刑法犯の認知件数は、令和4年から3年連続で増加し、6年は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大前である元年の98.5%の水準に達した。少年による刑法犯の検挙人員は、元年よりも13.8%増加した。特別法犯を含む個別の犯罪を見ても、児童虐待に係る事件、ストーカー規制法違反、サイバー犯罪、特殊詐欺、大麻取締法違反等の検挙件数が増加傾向にある。犯罪被害の動向の側面から見ても、人が被害者となった刑法犯の認知件数は、令和4年以降増加している。言うまでもなく、犯罪被害については、警察等の公的機関に認知されていない犯罪の件数(暗数)もあり、我が国の犯罪情勢、それと表裏の関係にある犯罪被害の情勢は引き続き予断を許さない状況にある。
このような状況の中、令和7年6月1日、懲役及び禁錮を廃止し、拘禁刑を創設する刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第67号)が施行された。刑の種類の変更は、明治40年の刑法制定以来となる。改正後の刑法においては、拘禁刑の目的が受刑者の改善更生にあることが明記された。この目的の実現のため、刑事施設において、個々の受刑者の特性に応じた矯正処遇や社会復帰支援の充実等を図っている。受刑者の改善更生・再犯防止に向けた取組は、同時に、新たな犯罪被害者を生まないための取組である。
様々な犯罪等に巻き込まれた犯罪被害者は、犯罪等による直接的な被害だけでなく、副次的な被害にも苦しめられることが少なくない。政府は、犯罪被害者等の視点に立った施策を講じ、その権利利益の保護が図られる社会の実現に向け、平成16年12月、犯罪被害者等基本法(平成16年法律第161号)を制定した。そして、同法に基づき、犯罪被害者等基本計画を策定し、犯罪被害者等のための施策を進展させており、令和3年3月には、第4次犯罪被害者等基本計画を策定した。
同計画において、法務省は、性犯罪被害者、障害者等の犯罪被害者の特性に応じた被害実態の調査・分析を実施する方向での検討も含め、犯罪被害の動向及び犯罪被害者等施策に関する調査を実施することとされた。そこで、法務総合研究所では、同計画に沿って、令和5年、精神障害を有する者の性犯罪被害の実態を具体的に明らかにするため、精神障害を有する者等の性犯罪被害について、刑事事件の確定記録調査を実施した。そして、6年には、犯罪被害の動向等を明らかにするため、一般国民を対象としたアンケート調査である犯罪被害実態(暗数)調査を実施した。本白書では「犯罪被害の実態(犯罪被害の暗数と精神障害を有する者等の性犯罪被害)」と題して特集を組み(第7編)、我が国における近年の犯罪被害の動向、犯罪被害者等施策の取組の現状等を紹介するとともに、両調査の結果を踏まえ、我が国における犯罪被害の実態等に関して総合的に考察し、犯罪被害者等の支援の在り方等について留意すべき点の検討を行った。
本白書の令和6年を中心とする最近の犯罪動向と拘禁刑の導入に係る体制整備を含む犯罪者処遇の実情を扱った部分が、犯罪情勢の定点観測を行い、刑事司法制度に対する理解を深めるための素材として、効果的な刑事政策の立案の基盤となるとともに、特集部分が、犯罪被害の実態のより正確な把握や、犯罪防止対策・被害者支援施策の充実・強化のための方策を検討する上での基礎資料として、広く活用されれば幸いである。
終わりに、前記犯罪被害実態(暗数)調査に御協力を頂いた国民の皆様に心より謝意を表する次第である。また、本白書の作成に当たり、最高裁判所事務総局、内閣府、警察庁、総務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、国土交通省その他の関係各機関から多大な御協力を頂いたことに対し、厚く御礼を申し上げる。
令和7年12月
法務総合研究所長 森 本 加 奈