我が国の犯罪情勢は、刑法犯の認知件数が令和3年も戦後最少を更新するなど、全体としては改善傾向が続いている。しかし、個別に見ると、児童虐待に係る事件、配偶者からの暴力事案等、サイバー犯罪、特殊詐欺等は、検挙件数が増加傾向又は高止まり状態にあるほか、大麻取締法違反は、若年層を中心に検挙人員が増加し続けているなど、予断を許さない状況にある。出所受刑者全体の2年以内再入率は、低下傾向にあり、令和2年の出所受刑者の2年以内再入率は前年に引き続き16%を下回ったが、満期釈放等による出所受刑者の再入率は仮釈放による出所受刑者よりも相当に高い状態で推移しており、再犯防止対策の更なる充実強化が求められる。
このような状況の中で、令和3年は、2年に引き続き、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により我が国の国民生活・経済・社会が大きな変容を余儀なくされたところ、同感染症が我が国の犯罪動向・犯罪者処遇に与えた影響等については、今後の犯罪予防や犯罪者処遇の在り方を検討するに当たり、できる限り明らかにしておくことが望ましい。そこで、本白書では、「新型コロナウイルス感染症と刑事政策」と題して特集を組み(第7編)、刑法犯や注目すべき犯罪について、月別の犯罪動向や関係する指標との対比を見るなどして同感染症感染拡大下における犯罪動向を分析するとともに、検察、裁判、矯正及び更生保護の各段階において、処遇の現状や各施設における同感染症対策を概観するなどし、同感染症が我が国の犯罪動向・犯罪者処遇に与えた影響等についての分析を試みた。
また、平成29年に閣議決定された再犯防止推進計画では、犯罪をした者等の特性に応じた効果的な指導の実施等が重点課題として位置付けられるなど、犯罪者・非行少年の特性に応じた処遇の重要性がより一層高まっており、犯罪・非行の動向等の客観的指標に加え、犯罪者・非行少年の生活意識や価値観という主観的な部分についても、それぞれの特性を十分に把握する必要がある。法務総合研究所は、これまで少年鑑別所に観護措置によって入所した少年等を対象として、その生活意識や価値観について調査・分析した結果を紹介してきたところ、幅広く犯罪者・非行少年について調査・分析を行う重要性から、本白書では、「犯罪者・非行少年の生活意識と価値観」と題して特集を組み(第8編)、犯罪や非行に至った原因やその再発にまつわる要因等に焦点を当て、関連する社会情勢の変化や、犯罪者等の動向などを概観するとともに、犯罪者・非行少年の生活意識や価値観に関する特別調査の結果を分析して、その特徴を明らかにし、今後の指導や支援の在り方、再犯防止対策の在り方等について検討した。
令和3年を中心とする最近の犯罪動向と犯罪者処遇の実情を扱った本白書のルーティーン部分が、犯罪情勢の定点観測を行うための素材として、効果的な刑事政策の立案の基盤となるとともに、各特集部分が、新型コロナウイルス感染症を始めとする感染症の感染拡大等の社会問題が生じた場合における新たな刑事政策の在り方や、犯罪者・非行少年の特性を踏まえた犯罪予防・再犯防止対策等に関する様々な問題を検討する上での基礎資料として、広く活用されれば幸いである。
終わりに、本白書の作成に当たり、最高裁判所事務総局、内閣府、警察庁、総務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、国土交通省その他の関係各機関から多大な御協力を頂いたことに対し、改めて謝意を表する次第である。
令和4年12月
法務総合研究所長 上冨敏伸