平成元年(1989年)にG7サミットの宣言を受けて設立された金融活動作業部会(FATF:Financial Action Task Force)は、平成2年(1990年)にマネー・ローンダリング対策に関する40の勧告(平成8年(1996年)及び平成15年(2003年)に改訂)を、平成13年(2001年)にテロ資金供与に関する8の特別勧告(平成16年(2004年)に改訂され、9の特別勧告となった。)をそれぞれ採択し、平成24年(2012年)には、大量破壊兵器の拡散、公務員による贈収賄や財産の横領等の脅威にも的確に対処することなどを目的として、従来の40の勧告及び9の特別勧告を一本化し、新「40の勧告」を採択した。
我が国も、FATF参加国の一員として、犯罪収益移転防止法に基づき、金融機関等の特定事業者による顧客の身元等の確認や疑わしい取引の届出制度等の対策を実施し、国家公安委員会が疑わしい取引に関する情報を外国関係機関に提供するなどしているほか、金融庁が共同議長を務めるFATFの政策企画部会やその他の作業部会において、暗号資産を始めとする新たな規範の策定及びその実施に向けた議論・検討において主導的な役割を果たすなどしており、マネー・ローンダリング対策及びテロ資金供与対策における国際的な連携に積極的に参加している。
FATFは、各国における勧告の遵守状況の相互審査を行っている。令和3年(2021年)6月には、FATFの全体会合において、第4次対日相互審査報告書が採択され、同年8月30日に公表された。国内では、同報告書で指摘された事項に対応するべく、同月にマネロン・テロ資金供与・拡散金融対策政策会議が設置され、「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の推進に関する行動計画」が策定され、同行動計画に基づき、令和4年(2022年)5月に「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の推進に関する基本方針」が決定された。同基本方針では、我が国を取り巻くリスク情勢と我が国のマネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の方向性を確認することで、一層の関係省庁間の連携強化を図り、対策の効果を高めていくこととしている。
さらに、令和4年(2022年)12月には、前記FATF第4次対日審査報告書において、資産凍結措置の強化、暗号資産等への対応の強化及びマネー・ローンダリング対策等の強化のための法改正に取り組むべきであると勧告を受けたことなどを踏まえた、いわゆるFATF勧告対応法(令和4年法律第97号)が成立し、<1>国際連合安全保障理事会決議第1267号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法(平成26年法律第124号)の改正により、大量破壊兵器関連計画等関係者について財産の凍結等の措置の対象とされるなどし(令和5年(2023年)6月1日施行)、<2>外国為替及び外国貿易法(昭和24年法律第228号)の改正により、電子決済手段等取引業者等に顧客の本人確認義務及び資産凍結措置に係る確認義務が課されるなどし(令和6年(2024年)4月1日までに段階的に施行)、<3>組織的犯罪処罰法及び麻薬特例法の改正により、犯罪収益等隠匿罪、薬物犯罪収益等隠匿罪等の法定刑が引き上げられるとともに、犯罪収益等として没収することができる財産の範囲を拡大し(令和4年(2022年)12月施行)、<4>公衆等脅迫目的の犯罪行為等のための資金等の提供等の処罰に関する法律(平成14年法律第67号)の改正により、各処罰規定について、国際的に保護される者を殺害する行為その他の一定の犯罪行為のための資金等の提供等が処罰対象に加えられるとともに、法定刑が引き上げられ(令和4年(2022年)12月施行)、<5>犯罪収益移転防止法の改正により、<ア>外国為替取引及び電子決済手段の移転に係る通知事項に支払又は移転の相手方の本人特定事項等を加えるなどの規定が整備されたほか、<イ>法律・会計等の専門家が顧客等との間で特定取引を行う際の確認事項に取引目的等の事項が追加されるとともに、これらの専門家が行う疑わしい取引の届出に関する規定が整備された(<ア>については令和5年(2023年)6月1日、<イ>については令和6年(2024年)6月までにそれぞれ施行)。