべきものではないと考えられていた。
 この考え方は,今日も基本的には正当性を失っているとはいえない。しかし,ちかごろの主として都会地における交通事情はあまりにも悪化し,交通違反はすなわち交通事故の発生を意味するといっても過言でないありさまを現出しつつある。しかも,営利のために故意に交通法規を無視して違反する者も多数発生している。その結果,これらの交通法規違反のうちには刑法犯的な性質をもつ破廉恥罪というべきものもある。今日まで交通違反に罰金,科料などという財産刑のみが刑罰として科せられているのが多かったのは,行政罰則という伝統的な観念に支配された結果であろうが,いまの都会の交通事情と違反状況とからみて,それがはたして妥当であったかどうかが反省をせまられている。