自動車損害賠償保障法(昭和30年法律第97号)は、自動車の運行によって人の生命又は身体が害された場合における損害賠償を保障する制度を確立することにより、被害者の保護を図ることなどを目的としている。自動車損害賠償保障制度の中核となっているのは、自動車損害賠償責任保険及び自動車損害賠償責任共済(以下この項において「自賠責保険等」という。)である。
さらに、自賠責保険等を補完するものとして、政府が行っている自動車損害賠償保障事業がある。これは、加害者を特定できない「ひき逃げ事故」や有効な自賠責保険等が締結されていない「無保険」(無共済を含む。以下この項において同じ。)の自動車による事故の場合には、自賠責保険等による救済を受けられないため、政府が被害者に対して損害額をてん補するものであり、その保障金は、同事業が行う損害のてん補の基準に基づき支払われる。令和4年度の自動車損害賠償保障事業による保障金は、ひき逃げ事故について206人、無保険車による事故について69人に支払われた。支払額は、死亡者一人当たり平均約1,583万円、負傷者一人当たり平均約69万円であった(国土交通省自動車局の資料による。)。
なお、政府においては、自動車損害賠償保障事業のほか、自動車事故対策事業として、被害者支援及び事故防止に関する事業を実施しており、これまで有限の積立金を財源に、「当分の間」実施することとされていたものであるところ、令和4年6月、自動車損害賠償保障法及び特別会計に関する法律の一部を改正する法律(令和4年法律第65号)により、同事業が「被害者保護増進等事業」として新たに位置付けられた。これにより、自動車損害賠償保障事業と被害者保護増進等事業を、一体として新たな自動車事故対策事業として実施することとし、その財源として賦課金が拡充するなど、安定的・持続的に事業を実施できる仕組みへの転換が図られた(5年4月1日全面施行)。