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 昭和35年版 犯罪白書 第一編/第一章/二/7 

7 被害者側からみた犯罪原因

 いわゆる犯罪原因の研究の一環として,また,犯罪科学のあらたな分野として,最近において,いわゆるヴィクティモロジー(被害者学)が進出しつつある。この分野では,つぎのような問題がとりあげられる。第一に,犯罪者に犯罪をおこしやすいパソナリティがあるのとおなじように,被害者について,被害者となりやすいパソナリティの構造を明らかにすること。第二に,犯罪行動が,犯罪者を出力とし,被害者を入力とする相互作用である点に注目し,両者の人間関係を明らかにすること。第三に,犯罪行動をおこしやすい,すなわち被害をうけやすい物的諸条件を明らかにすること。このような問題を解明することによって,まず,犯罪の原因を一層明確にすることができるとともに,捜査上,容易に犯罪者の見当をつけ,犯罪者の処置を適正なものとすることができ,被害に対する補償や賠償についても,適確な資料を提供することができるであろうことが期待されている。そして,これに関し,犯罪者と被害者との直接の人間関係のうち,かなりふるくからとりあげられているのは,殺人にあらわれた近親者間の関係で,近親間の殺人を被害の誘因からみても,犯罪の発生が,犯罪者または被害者のどちらか一方の問題によるばかりでなく,両者の人間関係の結果であることが明らかにされている。