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令和5年版 犯罪白書 はしがき

はしがき

平成27年以降戦後最少を更新し続けてきた刑法犯の認知件数は、令和4年、20年ぶりに前年を上回った。新型コロナウイルス感染症の影響もあり、刑法犯認知件数は、令和2年に大きく減少し、3年もこれに引き続き減少しており、人々の生活が日常に戻りつつあった4年は、その揺り戻しにより増加した可能性が考えられるものの、今後いかなる推移をたどるのか注視が必要である。個別の犯罪について見ると、児童虐待に係る事件、配偶者からの暴力事案等、サイバー犯罪、特殊詐欺等は、検挙件数が増加傾向又は高止まり状態にあるほか、大麻取締法違反は、若年層を中心に検挙人員が増加傾向にあるなど、我が国の犯罪情勢は予断を許さない状況にある。出所受刑者全体の2年以内再入率は、低下傾向にあり、令和3年の出所受刑者の2年以内再入率は過去20年で最も高かった平成17年の3分の2を下回る水準となったが、満期釈放等による出所受刑者の再入率は仮釈放による出所受刑者よりも相当に高い状態で推移しているなど、再犯防止対策の更なる充実強化が求められる。

少年非行に目を移すと、少年による刑法犯の検挙人員は、長らく大幅な減少が続いていたが、令和4年は19年ぶりに前年から増加した。少年による凶悪重大な事件、非行に及んだ動機が不可解な事件など、近年でも社会の耳目を集めるような少年事件は後を絶たず、少年院出院者の5年以内再入院・刑事施設入所率は近年おおむね横ばいで推移しているなど、少年非行をめぐる情勢についても、決して楽観視できる状況にはない。

政府は、令和5年3月、第二次再犯防止推進計画を閣議決定し、その中で、第一次の同計画に引き続き犯罪をした者等の特性に応じた効果的な指導の実施等を重点課題として位置付けており、少年についても、その特性に応じた処遇を充実すべき必要性は高い。法務総合研究所は、これまで数次にわたり非行少年等を対象としてその生活意識や価値観に関する調査・分析を実施してきたところ、生活意識や価値観といった非行少年の主観面の形成に対しては、保護者との関係やその経済状況といった生育環境が少なからず影響を与えていると考えられることから、それら生育環境と関連付けて非行少年の特性を理解することが重要と考え、本白書では、「非行少年と生育環境」と題して特集を組むこととし(第7編)、少年法制等の変遷、少年を取り巻く生育環境等の変化、昨今の少年非行の動向等について概観・分析するとともに、非行少年及びその保護者を対象として実施した特別調査の結果を分析し、非行少年の生育環境等に関する特徴を明らかにし、今後の指導や支援の在り方、再非行防止対策の在り方等について検討した。

令和4年を中心とする最近の犯罪動向と犯罪者処遇の実情を扱った本白書のルーティーン部分が、犯罪情勢の定点観測を行うための素材として、効果的な刑事政策の立案の基盤となるとともに、特集部分が、非行少年とその生育環境の特徴を踏まえた再非行防止対策等に関する様々な問題を検討する上での基礎資料として、広く活用されれば幸いである。

終わりに、本白書の作成に当たり、最高裁判所事務総局、内閣府、警察庁、総務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、国土交通省その他の関係各機関から多大な御協力を頂いたことに対し、改めて謝意を表する次第である。


令和5年12月


法務総合研究所長 瀬戸 毅