少年による刑法犯の検挙人員は、平成16年以降減少し続け、令和4年は19年ぶりに前年と比較して増加したものの、前々年と比較すると減少しているほか、少年人口比で見ても、最も高かった昭和56年と比較すると、令和4年では約7分の1となっているなど、中長期的に見ると、同検挙人員は減少傾向にある。しかし、少年による凶悪重大な事件や、非行に及んだ動機等が不可解な事件など、近年においても社会の耳目を集めるような事件は後を絶たないほか、少年院出院者の5年以内再入院・刑事施設入所率は、近年おおむね横ばい(20%台前半)で推移しているなど、少年非行をめぐる情勢については、決して楽観視できる状況にはない。また、昭和期以降を見ても、各時代の社会情勢や世相(以下「社会情勢等」という。)の変化に伴い、少年非行についても、その時々で量的にも質的にも変化を繰り返しており、今後、現在の情勢が更に変化していくことも十分想定される。加えて、我が国では、戦後、少年法等が全面改正され、少年の健全な育成を期した処遇等が展開されているところ、この少年法制についても、少年非行や社会情勢等の変化に合わせ、非行少年の処遇等をめぐる制度改正が繰り返されてきたものであり、今後の制度改正等の在り方を検討するに当たっても、少年非行の動向等については、引き続き注視していく必要がある(戦後の少年法制の変遷や少年による刑法犯及び特別法犯の動向については、本編第2章参照)。
一方、犯罪をした者等に対する指導及び支援の在り方については、再犯防止推進法によると、「犯罪又は非行の内容、犯罪及び非行の経歴その他の経歴、性格、年齢、心身の状況、家庭環境、交友関係、経済的な状況その他の特性を踏まえて行うものとする」(同法11条1項)とされ、その特性を踏まえた多角的な観点からの指導及び支援が欠かせない。取り分け、非行少年については、例えば、少年院法において、「在院者の処遇に当たっては、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的知識及び技術を活用するとともに、個々の在院者の性格、年齢、経歴、心身の状況及び発達の程度、非行の状況、家庭環境、交友関係その他の事情を踏まえ、その者の最善の利益を考慮して、その者に対する処遇がその特性に応じたものとなるようにしなければならない」(同法15条2項)とされているなど、その特性に応じた処遇の重要性等が明記されている。
非行少年の特性に関し、法務総合研究所では、これまで平成2年、10年、17年、23年及び令和3年の計5回にわたり、少年鑑別所入所者等に対する生活意識と価値観に関する特別調査を実施しており、それぞれ平成2年版、10年版、17年版、23年版及び令和4年版犯罪白書等において分析結果等を紹介した。これらにより、非行少年等の生活意識や価値観という主観面からその特性について把握することを試みてきたが、他方で、非行少年の主観面の形成に対しては、保護者との関係やその経済状況といった生育環境が少なからず影響を与えていると考えられるところ、それら生育環境と関連付けて非行少年の特性を理解するための知見については、これまで十分に明らかにされてきたとは言い難い。
この点、非行少年の生育環境について概観すると、例えば、少年院在院者のうち保護者が父又は母の一方である世帯の比率は、全国の同様の世帯の比率と比べて顕著に高いほか、少年院入院者のうち男子の約4割、女子の約7割が保護者等からの被虐待経験を有している(3-2-4-8図参照)など、非行少年の背景には厳しい生育環境があることもうかがえる。そこで、法務総合研究所では、非行少年の生育環境に着目し、その違いから非行少年の特性について分析することが必要かつ有益であると考え、少年院在院者及び保護観察処分少年並びにその保護者を対象として特別調査(以下この編において「特別調査」という。)を実施した。
本特集では、まず、現代の少年非行の実情について理解を深める前提として、少年法制等に係る歴史的な経緯・動向のほか、少年を取り巻く社会情勢等の変遷・変化などについて概観する。その上で、特別調査における分析結果等から明らかになった非行少年とその生育環境に関する特徴等、非行少年の特性を踏まえた効果的な処遇を検討する上で有益な基礎資料を提供することを目指した。本編の構成は、以下のとおりである。
第2章においては、非行少年への対応をめぐり、戦後少年法制の変遷を概観するとともに、戦後の少年非行の大まかな傾向について概観する。少年法制については、少年法に加え、保護処分を執行する関係機関等を規律する法令等の変遷についても紹介し、戦後の少年非行の大まかな傾向については、少年による刑法犯及び特別法犯の検挙人員の推移や年代ごとの特徴等を紹介する。
第3章においては、各種統計資料等に基づき、少年を取り巻く生育環境や生活状況の変化を概観する。ここでは、取り分け、家族の形態・状況の変化を見るため、平均世帯人員や婚姻・離婚等件数のほか、児童虐待相談対応件数の推移等について紹介するとともに、少年の生活状況の変化の一例としてテレビ・インターネット利用率の変化等について紹介する(なお、令和4年版犯罪白書第8編第2章「近年の社会情勢や国民の意識の変化」において、少年を取り巻く生育環境や生活状況の変化・推移等に関連する項目も取り上げている。)。
第4章においては、各種統計資料等に基づき、刑事司法の各段階における昨今の少年非行の動向等について、第3編で取り上げた内容を更に深掘りして紹介する。具体的には、刑法犯及び特別法犯に係る罪名別検挙人員の推移、少年審判における終局処理人員の推移、少年院入院者及び保護観察処分少年の非行名や保護者状況等の推移等について紹介する。
第5章においては、特別調査の分析結果を踏まえ、非行少年(少年院在院者及び保護観察処分少年)と一般の少年(他機関等が実施した調査結果)との比較のほか、生育環境の違い、すなわち、世帯状況の違い、経済状況の違い及び小児期逆境体験(Adverse Childhood Experiences。以下本編において「ACE」という。)の有無に係る三つの視点から比較・分析を行った結果等について紹介する。
以上を踏まえ、第6章において、現代の非行少年の特性等を踏まえた処遇の更なる充実に向けた課題や展望等について総括する。