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 昭和35年版 犯罪白書 第一編/第一章/二/5 

5 素質と環境のダイナミックス(双生児研究)

 犯罪の要因と考えられる素質と環境との種類は,これまで述べてきたところからも明らかなように,ほとんど無限といってよいほど数が多い。従来の研究の多くは,そのうちのおもな要因または要因群について,それぞれの専門的立場から究明してきたが,素質と環境の相互作用を発展的かつ力動的に,しかも,もっとも純粋にコントロールされた条件のもとで研究する方法として発達したのが,双生児研究法である。これは,等素質と考えられる一卵性双生児と,異素質と考えられる二卵性双生児を選んで比較するのであるが,双生児の一方または双方が犯罪に陥っている場合が,比較の対象となる。この方法は,一卵性双生児における高度の犯罪一致率と,二卵性双生児における不一致率とを示すことによって,遺伝素質の意義を強調しようとしたものであるが,一卵性双生児における不一致と,二卵性双生児における一致は,逆に環境の役割をも明らかにするものであって,ただ単に一致率,不一致率を推計学的に検討するよりも,素質と環境との関連性を明らかにするうえにすぐれた方法とされている。この方法は,ドイツの精神医学者ランゲによってはじめられたもので,わが国では吉益博士によって紹介され,すぐれた業績がかさねられている。

I-33表 双生児犯罪者の犯罪一致数